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自転車で極寒の国境横断、ユーロスターの線路を渡る……

命懸けで渡る難民。ヨーロッパを襲う未曽有の「移民問題」

2015/9/8

恐怖、悲劇、絶望

8月27日、ハンガリーからウィーンに通じる主要幹線道路沿いで、家畜を運ぶ大型トラックの中に、71人の難民の腐乱死体が発見された。この事件が示すように、欧州の難民危機問題は最悪の事態を迎えているようにみえる。

ハンガリーとオーストリアの国境から数キロメートルの現場で、オーストリア警察は「死のにおいが非常に強い」と表現した。そもそも、トラックが停まった場所の近くで草を刈っていた男性が、冷蔵機能を備えたトラックの後ろからポタポタ落ちる“悪臭がする”液体の存在に気づかなければ、おそらく死体は発見されなかった。死亡者の中には、女の子の赤ちゃんを含めて、子どもが4人もいた。

欧州での過去最大とも言える、移民および難民の流入による惨事は、この1件にとどまらない。

不幸にも、恐怖、悲劇、絶望の目録に、トルコのリゾート地であるボドルムの海岸に流れ着いた3才の幼児の死体が写った映像が付け加えられた。彼は、ギリシャのコス島にたどり着こうとしたものの、船が転覆して死亡したシリア人の11人のうちの1人だった。

9月2日の朝に撮られた、その幼児のぐったりした身体を抱くトルコ国境警備兵が写った映像は、世界中のツイッターで話題となった。付けられたハッシュタグは「#KiyiyaVuranInsanlik」(人類が海岸に打ち上げられる)だ。

制御できない洪水

この悲惨な事件から時をほどなくして、ハンガリーの首都ブダペストにある、ブダペスト東駅という同都市最大の駅の入り口には、数百人の移民たちがドイツや欧州の西の国に脱出しようと殺到した。

移民たちは、子どもたちを高く持ち上げながら、ドイツ首相アンゲラ・メルケルにこう懇願した。

「メルケル首相、われわれは、ここから出たい!」

その前日、ハンガリー政府は、ブダペスト市長が記述したところの“制御できない供水”から、ハンガリーの治安を守るため、ブダペスト東駅を停止させていたのだ。

このような移民や難民の入国に関する悲劇は、ヨーロッパ諸国で起きている。

9月1日、スペイン領セウタとモロッコの国境地帯にある税関では、車のエンジンブロックの後ろに押し込まれ、ガソリン排気ガスで窒息したアフリカ人の男性が発見された。ちなみに、セウタでは今年5月、人身売買をした人間が持ち込んだスーツケースの中から、8歳のコートジボワール人少年が隠れているのが発見された。

また、ノルウェーでは8月31日、シリアから難民151人が、ロシアとの国境を“自転車”で越境したことが明らかになった。適切な書類がなければ、徒歩および車でノルウェーに入国するのは禁止されている。だが、法の抜け穴で、自転車でなら許される。

そして9月1日、午後7時13分パリ発ロンドン行きのユーロスターの乗客は、英仏海峡トンネル付近に停車した車内で夜を過ごした。通常は2時間半で到着するルートだが、そのユーロスターに乗った乗客は、翌日の午前10時50分にロンドンに到着した。イギリス警察が、線路から難民を排除したためだ。

ギリシャ、ハンガリー経由の移民も激増

このように、ヨーロッパは今、押し寄せる難民の規模に圧倒される状況にある。民主主義と自由市場とともに、第2次世界大戦の反省から連合された“ますます緊密な”欧州連合(EU)の最高の業績は、パスポートなしで行き来ができるシェンゲン圏の創造だ。

22のEU加盟国に加え、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーとスイスを含むシェンゲン圏は、統合後のヨーロッパのポリシーの中で最も人気のある規則と言える。

一方、シェンゲン圏は、移動手段の複雑化により、ヨーロッパに押し寄せる難民を管理する制度をズタズタにもしている。昨年、ヨーロッパへ渡った移民の大半は、リビアを経由し、マルタかイタリアに到着するルートを活用した。地中海を渡ることは当然「安全」ではないが、陸に着いた難民は、治安のいい国を通じて、比較、快適に目的地を目指すことができる。

だが、今年は違う。

9月1日、シリアやアフガニスタン、イラク、アフリカなどの一部にある争いを逃れた難民が、ドイツとハンガリーに1日の間で到着した人数の記録を更新したが、問題は人数が増えていることだけではない。

現在、リビアは内戦のため、ギリシャやハンガリーから入る移民も激増している。結果、ドイツ、スウェーデンなどの、移民や難民が移住を希望する国に着くために、彼らは犯罪組織を頼りにしながら、危険区域であるバルカン半島を通り抜けねばならない。だが、ギリシャは、船いっぱいの難民に対処する能力がない。

*続きは明日掲載予定です。

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