uber_grab_bnr

煩わしさから解放にメリットあり

配車アプリ体験記 in マレーシア。ウーバー vs. グラブ・タクシー

2015/10/8
急成長を遂げる「Uber(ウーバー)」。NewsPicks編集部でも特集「ウーバーの衝撃」で取り上げ、直近では、ウーバーの軌跡をまとめたスライドストーリーを記事化した。果たして、実際に利用するとどうだろうか。本稿では、筆者が9月に出張したマレーシアで初めて配車アプリを利用した体験記をお届けする。

地元の強みを生かす「グラブ・タクシー」

「すごく便利!」。これが筆者の配車アプリを初体験したときの率直な感想だ。

世界的にウーバーは知られているが、マレーシアには地場の「マイ・テクシー」というアプリがある。テクシーとは、マレーシア風のタウシーの呼び方。最近は近隣国に積極的な展開を始めており、外では「グラブ・タクシー」と名乗っており、シンガポールやインドネシアでは広く使われつつある。インドネシアでは、バイクタクシー「オジェック」用のサービスも始まっている。

筆者がグラブ・タクシーを利用したのは、マレーシア領の東に浮かぶボルネオ島のコタキナバル。マレーシア航空が成田空港から月曜日と木曜日に直行便を就航。ダイビングリゾートや東南アジア最高峰のキナバル山があるなど、日本人の間でも人気がある観光地だ。

ただ、現地移動には問題がある。タクシーはメーターを使わない。筆者がコタキナバルで最初に利用したタクシーは、明らかに相場よりも高い金額を言ってきた。マレーシア語で「それはおかしいだろう! 普通はこのぐらいだ」と話すと、運転手は文句を言いながらその金額に変更した。

ただ、頑として応じない運転手もいた。こうしたやりとりは煩わしい。英語が広く通じる国ではあるが、楽しい観光や忙しいビジネスではできるだけ避けたい。

そこで、筆者はマイ・テクシーを思い出し、スマートフォンにダウンロード。名前やメールアドレス、電話番号といった個人情報を入力して登録を済ますと、自分のいる場所の地図が表示され、マイ・テクシーに登録している車両が地図上にずらっと表示される。

「こんなに沢山!」とまず驚いた。ウーバーと比較すると、登録車両が圧倒的に多い。地元の強みだろう。

まず、アプリに宿泊先ホテルと行き先を入力すると、目的地までの見込み運賃が表示される。呼び出しボタンを押すと、電話と同じように呼び出し画面に変わり、近くにいる運転手の名前がずらっと並ぶ。早押しボタンのように、早く応答した運転手から「今向かっています」というメッセージが出て、到着までの所要時間も表示される。筆者が利用した限りでは毎回、時間は正確だった。

マレーシアの場合は、呼び出し料金として2リンギット(約57円)が運賃に上乗せされる。街の流しのタクシーより若干安いか同等だが、煩わしさから解放されることと、確実にタクシーを捕まえられるメリットを考えると安い手数料だ。

料金を支払うときは、「2リンギットの呼び出し追加料金がかかりますので、合計14リンギットです」と内訳の説明もあった。説明をしない運転手でも、こちらから聞くと運転手用アプリに表示された内訳を見せてくれる。そして、しばらくすると登録メールアドレスに領収書が送られている。

筆者が実際に「マイ・テクシー」を使用した際のスクリーンショット。筆者のまつホテルに向かっている画面で3分と表示。ほぼ時間通りに到着。タクシーのナンバーと氏名が表示され、運転手に電話をかけたりショートメッセージを送ることも可能。

筆者が実際に「マイ・テクシー」を使用した際のスクリーンショット。筆者の待つホテルに向かっている画面で3分と表示。ほぼ時間通りに到着。タクシーのナンバーと氏名が表示され、運転手に電話をかけたりショートメッセージを送ったりすることも可能

使用履歴と現在予約中の内容が表示。履歴から呼び出すことも可能で、手間が省ける。

使用履歴と現在予約中の内容を表示。履歴から呼び出すことも可能で手間が省ける

運転手は、わざわざマイ・テクシーに登録して働こうという人だけあって、きちんとした印象の人が多い。目的地まではマイ・テクシーにGPS機能を使って表示される地図を活用し、正確だ。回り道での運賃稼ぎや、迷って時間を無駄にすることもない。

履歴が残るので、出張や観光の場合、宿泊先のホテルを簡単に呼び出せる。目的地の検索も、地名や住所を入力すればすぐに表示される。検索方法としてはアプリ独自の分類のほか、グーグルのマークをおせばグーグルマップ検索と同じであるため、検索できない場所はほとんどないだろう。

また、グラブ・タクシーの面白い機能は、チップを上乗せできることだ。今回は利用する機会がなかったが、マレーシアなど東南アジアではスコールが降るとタクシーが極端に捕まりにくくなる。帰宅にも時間がかかる。そうしたときにチップを上乗せすれば、アプリからのコールに対応して素早く来るタクシーもある。チップ代金も領収書に含まれて表示されるから安心だ。

グラブ・タクシーの利用後に登録メールアドレスに送付されてくる領収書。移動した場所や金額などがしっかり記載されている。

グラブ・タクシーの利用後に登録メールアドレスに送付される領収書。移動した場所や金額などがしっかり記載されている

ウーバー、カード決済の利便性とグレードの高い車

ウーバーを利用したのは、シンガポールと国境に面するジョホール州。州都ジョホール・バルだけでなく、郊外にも用事があった。ただ、まともな公共交通機関がない。行った先々でタクシーを捕まえられるか不明なため、時間単位で借りようかと思っていたが、現地在住の人から「私の移動は、いつもウーバーですよ」と聞いたことを思い出し、ウーバーを試すことにした。

グラブ・タクシーは、タクシー運転手が登録する。しかし、ウーバーの運転手は、筆者が使った限りでは、ほかのフルタイムの仕事をもっていて、パートタイムでやっていると言っていた。

使用する車も個人所有の自家用車であり、グラブ・タクシーに比べると、アプリで表示される車の数は少ない。ジョホール・バルの中心地のホテルに宿泊したが、10分前後以内で到着できる車は、常に3台前後だった。ただ、呼び出しに困ることはなかった。

ウーバーの利用法はグラブ・タクシーとほぼ同じで、直感的に操作できる。車は自家用車だけあってきれいだ。車種も一般タクシーよりも大きめで快適なものが多く、運転手も気さくな人が多い。やや不安に感じていた郊外からジョホール・バル市内への配車も、まったく問題なかった。時間単位の車両借り上げと比較したら明らかに安上がりで、出張旅費の節約の強い味方となった。

決済は事前に登録していたクレジットカードにチャージされ、キャッシュレス。料金は、呼び出す段階で見込み運賃が表示され、運転手に聞けば、アプリに表示された運賃を見せてもらえるので安心だ。グラブ・タクシーと同様に、領収書はメールで届く。

少し気になったのが、ウーバーのステータスだ。ほかの国でも起こっているように、タクシー協会からは反発を受け、法律面では微妙。筆者がジョホール・バルで使用したウーバーも、運転手が「警察の近くでは待ちたくない」と言っていた。

シンガポールのウーバーは借り上げ方式をとっており、運転手側のコストが大きいとも言う。一方、グラブ・タクシーは、タクシー運転手が利用するので、タクシー会社側からすると顧客獲得の機会になる。地元の強みはグラブ・タクシーにありそうだ。今後、ウーバーの法的ステータスの整理がどうなるのか注目される。

アプリ二刀流で快適な旅行

さて、「ウーバー vs. グラブ・タクシー」だが、勝敗は付けがたい。車の数ではグラブ・タクシー、支払いの便利さと車両の良さはウーバーといったところか。利用できる国に行く人は、2つのアプリを入れておくべきだろう。ウーバーは都市のカバーや数の面で不安があるため、カバーエリアと車両数に強みを持つグラブ・タクシーはそんなとき、力を発揮するはずだ。

今回のマレーシア出張では、前後にシンガポールにも立ち寄り特集「チャイナ・ショック」の南シナ海問題や、そのほかの特集の取材をした。たまたまバスで移動できるところがほとんどだったため、アプリは利用する機会は少なかったが、起動してみると車両が表示された。現地在住者に聞くと、利用者は結構いるとのことだった。

日本からでも現地の車両数は、アプリ上で現地を表示すれば確認できる。可能であれば、現地でプリペイドSIMカードを購入し、SIMフリーのスマートフォンを利用すると、現地での運転手とのやりとりなどとても便利だ。難しく感じるが、ASEAN各国では、空港や地元のモールでSIMカードを数百円で販売しており、店員がすべての設定をしてくれる。

ただ、配車アプリには注意点もある。筆者が2つのアプリを試したことをフェイスブックでシェアしたら、アジア出張の多い知人から運転手と会えなかった事例などが寄せられた。また、ウーバーでは米国やインドで婦女暴行事件が発生した事例がある。慣れない土地の夜、かつ人気が少ないところに一人で移動するようなケースでは、慎重になったほうが良いだろう。

それでも、配車アプリのメリットは大きい。出張から帰国後に会計担当者から「また領収書ないのですか?」と嫌な顔をされることもなくなる。有効的に活用すれば、首都や地方の中核都市程度を中心とした東南アジア出張にありがちなタクシーをめぐる煩わしさから随分解放されるだろう。

(文・川端 隆史)