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「ViVi」でファッションライターとして活躍、ギャル、109ブームなど数々のブームを仕掛ける。「GLAMOROUS」の創刊メンバーとして参加し、ファッションディレクターに就任。アラサーブームを生み出す。コンデナスト・ジャパンに入社後、「GQ JAPAN」編集長代理、「VOGUE girl」クリエイティブ・ディレクターをつとめ、2014年より「Numero TOKYO」エディトリアル・ディレクターを務めると同時に自身の会社「gumi-gumi」を立ち上げる。雑誌の他にも、ファッションコンサルティング、講演など活動は多岐にわたる。

「ViVi」でファッションライターとして活躍、ギャル、109ブームなど数々のブームを仕掛ける。「GLAMOROUS」の創刊メンバーとして参加し、ファッションディレクターに就任。アラサーブームを生み出す。コンデナスト・ジャパンに入社後、「GQ JAPAN」編集長代理、「VOGUE girl」クリエイティブ・ディレクターをつとめ、2014年より「Numero TOKYO」エディトリアル・ディレクターを務めると同時に自身の会社「gumi-gumi」を立ち上げる。雑誌のほかにも、ファッションコンサルティング、講演など活動は多岐にわたる

予測の3つのポイント

・ブランドのコレクションは「流行」より「時代のマインド」を反映するように。

・ミニマルなファッションはますます拍車がかかる。

・シェアリングエコノミーの流れはファッション界にも。

進化する人と沈む人

2010年代、ファッション業界は大きく変化しました。クリス・アンダーソンの言うところの「21世紀の産業革命」と呼ばれるものがファッション界にも一気にやってきたのです。

単純に言えば、つくる、売る、買う、伝える。ファッション産業のすべてのパーツにおいてデジタル化は大きなインパクトをもたらしました。

同時に2011年の震災をはさんで、国内の消費のマインドは大きく変化し、物欲の急速な低下と所有からシェアという発想へ、その方向性を変え始めています。

「2015年はつくる、売る、買う、伝える」の新しい方向性が出そろった年と位置付けてもいいでしょう。あらゆる側面でシステムの崩壊が始まった年とも言えます。

それを受けて、2016年のファッション界は前進する人と、沈む人の分化がはっきりしてくる年になるのではないかと思っています。

「なんでもあり!」なマインド

ブランドが発表するコレクションを見ていても、そこに一貫した流行は存在しません。かつてはパリ、ミラノのコレクションが発表されると雑誌などで「今年の春は○○が来る!」というような特集が組まれました。

かくいう私も20年来、そういう流行予測をファッション編集者としてやってきました。しかし、マストレンドが消滅している時代に、それはまったく通用しなくなりました。

それよりも、ショーから読み解くのは時代のマインド的なものです。

今シーズン、そういう意味で話題になったのは、GUCCIでした。前シーズンからクリエイティブディレクターがアレッサンドロ・ミケーレに代わり、レース、プリント、刺繍に、ださメガネ、となんでもありなカオス感。

最近のノームコア(ノーマル+ハードコアの造語)ブームへの反抗にも見えます。流行をつくるというより、常識を超えたファッションの楽しさを伝える。これがブランドの役割なのかもしれません。この「なんでもあり!」なマインドは、2016年のひとつのテーマだと思います。

これからはプレミアムベーシック

2015年に最も売れた本が『フランス人は10着しか服を持たない』(ジェニファー・L・スコット著、大和書房)でした。

ノームコアもまた、シンプルに生きるためのキーワードです。これは一時の流行ではありません。

物欲なき世界』(菅付雅信著、平凡社)にもあるように、成熟して、不足感のない社会では、新しくモノを買うことだけが善ではないのです。

断捨離が流行ったように、荷物を捨て、シンプルに、自分らしく着こなす。ミニマルなファッションはますます拍車がかかるだろうと思います。

最近調子がいいファッション雑誌の共通項は、「無理をせずにおしゃれに見せる」ことです。ベーシックをちょっとだけグレードアップする、プレミアムベーシック。手頃だけど素材がいい、ちょっとリッチにワンポイントでグレードアップ。そういうファッションが常態化していきます。

ですので、今後、中間層の服をつくっているブランドは、より厳しい淘汰を受けるでしょう。ブランドの存在意義、ユーザーを見据えたモノづくりができていないブランドは存続できません。今後ますますブランドの縮小、消滅は避けられないと思います。

ブランド主義から価値主義へ

先日、「大人のランドセル」の記事をPickしました。

職人の手でつくられたランドセルは10万円と高値ですが、ウェブで丁寧に語られた価値は、値段を上回ります。売り出せば即日完売なのも納得です。バブル時のブランド主義のように、自分を価値付けるためにブランドにこだわるのは前時代的です。

今はその人の選択の賢さが価値になります。高いものが偉い、のではなく、自分なりの基準で選ばれたモノが、その人にとってのブランドになると思います。

また一方で、個人の手づくりマーケットも広がっています。手づくりマーケットアプリ「minne」など、スマホ上でマッチングして売買されるお手製アイテムたちがあります。

また実店舗でも、手づくりショップはワークショップなどを開催して盛り上がりを見せています。単に既製品を買うのではなく、ものをつくるという体験を売っているのです。

人とかぶりがちなファストファッションよりも“自分だけのもの”を見つけることが、ますますトレンドになりそうです。

ガールズ系エシカルファション

大学生のエシカル活動家、鎌田安里紗さんはファストファッションがつくられる背景を学び、フェアトレードやオーガニック素材を使った商品開発をしています。

最近の20代はこういったエシカル(倫理的)意識の高い子が増えています。

安かろう悪かろうではなく、商品のつくられる背景を理解し、吟味して買いたいと思うのは大人だけではない。2016年はそういうエシカルファッションがガールズ市場にも広がっていきそうです。

ノンジェンダーのブランド

ジェンダーレス、ジェンダーフリーと言われるように、すべてのボーダーが曖昧になっていく21世紀。男女の2択ではなく、メンズ、レディスでもない、性差がないブランドが続々登場してくるでしょう。

JUNが今年の春からスタートさせるilk(イルク・アダム エ ロペ)では「ジェンダーを第一のアイデンティティではなく、自分自身の指向性こそがアイデンティティ」とうたっています。このように、メンズ、レディスを超えた、性でセグメントされないブランドが増えていくと見ています。

フリマアプリが起こした変革

メルカリやフリルのようなフリマアプリが起こした変革は、新しい=偉い、という意識を変えたことです。

原宿では古着がブームです。特に1990年代のYoji Yamamotoやコム・デ・ギャルソンなどは高値で流通しています。

洋服の価値が新しさやトレンドではなく、「その服を欲しいという人がどれだけいるか」に変わってきたということです。時間軸も超えて、価値を認められるものが高い値段で扱われるというパラダイムシフトを起こしたのです。

メルカリでは自分が売った商品がコインになって、次に買う時に使用できます。つまりメルカリ貨幣が存在します。

ZOZO TOWNも、ユーズドに特化したZOZOUSEDをスタートさせました。物物交換という原始的な売買スタイルに立ち返る、「欲しいものを欲しい人が買う」。メーカーや流通が存在しない、そんなファッションの初期化があちこちで起こりそうです。

加速する「所有からシェア」

2015年はエアビーアンドビーやウーバーに代表されるようにシェアリングエコノミーが進みましたが、その流れがファッションにも波及しています。

レンタルサービスの「SUSTINA (サスティナ)」や「airCloset(エアクローゼット)」のように、定額で毎月好きなテイストの服が送られてくるサービスが続々登場しました。

これによりクローゼットの負担もリセールの面倒さもなくなり、商品を買わなくても、借りることにより、新しい時代の気分を先取りできるようになりました。

クリーニング業界も協業を始め、これに対応できるメーカーがどのくらい現れるかもポイントになるでしょう。

その中で、ウェブのファッションメディアとレンタルサービスが一緒になった「EDIST.」の仕組みは先んじていると思います。また、新サービス「Sumally Pocket」を発表した「Sumally」は独自メディアも立ち上げ、今後の進化が楽しみです。

売れる「造語アイテム」って?

と、ここまであまりに「モノが売れなくなる」と語ってきましたが、それなりにトレンドアイテムの話もしておきましょう。

2015年に話題になったのが、ガウチョパンツ。その進化版が一見スカートに見えるガウチョパンツ「スカンツ(スカート+パンツ)」、別名「スカーチョ(スカート+ガウチョ)」です。

前から見るとスカート風、後ろから見るとガウチョ。男性から見れば、がっかり感半端なしですが(笑)。このあたりが、今の日本の女性社会進出の裏表が見えるようで面白いです。

また、「テロンチ」=テロんと柔らかいトレンチ、「コーディガン」=コート+カーディガンなど、とにかく造語ファッションが売れると予想されています。

これは、売り手の立場では「モノが売れない時代に少しでも新アイテムで売り場を新しくしたい」、買い手も「クローゼットにないアイテムだと消費欲が湧く」ということなのでしょう。

コレクションのサイクルに変化が起きる?

2016年春夏コレクションの発表後に巻き起こった、Diorのラフ・シモンズとLanvinのアルべール・エルバスという2人のデザイナー退任劇

事情は違うとはいえ、SNSやファストファッションの影響で、ブランド側が発表する新作のサイクルが細かくなるなどの弊害が起きたのは事実です。

それは、本来守られるべきクリエイティブ力が侵されるほどデザイナーを疲弊させており、問題は深刻です。

また、NYコレクションでは、ショースケジュールの見直しが始まっています。バイヤー優先の考え方から、ユーザー優先の方向へ。

通常、シーズンの半年前に発表されていたコレクションですが、実質のシーズンに近いスケジュールでの発表が望ましいと考えるブランドが増えており、ここでも、ユーザー優先の流れは始まっています。

テクノロジーがショッピングを変える

さんざん言われてきたファッション×テクノロジーですが、カードの購買履歴がビッグデータ化されるなど、実生活にAIの技術がどんどん入ってきています。

ファッションのAIアプリ「SENSY」も加速度的に提携先が増え、サービスがより具体化しています。

今まで貯めてきたカードのビッグデータが実際に購買促進に使われるようになるのが2016年です。それはまるで魔法の箱のように自然と私たちの生活に入ってくるでしょう。また、遅れていると言われたオムニチャネルもより進化し、ショールーミングに特化した実店舗づくりなども増えていくでしょう。

一方、ルイ・ヴィトンがファイナルファンタジーのキャラクターを起用するなど、メゾンブランドとテクノロジー分野のコラボも加速しています。

NYのメトロポリタン美術館では「mannus x machine :Fashion in a Age of Technology(クチュール vs 現代テクノロジー)をテーマにしたMET GALAが開催されるなど、ますますこのテーマも加熱しそうです。

ファッションビルの淘汰が始まる

2016年以降、新宿の「NEWoMAN(ニュウマン)」(ルミネの新業態)、銀座の「東急プラザ銀座(通称G5)」「G6(銀座6丁目プロジェクト)」(工事の関係で2017年に延期)など、都内にいくつもの大型商業施設がオープンする予定です。

その多くがインバウンド狙いではあるものの、冷え込む国内消費に対して、オーバーストア感は否めません。

また、地方店でもいくつかショッピング施設の破綻が予想されます。今後ECの台頭と比例するように、実店舗の淘汰も進みそうです。

評価される日本人デザイナー

ここ数年のパリコレでのsacaiの人気など、川久保玲、山本耀司、三宅一生以来、日本人デザイナーが高く海外で評価されています。

最近ではロンドンコレクションに進出したTOGA、パリコレで話題のアンリアレイジ、また展示会ベースですが、mame、KEI NINOMIYAなどもジャーナリストから注目されています。

また今年はFACETASM、JOHN LAWLENCE SALLIVANなど、日本人デザイナーの海外での活躍がますます進むでしょう。

初期化と背景にあるテクノロジー

今、まさに変革の中にあるファッション業界ですが、新しい人、新しい会社、新しい仕組みがこの業界を変えていくことに間違いはなさそうです。

ファッション業界がオワコンだという悲観論もありますが、変わる時代だからこそファッションが変化の最先端でいることができると思っています。

ECの進化、オムニチャネル、テクノロジーと仕組みばかりが取り沙汰されますが、この時代だからこそ、販売員の価値の高さやユーザーマインドをきちんとつかんだ会社だけが生き残ります。

結果、人と人のつながりをを大切に、すべてが原点回帰=初期化をする。しかし、その背景にはテクノロジーによる革命が起きる。そういう2016年になると思っています。

(写真:littleny/iStock.com)