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2016/2/7
ハリウッド・ビジネスPicks!では、電通エンタテインメントUSAに勤務するIanとYuichiが話題のメディア・コンテンツ関連のニュースを解説付きでお届けする。
㈱電通にて大手飲料・製薬メーカー担当営業、コンテンツ部門海外事業担当を経て現職。欧米企業との共同出資によるアニメーション製作や、中国大手メディア企業とのバラエティ番組共同製作に携わる。渡米後は日本アニメーションの北米展開に加え、現在は日本原作を活用したテレビ番組の企画開発に取り組んでいる。慶応義塾大学総合政策学部卒、AFI(アメリカ映画協会)付属大学院にて修士号取得(プロデュース専攻)。

電通で大手飲料・製薬メーカー担当営業、コンテンツ部門海外事業担当を経て現職。欧米企業との共同出資によるアニメーション製作や、中国大手メディア企業とのバラエティ番組共同製作に携わる。渡米後は日本アニメーションの北米展開に加え、現在は日本原作を活用したテレビ番組の企画開発に取り組んでいる。慶應義塾大学総合政策学部卒、AFI(アメリカ映画協会)付属大学院にて修士号取得(プロデュース専攻)

モルガンスタンレー(米国・豪州・日本)にて金利スワップトレーディング業務に従事後、コンテンツ業界にキャリアチェンジ。ハリウッド大手タレントエージェンシー「Gersh」勤務を経て現職。バブソン大学卒(金融・アントレプレナーシップ専攻)、AFI(アメリカ映画協会)付属大学院にて修士号取得(プロデュース専攻)。

モルガン・スタンレー(米国・豪州・日本)にて金利スワップトレーディング業務に従事後、コンテンツ業界にキャリアチェンジ。ハリウッド大手タレントエージェンシー「Gersh」勤務を経て現職。バブソン大学卒(金融・アントレプレナーシップ専攻)、AFI付属大学院にて修士号取得(プロデュース専攻)

【1st Pick】映画祭史上最高額の超話題作は、なぜネットフリックスを蹴り、Foxを選んだのか?

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原文:The Hollywood Reporter

〈原文記事の要約〉
1月31日に終了したサンダンス映画祭で、黒人奴隷の反抗を描いた歴史長編映画『The Birth of a Nation』(ネイト・パーカー監督/製作)がフォックスサーチライトに1750万ドル(約20億円)で購入された。これはカンヌやベルリンといった全映画祭の歴史を通じて最高額であり、来年のアカデミー賞の有力候補に躍り出た。

フォックスのほかに、ワインスタインカンパニー、ソニー、ネットフリックスを含む複数社が競合し、中でもネットフリックスはフォックスを上回る2000万ドル(約24億円)を提示したといわれる。

しかし監督/製作のパーカー氏はネットフリックスが固執する映画とネット配信の同日上映開始のプランではなく、あくまで劇場公開を主とするフォックスのプランが自らの考えにも沿っていると考えた。パーカー氏が望む全米の高校や大学での映画上映を受け入れるなど、フォックスこそが映画をより理解している、と感じたようだ。

〈Yuichiのコメント〉
年末年始はスター・ウォーズ一色だった業界紙を久々に騒がせたニュース。

サンダンス映画祭とは、1978年にユタ州で開始された最も影響力のあるインディペンデント映画の見本市で、クエンティン・タランティーノやダーレン・アロノフスキーといった著名監督もこの映画祭でブレイクした(詳細はIanが後述)。

ちなみにインディペンデント映画とは、いわゆる大手スタジオ(ワーナー・ユニバーサル等)が企画段階から製作出資を決めた映画ではなく、投資家や銀行等から集めた資金で製作した映画のことを指す。予算規模は数千万円から、多くても20億円程度である。

『The Birth of a Nation』も監督/製作のパーカー氏が10万ドルの自己資金を元手に全米を回り、NBAスタープレイヤーなど10数組の投資家から集めた1000万ドル(12億円)で製作した作品である。

私がこの記事で注目したのは2点ある。

1つはネット配信全盛時代にあり、おカネを詰まれたとしても、長編映画に関してはやはりクリエイターは映画館での全米ロードショーを望んでいるということ。

これは、単純により大きなスクリーンで作品を流したいということに加え、現状ではネットフリックスが目指す劇場公開とネット配信の同日開始にまつわる問題がある。

昨年ネットフリックスが購入した『Beasts of No Nation』という作品は前評判も非常に高く、ネットフリックスが劇場公開とネット配信の同日開始を狙ったものの、大手劇場チェーンが上映をボイコット。結果ミニシアターでの公開にとどまり、映画の価値を下げる結果になってしまった、との意見も見られる。
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もう1つはアメリカの映画業界の底力だ。

いくつかの映画の脇役にしかすぎなかった無名俳優が12億円を集め、映画祭で喝采を浴び、その瞬間から大金が動くマネーゲームが始まる。元記事にはその様子がダイナミックに描かれている。

上映後の夜の11時にフォックス、その後深夜0時にはワインスタイン・カンパニー(ミラマックスの創始者が設立した映画会社)がパーカー氏とその代理人たちに対して映画の配給・マーケティング案をプレゼン。その後朝の5時まで両者の入札が続き、結果フォックスが勝利した。

そのサクセスストーリーにも感銘を受けるが、実は本作品が圧倒的な支持を集めたのにはもう一つの理由がある。それは、日本でも報道されているアカデミー賞の人種差別問題(#OscasSoWhite)だ。

『The Birth of a Nation』はいわゆるブラックフィルム。プロデューサー、監督、俳優もほぼ黒人である。白人しか受賞候補にならないメインストリームのアカデミー賞に対して、インディペンデントの最高峰サンダンスでは本作品にグランプリと観客賞が授与された。アメリカ映画業界の自浄作用とも言えるが、この話題性を利用して配給会社が一儲けを企むのもまたこの国らしい。

【2nd Pick】ネットフリックスとアマゾンがサンダンス映画祭に与えた影響

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原文:The Hollywood Reporter

〈原文記事の要約〉
昨年のサンダンス映画祭で、ネットフリックスとアマゾンは合わせて1本の映画しか購入しなかった。しかし今年彼らは12本を購入し、映画祭全体の価格高騰を招いた。両社の参入によって、長編映画のビジネスに劇場公開を前提としない、ネット配信(SVOD)を中心としたパラダイムシフトが起き始めている。伝統的な大手配給会社までも、ネット配信向けの作品買い付けに動き始めた。

〈Ianのコメント〉
毎年1月下旬、ハリウッド関係者はクローゼットから冬物コートとスキー用具を取って、サンダンス映画祭が開催されるユタ州パークシティ市へ向かう。監督、俳優、エージェント、マネージャー、製作会社の幹部などが、新作のプレミア(初上映会)に出席するか、新しいタレントをスカウトすることが目的だ。

サンダンス映画祭とその主催者であるサンダンス・インスティチュートは多くのフィルムメーカーと俳優のキャリアの基点となった。新人のフィルムメーカーほぼ全員、サンダンス映画祭での上映を目指す。近年1万2000本以上(長編4000本、短編8000本程度)の映画が応募されるが、わずか190本程度しか上映されない。

サンダンス映画祭のインディペンデント映画業界への影響は測定不可能なほど大きい。「サンダンス映画」という新しいジャンルを生み出したほどだ。内容は社会的に話題性があり意味のあるアウトサイダーものが多い。

過去に多くの映画がサンダンスで配給会社に購入された。時に高値で。その中から幾つかは大ヒットを記録した。しかし、近年のサンダンス映画祭は業界での地位が低下していた。主な「サンダンス映画」は公開されても儲からないため購入価格が低く、おおむね製作費以下だった。

しかし今年、サンダンスは復活したといわれている。それは記事にある通り、アマゾンとネットフリックスのおかげだ。アマゾンとネットフリックスはおカネがある。両社はオリジナル作品の製作をスタートしたが、出来上がるまで時間がかかる。その間は加入者専用コンテンツが必要なため、今年のサンダンスで買いあさった。これが購入価格を記録的なレベルに上げた理由だ。

なお最後に、Yuichiのコメントに補足したい。オスカーに見られる映画業界の多様性の欠如問題に関して足りないのはアジア人の声だと思う。現在の議論は主に黒人とラテン系の不足に集中しているが、実はアジア人はもっと少ない。

今からこの運動に参加しないと、数年後にも米国の映画・テレビ製作者、出演者の比率は変わらない。サンダンス・インスティチュートはこの問題を把握してアジア人専用のプログラムを去年創設した。これからアメリカで活躍できるアジア人が増えることを期待したい。

業界紙「Variety」の表紙に掲載された漂白されたオスカー像と「SHAME ON US」のメッセージ。USには「私たち」と「アメリカ」の両方の意味がかかっている。

業界紙「Variety」の表紙に掲載された漂白されたオスカー像と「SHAME ON US」のメッセージ。USには「私たち」と「アメリカ」の両方の意味がかかっている。

(写真:trekandshoot/iStock.com)