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要約で読む『ひみつの教養 誰も教えてくれない仕事の基本』

飯島勲が伝授する「権力の握り方、メディアの読み方」

2015/8/24
時代を切り取る新刊本をさまざまな角度から紹介する「Book Picks」。毎週月曜日は「10分で読めるビジネス書要約」と題して、今、読むべきビジネス書の要約を紹介する。
今回取り上げるのは、飯島勲氏の『ひみつの教養 誰も教えてくれない仕事の基本』。小泉内閣で首席総理秘書官を務め、メディア対策にも長けた著者が、世の中を動かす秘密のルールを解き明かす。「組織の中でプレゼンスを高めたい」と野望を抱くビジネスパーソンにぴったりの一冊だ。

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権力を握る教養

組織の落ちこぼれの正しい扱いは、どっち?

著者は、小泉純一郎内閣、安倍晋三内閣に長くいた経験から、組織を生き抜き、権力をつかむ方法を伝授する。組織にいる限り、上司や同僚、部下を自らの意思で代えることはできない。

では、組織の落ちこぼれに対しては、あえて権限を与えるのか、飼い殺しにするのか、どちらが正しい扱いだろうか。正解は前者である。明らかに能力不足の部下に大きな権限を与えて重用すると、その部下は自分に対して敬意を払うようになる。

逆に、優秀な人材を重用しても、本人は自分の実力だと思うだけで、あなたに感謝しないどころか、あなたのことを軽視する恐れがある。人材登用は、敵か味方かどうかで行うのが現実的な知恵だ。

職場内の敵味方をどこで見極めるか?

自分の組織で年齢差が5歳以内の人間は、潜在的な敵なのか、もしものときの味方なのか、どちらだろうか。正解は「潜在的な敵」である。小さなことが嫉妬の対象になりえるし、人事の局面でも邪魔者になってくる。

よって、水面下では蹴飛ばし合いをする覚悟が必要になる。相手にとっては自分が抹殺対象だったというのは、よくあることだからだ。

逆に、5歳以上離れた先輩や後輩は、自分の味方にしなくてはいけない。先輩なら、自分を真っ先に引き上げてくれるかもしれない。後輩なら、退職後の再就職の世話をしてくれる可能性があるので、大事に扱いたいところだ。

また、成果を上げる人事登用の秘訣は、上司と部下には正反対の性格の人間を据えることである。上司がよく喋り、よく行動する「動」のタイプなら、その直属の部下・参謀には冷静に物事を判断できる「静」のタイプを置くと、組織がうまく機能する。

歴代最長の連続在任期間を誇る佐藤栄作元総理大臣は、人事の能力を組閣で発揮した。動の田中角栄、静の福田赳夫という二人をうまく配置し競わせることで、自民党の長期政権を盤石なものにしたのである。

上司が「カラスは白い」と言ったら正しい返事は?

企業の多くが、いい人材の獲得に頭を悩ませている。もし著者が入社試験をするとしたら、「上司が『カラスは白いと思う』と言ったら、どう反応するか」という問いを就職活動生に答えさせるという。

著者の採点基準はこうだ。ニコニコ笑って受け流すは5点。「白いかもしれません」と弱い肯定をするのは5点。「カラスは真っ白」と断言できれば10点だ。著者なら「白いカラスを連れてきて、やっぱり上司の言うことは正しいと宣言する」という。

ここで「カラスは黒い」と言う人は組織に向いていない。組織に理不尽はつきものだ。上司が少しおかしなことを言っても、笑って受け流さなければいけない。

どんな学生を採用するか迷ったときは、面接の場で、デタラメな人間だとわかる態度を取ってしまう学生を採るとよい。そうした学生は怒られ慣れているため、入社後に失敗してもめげないからだ。

小泉政権時代に大臣スキャンダルがなかった理由は?

週刊誌がスキャンダルを報道するのは、スキャンダル情報が手に入ったときではなく、相手が大臣になるなど有名になったときなのである。

5年5カ月続いた小泉内閣では、政治とカネをめぐる問題は起きなかった。その理由は、著者が閣僚候補のカネの問題を徹底的に調べる「身体検査」があったからだ。

実は、政治資金収支報告書はいくらでも修正できる。著者は、この特徴を利用して、閣僚候補の報告書から怪しい領収書が見つかった場合には、ただちにそれを修正させる「クリーニング」まで行っていた。

第2次安倍内閣の小渕優子経済産業大臣の辞任も、批判が報道される前に、小渕事務所や経産省が報告書を修正しておけば防げたに違いない。

メディアを動かす教養

権力に近いのはどっち?

権力に近いのは、表立ってトップに会う人と、裏でトップに会う人のどちらか。正解は後者である。

小泉内閣の総理大臣首席秘書官として「首相動静」をつくってきた著者からすると、誰が何回、首相に会ったという数量的なデータよりも、一緒に入ったはずなのに出てくる時間が違ったり、入った時間が違っても一緒に出てきたりすることに着目したほうが、真実に近づけるという。

たとえば、ある官庁の事務次官Aと、審議官Bが一緒に首相の執務室を訪れたとする。問題となるのは、Bが上司であるAを差し置いて、総理執務室に長時間滞在した場合だ。

AとBの力関係や、Bの専門分野、総理の関心に思いを巡らす必要がある。官邸で内密に動いている案件があるのかもしれないと推理することもできる。新聞に掲載された情報から、本当の政治の動きを読み取るのがプロの仕事だ。

組閣名簿は「補職辞令」に注目

日本のマスコミは、政策の中身よりも人事にしか関心がなく、誰が入閣したとか、女性が何人だとか、うわべだけの報道に終始している。実は、新聞各紙が組閣の翌日に出される閣僚名簿から、総理大臣の考えが透けて見えるものだ。

プロが注目するのは、閣僚名簿の欄外に各閣僚の兼務・担当を記述した「補職辞令」である。たとえば、麻生太郎副総理・財務相は、内閣改造の際に「デフレ脱却・円高対策担当」から「デフレ脱却担当」へと補職辞令が変更された。

これは、円安へと誘導してきたアベノミクスに一定の効果があったので、経済面ではデフレ脱却に集中したいという決意の表れと読むのが正しいだろう。

一人の閣僚がいくつの分野を担当するか、担当分野に一貫性があるかなどから、首相が本当に力を入れている政策を探ることができる。

真実を操る教養

辺野古基地への本当の住民の反応は?

普天間基地の移設先として、辺野古のキャンプ・シュワブが有力とされた背景を探ると、ニュースから知ることのできない沖縄の真実が見えてくる。

沖縄の基地問題に関する文献によると、もとはといえば、現在の名護市辺野古と金武町が、村おこしを目的に積極的に米軍基地を誘致したというのだ。

当時の辺野古地区では地主の8割以上が自ら望んで米軍と契約し、1959年の基地完成の際には大規模な祭りも開催されたという。経済格差に悩まされていた北部の村々が、雇用促進、電力、水道などのインフラ整備、米軍病院による医療サービスの充実を求めて米軍に頼ったというのが基地誘致の背景だ。

辺野古への移設は、安全面、騒音面、環境面の課題があるとされている。しかし、滑走路の建設では周辺環境の安全に十二分に配慮されており、騒音問題も、自ら誘致しているのなら、目くじらを立てるのはおかしい。沖縄の海を守るために埋め立てに反対するという「環境」の課題もクリアすることができる。

辺野古の埋め立て計画は、これまでの沖縄の埋め立て工事のたった10分の1にすぎず、那覇空港の滑走路増設事業でも、辺野古と同じ規模の埋め立てが予定されている。民用地の埋め立てはよいのに米軍基地の埋め立ては悪いという論は成り立たない。安倍内閣は粛々と基地移転を進めるべきである。

謝罪会見のうまい切り抜け方とは?

組織である以上、叩けばホコリは出る。悪事は罰せられるべきだが、組織である以上、社員が路頭に迷い、国民に迷惑をかけるのを避けるためにも、経営者は会社を存続、発展させていかなくてはならない。では、メディアや捜査当局と対峙(たいじ)せざるを得ないときは、どうすればいいだろうか。

不祥事は、社会通念を逸脱した行為と、法的根拠のある違反行為の2種類に分けられる。前者について批判が高まったときは、価値観の違いだと強弁するのが一番だ。絶対に謝罪してはいけない。

たとえば、「景観のいい分譲マンション」と売り出されていたマンションに住民が入居したところ、目に入るのは不愉快な光景ばかりで、住民は大いに怒った。こんなときは「景観の良し悪しは価値観の問題で、私にとってはいい景観だ」と突っぱねればよい。

次に、法的根拠のある違反行為の場合は、広報と担当部署が書面の謝罪で済ませてしまうのがよい。記者会見を開く義務はない。無味乾燥な書面で回答すれば、国民の記憶にも定着しないだろう。

また、不祥事の発表は、全貌をつかみ、一度に明らかにすることが鉄則である。企業にとってのダメージの大きさは、スキャンダルの重さではなく、そのスキャンダルに新聞が割く紙面の大きさやテレビが費やす秒数によって決まる。多少明らかになる罪が増えようと、報道が一度であればダメージは最小限で済む。

不祥事が発覚したら、冷静に捜査当局の動向とメディア心理を読むのが、危機管理のスタートだ。

教養で世界征服

イスラエルの秘密

今、世界の無人航空機の技術は著しいスピードで発展している。この技術開発をリードしているのは、イスラエルの会社である。イスラエルには、空中で静止して重点ポイントを監視できる、無人の垂直離着陸偵察機もある。

だが、日本が活用するイスラエルの技術は、なんと航空自衛隊のヘルメットのみだという。日本はもう少し貪欲にイスラエルの防衛産業とコミットすべきである。

イスラエルでは、男性は3年、女性は2年の兵役が義務付けられており、特に優秀な人材は兵器開発や情報技術関係の任務に抜てきされ、その経験を生かして起業するパターンが多い。毎年新しく約400社が起業するイスラエルでは、国際市場で勝負できるソリューションをひとつでも開発すると、会社ごと売り払うケースが多い。

会社を大きく育てるより、会社を売って利益を得て、また別の会社をつくることを優先するのがイスラエル建国以来の伝統だそうだ。世界中のスポンサーから投資が集まり、情報ネットワークの強みを持つため、開発が失敗しても技術者たちはまったく動じない。これがイスラエル式「技術立国」である。

こうしたイスラエルのベンチャーは、日本企業にとって最高のパートナーになるだろう。彼らは会社に関心がないため、「乗っ取られるのでは」という不安は無用だからだ。ただし、即断即決を強いられ、多様性に満ちたイスラエルとの交渉ができるかどうかがカギになるだろう。
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本書には、飯島氏が大阪市長選に出馬してほしいと頼み込むほど尊敬を寄せている西川きよし氏や、飯島氏の家族全員が熱狂的なファンだという、ももいろクローバーZなどとの豪華な対談記事も掲載されている。

対談のやりとりから、飯島氏の意外な素顔が見えてくるのも面白い。24問のクイズのうち何問正解できるのか、意外な正解の理由に何回度肝を抜かれることになるかは、本書を読んでからのお楽しみである。

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