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出発点は個人がいかに自分自身の人生を設計するか

「教える」から「考える」へ〜世界の教育トレンド

2015/9/14
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第6弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.6「教える」から「考える」へ〜世界の教育トレンド/日本人の海外シフトの現状と課題〜』(初版:2015年7月17日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
今回は、大前氏自身の教育観に始まり、世界に見る人材海外シフトの現状、そしていかにライフプランを設計するかについて聞いた。(2015.6.4 取材:good.book編集部)

親として、どう教育と向き合うか

私自身の子育てを振り返ると、教育のために何かをするというより、子どもたちと一緒に遊ぶことを中心としていました。子どもはそれぞれの発達段階で劇的に変わっていくので、親はそれぞれの時間を楽しむしかないのでは、というのが私の考えです。子どもたちには無理に学校に行け、宿題をしろ、勉強していい学校に行けなどということも、私は旧来の学校教育というものを信じていなかったのであまり言いませんでしたね。

私の場合は子どもたちと一緒に小さな頃からポケットバイクやスノーモービル、船の操縦、ジェットスキー、スキューバダイビングなど色々してきました。共に遊ぶことで子どもは育つのだと思います。当時は、子どもたちもいやいやついてきた気がしなくもないですが、写真を見返せば楽しい思い出が刻まれています。

私は「自分で考えて、やりたいことは全部やれ」と常日頃から言ってきました。現在、私の子どもたちは自分で会社を興してビジネスなどをしていますが、本人たちがしたいことを好きなようにやった結果ではないかと思います。

家族から学ぶ、フィンランド

日本では子どもの家庭教育を母親頼みにしている家が多数派でしょう。そこで、父親に丸投げされて困った母親たちが、さらに家庭教師や塾にアウトソーシングするわけです。そういう意味で、日本の家庭は子どもの教育に対して無責任だということができます。

日本と対極にあるのがヨーロッパ諸国、例えばフィンランドです。「森と湖の国」と称されるフィンランドでは、夏休みの一ヶ月ほどを森の中で、家族とゆったり過ごします。自然以外には何もない空間で朝から晩まで過ごすにはどうしたらいいか、家族であれこれ考えるわけです。夕飯のために湖に行って魚を釣ってきたり、森の中の危険な植物や昆虫を親が教えてあげたりすることで、家族とはどういうものかということを体感し、暮らしの中で家族から学ぶ、生活の知恵などを教わるという仕組みになっているのです。

そこには大人たちの生活するバンガローとは別に、子どもたち専用の小さなバンガローもあって、子どもたちは、その中で寝泊まりすることで自立心も育みます。

子ども時代に自然と親しむ意義

こういった「子が親に学ぶ時間」が日本にはほとんどないのです。日本では夏の間に学校や地域が開くサマースクールや林間学校などがありますが、数泊の短期間で終わるものが多数です。父親たちも忙しいことを言い訳に、休みを取ってもせいぜい数日というところでしょう。

フィンランドのようにひと夏を家族一緒に森の中で過ごすとまではいきませんが、米国にはサマーキャンプがよくあります。私の子どもたちも、サマーキャンプにはよく行かせました。2~4週間くらいの間、森の中や海辺で、幼稚園児の年頃から小学生~中学生くらいの子どもたちが共に集団生活を送ります。

そこでは年長者の、若い先輩たちがリーダーとなって、様々なプログラムを体験するわけです。これは米国でごく一般的に行われており、近年はアジアからもそのプログラムに出ていく人が増えているようです。

現在私が経営している「アオバジャパン・インターナショナルスクール※1」という学校でも、例年夏休みにサマーキャンプを実施していますが、学外の子どもさんにも多数参加して頂いています。日本でもこういったニーズはあるのかもしれませんね。子どもの頃から自然と親しむことが一番必要なのではと、私は思います。

※1 アオバジャパン・インターナショナルスクール:東京の練馬区光が丘と目黒区青葉台にある、40年近い歴史を持つインターナショナルスクール。1976年創立。幼・小・中に相当する教育課程を持ち、米国の中等学校卒業資格が得られ、現在約30ヶ国から300人以上が在籍している。

大前研一(おおまえ・けんいち) ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数

世界に見る、人材海外シフトの現状

ヨーロッパに「国境」という概念がなくなって、もう20年になります。他国に行くにもパスポートは要らず、身分証明書だけあれば十分。通過する自動車のチェックも国境線上ではほとんどなくなり、スウェーデンからイタリアまでドライブできてしまいます。そのためヨーロッパ人、中でも特に若者の間には、自分は「ドイツ人だ」「フランス人だ」という意識自体が薄れており、「自分はヨーロピアンだ」と考える人が増えています。したがって、日本で昨今よく聞く「海外シフト」という言葉や概念も、ヨーロッパにはあまり存在していないように思います。

フィンランドでは7~8年前から、大学での全ての講義が英語で行われるようになりました。元々フィンランド語は世界で最も難しい言語のひとつといわれていて、それが留学生にとっての障壁となっていたのですが、講義を英語に切り替えた途端にヨーロッパ中から学生が集まるようになり、大学が国際学校のようになったのです。こういったことからもヨーロッパ全体の人の動きが加速していることが分かります。

一方、韓国では国民の7%が国外に行ってしまうそうです。理由のひとつとして挙げられるのが、国が財閥や官僚・エリートばかりを優遇しているので国を信用できず、それを嫌う人が外に出ているということのようです。中学・高校から海外へ留学する人がとても増えています。

世界中に散らばるアイリッシュたち

歴史の側面から見ると、貧しい国だからこそ国外に出ていく人も多いという興味深い事実があります。例えばアイルランド。アイルランドというのは20年に一度くらいの頻度で飢饉に見舞われており、その都度食料を求めて国外に出る人が増えます。これを歴史上何度も繰り返しているので、アイルランドの人口は460万人程度ですが、アイリッシュと呼ばれる人は世界中に7000万人以上もいるのです。人口の約15倍もの人が海外に出てしまっているのですね。

ケネディ氏もクリントン氏も、ポール・キーティング※2というオーストラリアの元首相も、ルーツを辿ると皆アイリッシュです。アイルランドも、今でこそ少しずつ繁栄し始めましたが、そう遠くない過去に飢饉があったというくらいですから、この国の人たちは国外に出ることに対する抵抗感があまりないのです。

※2 ポール・キーティング:オーストラリアの元政治家、第24代オーストラリア首相。

貧困から抜け出すため、人は国外に出る

日本では明治時代に、食い潰れた農民がハワイやカリフォルニアなどに渡り、さらにどんどん南下してペルーやブラジルまで渡ったのですが、この人たちは総勢100万人くらいになりました。その結果、私たちは今日、日系人が多いということでブラジルに親愛感のような情を感じるのですが、アイリッシュにしてみれば7000万人が世界中に広がっているわけですから、世界そのものに親愛を感じるといえるのかもしれません。

「食い潰れた時」。この時を除いて、日本人は歴史的にあまり国外に出ていきませんでした。現代の日本において、食い潰れるということはまずありません。これでは国外に活路を求めて出ていこうとはなりません。日本人は世界的に見ても、最も自分の国を去らない民族なのです。

退路を断たれて飢え死にしそうになるなど、国内ではどうしようもなくなって国外に行った人にはやはり根性があります。異国の地ブラジルで、ジャングルを切り拓いてピメント(胡椒の一種)の畑を作るなどということは、元々農民だったとしても並の根性で出来ることではありません。現代の日本人が同じような状況に置かれたら、どうなることでしょうか。

起業家輩出の御三家

それでは、ビジネスチャンスを求めて国外に出るのは誰かというと、まず台湾人が挙げられます。彼らの国土は物理的に小さいのですが、語学力が非常に高い。さらに大学院に所属していると兵役免除になるので、若いエンジニアが多く育つ構造があります。そのため米国に留学、卒業後にシリコンバレーで起業するといった流れが出来ているのです。Yahoo!を創ったジェリー・ヤン氏が典型的ですね。

米国で起業する人の出身国といえば台湾、インド、イスラエル。これが御三家です。台湾やイスラエルのような小国から優秀な人材が出ているのですから、これはすごいことだと思います。この事実はあまり世間に知られていません。アメリカ人には台湾人と中国人の区別がつかない人が多いので、台湾人がすごいということは意外に表に出ていないのです。

大陸人よりも強い、台湾人

中国大陸から米国に渡って起業で成功した人は、実はあまりいません。アリババ※3のジャック・マー氏※4も、起業は中国でしていますから。米国で起業して成功する外国人は、蓋を開けてみれば台湾人ばかりなのです。

現在の中国大陸の人には、米国で勝負するほどの力はないということです。米国で成功しているビジネスを、中国に持ち込み誰よりも先に中国で始めて大きくなった、というケースがほとんどです。ジャック・マー氏や、ロビン・リー氏※5など他にもたくさんいますが、たいていこのパターンで大きくなっています。一方、台湾人とインド人、イスラエル人は土俵を問いません。彼らからすると、土俵=地球。このくらいの感覚でいるのではないでしょうか。

※3 アリババ:阿里巴巴集団(アリババジタン)。中国の情報技術関連企業グループで、本社は浙江省杭州市。
※4 ジャック・マー:中国の実業家で、アリババ(阿里巴巴集団)の創業者、現会長、元CEO。
※5 ロビン・リー:中国語の検索エンジン「百度」(Baidu.com)を運営している百度公司の創業者で、総裁兼CEO。

次回、「ライフプランあってのファイナンシャルプラン」に続きます。

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