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『モータリゼーション2.0×都市』〜都市におけるモビリティの可能性〜

モータリゼーション2.0で何が変わるか、変わったのか

2015/9/19
NewsPicksとHIPは、「モータリゼーション2.0×都市」をテーマにしたコラボレーションセミナーを開催した。次世代自動車と都市との関係を、業界のフロントランナーや専門家が解説したパネルディスカッションをリポートする。初回は「モータリゼーション2.0の社会」をテーマに、自動車や社会、サービスについて詳説する。

2.0では周辺のサービスが重要になる

馬場渉(SAPジャパン(株) バイスプレジデント・チーフイノベーションオフィサー)

馬場渉(SAPジャパン バイスプレジデント・チーフイノベーションオフィサー)

馬場:今日のトピックの「モータリゼーション2.0」について、ご紹介したい考え方をお話します。

私は車を今まで買ったことがありません。でも私、年間1000回は車に乗るし、事業としても担当しているので、「車ってこうあってほしい」というアイデアはそれなりに持っていると思います。

今まで自動車そのもので競争力があった時代から、車そのものに周辺サービスがつながる「コネクテッド・カー」となり、従来の延長上で「モータリゼーション2.0」がくるんじゃなくて、まったく新しい価値観が出てきている。

駐車場に停めたり、ガソリンスタンドに行ったり、スターバックスやマクドナルドに寄ったりするなどの車での移動。もしくは音楽を聴くというエンターテインメントも含めた車の全体の楽しみ方や、利用者の視点で周辺サービスも含まれるのがコネクテッド・カーの時代です。

たとえば、スターバックスは2018年くらいまでに1500店舗のうちドライブスルー専門店を900店舗にするって言っています。自動車業は車屋、スターバックスは小売りといえばそのように分けられる。

しかし、利用者の視点でいえば毎日同じパターンで同じ時間にピックする人もいるし、車は全体の1要素で、いわゆるカスタマージャーニーのうちのひとつのタッチポイントだと言えると思います。

ビジネス規模はどうか。新車市場は北米で1600万台くらいなので1台100万円として20兆円から25兆円ある。中古車市場は10兆円そこそこ。修理やサービスなど、新車や中古車に関連する周辺サービスが20兆円で、パーツや周辺機器などの関連市場がある。従来の自動車メーカーが捉えられている市場はこのあたりですが、ガソリン燃料の市場は北米だけでも約50兆円。ドライブスルーは1兆円あります。

自動車にもMAUのような概念が必要になる

コネクテッド・カーは、今年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)が「モーターショーか?」と言われたくらい車が出てきて、世界中で話題になっているわけです。

一方、車の所有者で、毎日乗る方はほとんどいないですよね。私は、サービスとしての車を利用している人間ですが、毎日必ず乗ります。乗らない日は多分、過去何年間見ても1日もないです。

ところが、自動車メーカーは、車を保有している方のDAU(デイリーアクティブユーザー)をどう高めるかという議論を活発にしているとは思えない。でも、利用者にとってのいろんなタッチポイントをデジタルで統合し、ネットでいうところのDAU、日々の利用率を高めていく活動が必要なんじゃないかと思っています。

自動車メーカーとネット企業との提携がいろいろと始まっていますが、利用者がいったいどう車を楽しんでいるのか見ようとする努力、つかむ努力は必要ではないかと思います。

そうしたデジタルサービスがあって初めて車を所有したくなる人や、自分の日々のあらゆる情報を自動車メーカーに開示する層も、少なからずいるだろうと思います。それは自動車メーカーから見ればかつては難しかったですが、今は発想とテクノロジーによって実現可能なことです。

東京は非常にユニーク

土井三浩(日産自動車(株)理事、アライアンス グローバル ダイレクター、総合研究所長)

土井三浩(日産自動車理事 アライアンス グローバル ダイレクター 総合研究所長)

土井:車そのものの話の前に、われわれは道や移動を考えて仕事をしています。

道ってよくできていて、紀元前1世紀ごろのポンペイ遺跡の頃から、ちゃんと馬車が通り、人が歩く道があって、それを横切る横断歩道がある。近代都市で考えると、街の移動が都市のなりわいみたいなもので決まっている。

たとえば、人口密度が低いロサンゼルスでは、必然的に車中心の社会になる。東京は人口密度が非常に高いので、公共交通中心という社会になる。中間にあるパリは車と公共交通がミックスした形態を必然的にとっているということです。

先ほど半分くらいの方が「車を持っていない」と手を挙げましたが、当然なんですよ。東京は非常にユニークで、公共交通が車より早い街です。一方で世界を見るとそうじゃない、車のほうが早い街が圧倒的に多くあって、そこではまだまだ車が走っているという状態なわけですね。

なぜこんな話をするかといえば、こうした特徴を捉えて街や移動を考えないと方法を間違えるからです。たとえば車中心の社会では、インフラを敷くのに時間もおカネもかかるので、電気自動車や自動運転など、今の車を変えてモビリティを上げることに可能性が出てくる。

一方で、東京のようなところは、公共交通は発達しているけど、ラストワンマイルの移動が課題。そこにどういうソリューションを提供するか。また、マルチの街では、ミックスしたもの同士をいかにうまくつなぐかという考え方が出てくる。

自動運転にはまだまだやるべきことがある

それらのソリューションとして、自動車メーカーすべてが電動化と知能化という2つの柱で動き始めています。

自動運転技術でいうと、2016年から、混雑した高速道路上で安全な自動運転を可能にする技術を市場に投入する。2018年には危険回避や車線変更を自動的に行い、複数レーンでの自動運転技術を導入する。そして2020年には十字路や交差点を自動的に横断できる市街地での自動運転技術の導入を目指しています。

最近、グーグルなども含め自動運転の話がたくさん出ていますが、みんな基本的にはこの2020年ごろの市街地というのをターゲットにします。ただ、そう簡単ではないです。

たとえば人は信号を簡単に見分けて赤は止まる、青は進むと判断しますが、前の車のヘッドランプと赤信号をどうやって見分けるか。フェンス越しに車が来るのも、人は車だとわかるし、スピードも予想しながら運転しますが、これを機械で見るのは結構大変な話になります。

さらには、人の気持ちが持てるか。人が歩いているところをすり抜けるとき、この人がもしかしたら道を渡るかもしれないと思って減速したり、よけたりするが、自動運転を実現するためには、こういう人の気持ちをロボットに移植しなきゃいけないことになるわけです。

人工知能(AI)もまだまだやることがあります。たとえば、小さな40種類くらいの犬の写真を200枚くらい入れて、人工知能に学習させると、柴犬は柴犬だとパターン認識してくれる。

しかも、ものの10分もあれば全部学習して答えを出してくる優秀さです。ところが、うちの社員を入れたとき、「ニューファンドランド84%」って出てくる。ニューファンドランドに結構似ているんですけど、犬と人間を間違えるようじゃダメなわけです。

要はどれだけ街中をちゃんと走って学習して車に覚え込ませるかという地道なところがないと、賢い知能を載っけたから完成というものではない。2020年ごろに向けて各社いろいろやっていますが、技術課題としてはまだ完成したものじゃなくて、やることがたくさんあるということです。

人の生活とともに自動車の役割も変わる

泉田良輔((株)ナビゲータープラットフォーム取締役 アナリストLongine編集委員長)

泉田良輔(ナビゲータープラットフォーム取締役 アナリストLongine〈ロンジン〉編集委員長)

泉田:自動車は今まで、スタンドアローンで完結しているハードウェアだったわけですが、コネクテッドという発想は、何をきっかけに出てきているのでしょうか。

土井:人が変化したということだと思います。たとえば今こうやって皆さんが話を聞きながら、外とメールしている。僕らも会議中に全然違うところにメールをしたり、ほかのものを見ていたりする。

マルチタスクになっている。ソーシャルサイコロジーをやっているスタンフォードの先生いわく、「今のアメリカの若いやつらは20秒に1回タスクチェンジしてる」と。ものすごいスピードです。

だからそういう人がじーっと机に座って1個のことをやれるわけがないと。多分、そのニーズがある限りそれに応えないと勝負できないと思いますね。

馬場:あえて車以外の文脈でいうと、業界を超えた顧客争奪戦になっている。時間の取り合いというか。消費者側のプライベートが、バチッバチッとゼロ、イチで分かれるのではなく、まさに細切れの公私混同時代になっている。それを受けてどう時間のシェアを取るかが、業界を超えた競争になってきている。

コネクテッド・カーに取り組む理由は、業界それぞれ。自動車業界のみのテーマだと思っていない。保険会社もコンビニもコーヒーショップも各社業界それぞれのコネクテッド・カーという文脈が出てきた。

それぞれが、業界を超えた顧客の時間獲得戦をやる中で、1個1個の産業、顧客視点、消費者視点でシンプルにつなぎ合わせる人が必要になっている。それがSAPなのかグーグルなのかフェイスブックなのか、もしくは自動車メーカー自らなのかはさておきです。店舗も、来てもらうのをただ待つのではなくてこっちから行こう、ユーザーに近づこうと思うと、必然的に車に行きつく。

ソフトウェア的思考とハードウェア的思考

泉田:馬場さん、ICT(情報通信技術)の世界から見たときに自動車メーカーのもろさ、ここだったら勝てるという領域があれば教えてください。

馬場:IoT(Internet of Things)で、ITとフィジカル・インダストリーのいろいろな業界とが、完全に1回がらがらぽんして、融合しようとしている。そうするとソフトウェア主導の発想が必要になる。ソフトウェア的な思考回路っていうんですかね。今までものづくりをしていた方々からすると、とても常識はずれなものの発想というのはあると思います。

たとえば、テスラのソフトウェアアップデートってすごくないですか。AndroidとかiOSのアップデートのように出ている。自動アップデートで「次の7.0の夏のアップデートで自動操縦がこんなに向上します」と。

ああいう発想は、自動車メーカーの大事にしている安全性などの価値観とはまったく違う価値観ですが、確かに市場が存在する。それがものづくりの思想なのかソフトウェアの市場なのかそういうくくりで語っていいのかわからないですが。

勝てるか勝てないかはわからないですが、少なくとも別の視点から市場を見たり利用者を見たりしている点で、大企業、スタートアップ、日本、世界、IT、自動車、小売りといろいろな人がいろいろな見方でモビリティを見て、多様性がどうぶつかり合うかがテーマとなる市場かなと思います。

東京は自動運転ではディスアドバンテージか

泉田:今のアメリカを見ると、都市のつくり方と車というのが非常に密接に結びついて国ができている。仮に自動運転という将来のアプリケーションがあるとしたときに、都市デザインや街づくりを考えないと、アプリケーションとしてのハードも普及しないんじゃないかと思います。

東京は公共交通機関の長所が多分にあるので、東京発で自動運転のすごいアプリケーションというのは出にくいんじゃないかと思うのですが、いかがですか。

土井:自動運転がやりにくい条件というのがある。東京のようにインフラがきれいにできてないところはやりにくい。一方で、場面によっては自動運転があったほうがいい場面がある。

たとえば、お盆や年末に高速道路がみんな大渋滞をする。あの中に運転が好きな方は少しはいても、やっぱり楽しくはないし、延々と何時間も運転するときに運転を代わってほしいという場面もある。

という意味で言うと、最初は安全、それから退屈な時間を少し楽に、負荷を軽減するところから入っていけば、日本でも自動運転のありがたさを体感できる場所はあるだろうなと思っています。

泉田:2020年に東京オリンピックがありますが、そのときに果たして自動運転はどこまでできているのか。東京で難しいなら日産のお膝元の横浜ではどうか。いかがですか。

土井:部分的には実現していると思っています。ただこれは、法規の話などもあるので、日産だけ、日本だけで突破できる問題ではない部分もあるとは思っています。

インダストリー4.0とモータリゼーション2.0

泉田:ドイツという国で、ものづくりを変えようとか、すでに競争力があるハードウェアをさらにコネクテッドにして付加価値をつけようという動きが起きているのに注目しています。ドイツで、車に対しての考え方が最近変わってきたということがあれば教えていただきたい。

馬場:日本とドイツで顕著な違いだと感じるのが、ポルシェにしろ、BMWにしろ、ダイムラーにしろ、「日本の自動車会社は10年後も20年後も車を造っているという感覚なのか」ということです。「そんなはずがないだろう」と。日本のメーカーだって別にそうは思ってないという気がしますが。

インダストリー4.0は、ものの時代から全体のサブスクライブのエコノミーへという流れを良くも悪くも受けている。ある種、アメリカが切り開いていった利用という価値観に対し、ものづくり大国ドイツは、「同じものづくり大国日本がどうアダプトするんだ?」という話になる。やられるのを待つのかフォローするのか、それともフォローじゃなくて何か新しいものをリードするのか。

彼らは、どうやってメーカーとしての競争優位を保つのかを考えている。車は保有するものでもなく、ものとしてのバリューがあるものでもないという前提からスタートしている人が非常に多いという印象を受けます。

泉田:次のモビリティの競争は、ドイツ主導のものづくりからサービス寄りにいくという考え方と、アメリカのようにガソリン車で大きく負けたので一発逆転で発想を変えて、最初からサービスドリブンだという考え方の2つがある。20年くらいたったときに、日本の自動車産業の競争優位がぐらつくポイントもあると思うんですが、いかがですか。

土井:今でいうと「ソフトウェア vs. ハードウェア」、それから「グーグル vs. 自動車会社」とかですね。ほかの業界と対決しているつもりはないです。むしろ、どうやって一緒に組んでいくかのほうがわれわれにとっては大事。

もののサービスシフトというのは、確かにその通りで、人が今望んでいるのは「車を所有することよりも移動すること」というふうにもいわれているのも当然で知っています。

間違いなくいえることは、車会社はだんだん単独ではビジネスしにくくなってきたのは間違いないだろうなと。というのは車会社には、鉄やゴムをよくわかっている人間はいるんだけども、ソフトをつくれる人間がどれだけいるか。

ビジネスでも、車をただ売るのではなくてサービスというビジネスをどれだけわかっているか。そういう意味では、どこと一緒にやるかが、以前より大事になってきたってことは間違いないと思います。ただ対決ではないと、これだけは強調しておきたいと思います。

(取材・文:福田 滉平、撮影:福田俊介)

*続きは明日掲載予定です。