【堀紘一・下】万物は集合と離散を繰り返す。コンサル業界も例外にあらず

2015/8/21

「戦略コンサルティング」という言葉の怪しい魅力

──堀さんがDIを創設されてから15年が経ち、当時の戦略は正しかったと確信されていますか。
堀 難しいことに、物事は戦略さえ正しければうまくいくわけではない。戦術や人の配置など、いろんなことが影響してくる。だから、一概に正しかったかどうかは確信できない。
ただ、言えるとすれば、僕らは既存の戦略コンサルティングの領域で戦っていたら、座して死を待つだけだと思ったんだ。
コンサルティングの歴史をひもとくと、今から100年ほど前にフレデリック・テイラーが経営コンサルティングを始めた。1920年代にはマッキンゼーが頭角を表してきたけど、その要因は、コストカットで優れた成果を挙げたから。具体的には、OVA(Overhead Value Analysis)という手法を使って、売り上げを生み出さない間接部門の価値を分析し、価値に見合わないところは、人員を削減していった。これが大当たりしたわけ。
1960年代にはBCGができたんだけど、完全にマッキンゼーの後発だった。そこで「戦略」というコンセプトを打ち出して、先発組との差別化を図った。当初はマッキンゼーも静観していたんだけど、BCGが創設されてから3年後には、同じく戦略コンサルティングをするようになった。すると、世の中のコンサルティング会社が、どこもかしこも戦略をやるようになった。
日本でもそうだよ。SIer集団のITコンサルティング会社でも、自らを「戦略コンサルティング会社」と名乗るようになった。だからたまに、就活生がだまされるんだ。それぐらい「戦略コンサルティング」という言葉には、怪しい魅力があるんだよね(笑)。
余談だけど、マッキンゼーとBCGの違いを言うと、マッキンゼーはコンサルタントを型にはめる会社。たとえば、服装も決まっていて、紺か黒のスーツ、白のシャツじゃなきゃいけない。今日僕が来ているスーツはダメだし、(構成者を指して)あなたが着ている紫のシャツなんて、論外だね(笑)。
マッキンゼーが「ジェントルマン」「プロフェッショナル」と定義している世界のイメージから、一歩も外に出てはならないんだ。BCGはそんなことなかったよ。いろんな背景の人がいて、自由度は高かったから。
いずれにせよ、DIはマッキンゼーやBCGがつくった枠組みを超えて、ビジネスプロデューサー化、技術重視、霞が関への進出という、新たな領域に挑戦していった。
また、大手のコンサルティングファームは通常、1人1プロジェクト制だけど、うちは1人で同時に2プロジェクトを持たせている。プロジェクトが忙しくなるピークはだいたいずれるから、2つぐらい持ってるほうが効率がいい。個人としても、学習スピードが早い。だからやらせている。
それから、参考までに言っておくと、勘違いしちゃいけないのは、コンサルティングで通用しなくても、その人が「できない人」ではないということだね。世の中には、コンサルタントとしては大成しなかったけど、経営者や評論家などで活躍されている人もたくさんいる。
逆に言えば、よく「インベストメントバンクとコンサルティング会社、両方で働いていました」といって本を出す人がいるけど、ちっともすごくないよね。簡単に言えば、どちらの世界でも役に立たなかったということかもしれないからね(笑)。
本当に役に立つ人だったら、両方の業界なんてやらないもん。違う業界に行ったら、まったくの素人になってしまう。よほどの天才は別かもしれないけどね。
ちなみに、通常のコンサルティング会社は「Up or Out」、要は上に上がれない人間は辞めるしかない、というのが鉄則なんだ。だけど、DIでは、社員の専門性を生かしてグループ内で別の仕事に就いてもらうこともあって、「Up or Out」ではなく、「Move or Perform」としている。だからこそ、僕はコンサルティング以外のビジネスもDIでやっていきたいと思っているわけ。実際、DI全体の売上のうち、コンサルティング事業は2割を切っているからね。

ある時期を過ぎると、専門化のニーズが高まる

──5年後のコンサルティング業界のトレンドをどのように読んでいますか。
あらゆることは集合と分散を繰り返す。それぞれ活動していた複数の会社が、スケールメリットを享受するために集合し、巨大化していく。ところが、一定の時期を過ぎると専門化のニーズが高まってくる。すると機能ごとに分散化していく。これを繰り返していくわけ。