Virtual reality: Cyberspace game

4つの大きなトレンド

アバターの映像をつくったオートデスク副社長が語る「モノづくりの未来」

2015/10/7

映画『アバター』の3D映像をつくったことで有名なソフトウェア大手のオートデスク(Autodesk)。そのサンフランシスコ本社には、カスタムカーや折り畳み式のカヤック、発電するバスケットボールなどハイテクなモノがいろいろと置いてある。

こうしたモノはすべて、オートデスクのAutoCADや3Dテクノロジーを駆使してつくられている。この動きは、今後、製造業が向かうひとつの方向性を示唆している。

「大企業より中小企業のほうが、変化への対応が早い。大手企業はいま、いろいろな意味で中小企業がつくった変化に動かされている」。オートデスクのマーケティング、産業戦略担当の上級副社長であるアンドリュー・アナグノストはセールスフォース・ドットコムが開催した「ドリームフォース」のイベントに招待された記者たちにそう語った。

同時に、アナグノストは、すべての業界で起きる変化についてこんな「可能性」を示した。モノづくりや消費者の需要が変化することにより、デザイン業界にとどまらないすべての業界で、プロジェクトの立て方や資金集めの方法が変わるというのだ。

アナグノストは、この「革新」を4つの大きなトレンドに分けている。

1つ目は、デザインのやり方、2つ目はモノを製造する行程、3つ目は商品をパーソナライズする需要、4つ目はそれに伴う「製品」の在り方だ。

「人がモノに求めることは、だいぶ違ってきた」とアナグノストは言う。

手元にある“スーパーコンピュータ”

「世代交代は、デザインに新しい発想をもたらす」とアナグノストは語る。

「たとえば、SNSやオンラインゲームをやりながら育った世代は、今まで体験していなかったことに囲まれて育ってきた」

アナグノストいわく、いわゆる「ミレニアル」世代はほかの世代より協力的であるという。なおかつ、多くの人たちは、顔をいっさい会わさないほど流動的で組織化されていないチームで働くことに何ら違和感を感じないという。

加えて、「デザインを革新するもうひとつの要因がある」とアナグノストは指摘する。それは、クラウドコンピューティングだ。

「(クラウドコンピューティングの普及とは)すべてのユーザーのスクリーンの裏に、スーパーコンピュータを置いている状況に等しい。デザイナーは、以前には不可能だった選択肢を持つことができる」とアナグノストは語る。

クラウドを介してスーパーコンピュータとつながることにより、すべての産業にモデリング(ミニチュアなどを作成すること)や複雑な分析のタスクを行う処理能力がもたらされるという。

変化の融資

さらに、製造プロセスの発展は資金調達の方法も変える。「Kickstarter」のようなクラウドファンディングにより、アントレプレナーたちは、新しい資金チャンネルに出会える。

「もともと、アントレプレナーは、大手メーカーや投資家、VCなどにアイデアをピッチする必要があったが、今は、誰にでもピッチできるようになっている」とアナグノストは語る。

新たな生産手段

製造業のファブレス(工場なし)化はますます進み、マイクロ工場がモノを製造する時代に入った。これにより、モノづくりの利益の出し方が変わった。マイクロ工場は製造工程を簡単に変えることができるため、オフショアではなく国内にも本拠地を置ける。

スピーディーで、かつコストが安い3Dプリンティングとともに、こうした動きは製造の競争力を変えることになる。

「複雑な製品を安く提供することができるようになると、公平な競争の環境がつくられるようになり、より多くの人に革新的な製品が届けられるようになる」とアナグノストは言う。

ちなみに、製造業界にはもうひとつトレンドがある。それは、プレハブ工法だ。これは今に始まったことではないが、以前より改良された設計ツールや製造法の出現により、ビル建築は簡単かつ効率的になってきている。これに、3Dプリンティングを加えると、建設業界のセクターに大きな変化を引き起こすだろう。

世代も変わる

進化する製造やデザインは、「消費者ニーズの変化」をもたらす。消費者は、自分好みのデザインを簡単に選べるようになり、自分のサイズや欲求に合わせたパーソナル化もしやすくなる。すると、消費者は自分の好みに合った商品をさらに欲しがる。

ミレニアル世代は、親世代や祖父母世代のように大手ブランドには価値を置かず、より自分好みにパーソナライズされた製品を期待する。

「今後は、“大量消費”から“選択消費”に変わる」とアナグノストは語る。

その結果、顧客の期待値はますます高まり、各メーカーはそれに応えられない限り、ブランド・ロイヤリティが下がる。そうして、ブランドの価値の変動はさらに激しくなるという。

顧客はあるブランドと最後に接触したときに受けたサービスを、そのブランドを判断する「基準」とする傾向がある。そのため、ブランドは常に顧客の期待を満たさないと、すぐにほかのライバルに客を奪われてしまう。

つながっている「スマート」デバイス

アナグノストが予想する最後のトレンドは、モノをインターネットにつなげる(IoT)「スマート」デバイスにある。今後、消費者はすでに「オンライン」可能な(インターネットにつながる)機能がインストールされている製品を要求するとアナグノストは言う。

実際、こういったトレンドは自動車業界ですでに起きている。そして、近い将来にインターネットにつながる機能(IoT)を搭載するオートバイ用ヘルメットから電球まで、多様なデバイスが世界中に出荷される。

「今後、家にあるモノのすべては何らかの“スマート”なデバイスになる。そして、消費者は、当然そうあるべきだと期待するようになる」

アナグノストが強調するのは、今まで乗り越えられないと考えられていた参入障壁ががらがらと崩壊し、ビジネスが革新を続けていることだ。

すべての業界において、コンピューティングの「力」は競争環境を変化させる。デザインや製造に関係ない企業でさえ、新たな競争原理に対応するべき時が来ているようだ。(文中敬称略)

(写真:Science Photo Library/アフロ)

Jordan Krogh travelled to Dreamforce as a guest of Salesforce.