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受け手のフィードバックをペルソナに反映

中野信子、コメントするときは「中野先生」、メタ認知を貫く

2015/8/18
NewsPicksの最大の特徴は、多様なピッカー(読者)の多彩なコメントだ。ただ、記事をピックしコメントする面白さとともに、難しさを感じる人も多いのではないだろうか。また、会議や商談などあらゆるビジネスの場、日常的な人付き合いの場において、「それで、あなたはどう思うの?」と“コメント力”を求められる機会は多い。では、コメントを仕事の一部とするプロのコメンテーターたちは、どのような哲学や法則にのっとってコメントしているのだろうか。テレビのコメンテーターあるいは、NewsPicksのプロピッカーという、いわばコメントのプロたちに、「コメント力」の鍛え方を聞く。

実売部数10万部を超えるヒットを記録した『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』(幻冬舎)で知られ、数多くのテレビ番組への出演でテレビコメンテーターとしても親しまれている中野信子さん。浮ついたバラエティー番組などでも、一貫したファクトベースのコメントをする姿が印象的だが、意外にも中野さんは、コメントでは「自分の意見は言わない」と言う。なぜなのか?

しゃべっているのは私ではなく「中野先生」

公の場でコメントするとき、私は「中野先生」がしゃべっているのをメタ的に見ているという感覚なんです。

「中野先生」は、個人のエモーショナルな部分や偏向、偏見などの“人間の匂い”をできるだけ排除した、科学的な視点でモノを見るペルソナとして設定しています。もちろん、「中野先生」はまったくの架空のキャラクターとして存在しているのではなく、私の中には「中野さん」と「中野先生」の両方がいて、私的な場か、公の場かによって、その割合が変わるんですね。

公の場では、「中野先生」の割合がぐっと上がります。「中野先生」は、数字やデータを用いて解説はするけれど、自分の意見は言いません。たとえば、私自身は政治的な考えを持っていないわけではないですが、公の場では出さないようにしています。

ジェンダーの話題に関しても、生物学的に男の人は浮気するようにできている、女の人は男の人をうまく使って子育てするようにできている、という話はしても、ああしたほうがいい、こうしたほうがいいという言い方はしません。主観を加えないんです。

そこに主観を加えるのは、私ではなく、受け手側、読者の皆さん、視聴者の皆さんなんですね。

どうして「中野先生」は自分の意見を言わないのか

「中野先生」としてコメントするのは、読者や視聴者は私個人の意見が聞きたいわけではないだろうと思うからです。インターネットが発達し、これだけ誰もが情報発信可能となった時代において、人々が求めているのは、誰か個人の意見ではなく、信頼できるデータだったり解説だったりするのではないでしょうか。

私が自分の意見を言わないようにしているのは、読者や視聴者の要請を意識しているからだけではなく、サイエンスの教育を受けたからでもあります。

科学者は、仮説を立てて、実験をして得られたデータを見るときに、「こうあってほしい」という視点で見てはいけない、と教育されます。そうした視点が入ると、科学ではなくファンタジーになってしまいますからね。客観的な事象だけを捉えなければならないのです。

メタ認知によって得られる効用とは

コメントしている自分をメタ認知することによって、リスクマネジメントができるという側面もあります。なんらかの発言によって「中野先生」が攻撃されても、中野先生はそういう人だから、と冷静に受け止めることができるからです。

「こういうことを言うと、みんなはこういうふうに感じるんだ」ということをひどく傷つくこともなく客観的に見られて、面白いですよ。そのフィードバックを「中野先生」のペルソナに反映させたりもできますしね。

さらに、コメントすることに限らない話になってきますが、メタ認知によってもっと人生を楽しめるようになる側面もあると思います。

あるとき、経済的に成功した人が語った「もっとあの不安な時代を楽しんでおけばよかった」というフレーズに出会いました。「不安を楽しむ」という視点は目からうろこだったのですが、言われてみれば、確かに“勝ちパターン”って意外とバリエーションがなくて退屈ですよね。勝っておカネが手に入ったら、家を買う、車を買う、女の子/男の子と遊ぶ、豪遊する、投資、美食、アート。そんなところでしょうか?

だからこそ前出の「不安を楽しむ」との言葉が出てきたと思うのですが、「不安を楽しむ」にはメタ認知が必要なんです。「今不安なんだね、私」っていう視点、「今すごく嫌なやつと会っていて怒っているね、私」っていう視点、「キレちゃってるね、私」って視点。それを面白がる“私”がいると、人生がもっと豊かになるんじゃないかなと思います。

メタ認知をするには前頭前野を鍛えよ

メタ認知をするのに使うのは、脳の前頭前野という部分です。ここは、大人になってからも神経新生が起きますし、割と遅くまでかかって成長する部分なので鍛えがいがあるといえそうです。

前頭前野を鍛えるには、メタ認知ができている人のやり方をまねるのが一番早道です。

スポーツを上達させたいとき、1人であれこれやってみるよりも、誰かできている人の姿を見て自分のやり方に反映させるほうが学習が早いのですが、これは人間は学習するときに必ずミラーニューロンというものを使うといわれているからです。

ミラーニューロンの働きのおかげで、他人の成功とそこまでの過程を目の当たりにすると、そのイメージが脳にコピーされる。そうすると、他人の成功までの道のりが自然と自身の行動に反映されていきます。

ですので、メタ認知を学ぶには、メタ認知をできている人の姿をまねることが一番早いということになります。身近にまねできそうな人がいない場合は、メタ認知できている人の思考形態や、視点の置き方を書物から学ぶという方法も有効です。

具体的な書名を挙げるとすると、三島由紀夫の『三島由紀夫レター教室』(筑摩書房)をおすすめします。内容は、手紙のやり取りを通して人間関係が展開していく話なのですが、手紙を書く中で、登場人物が「自分は今、こういう状態だ」とメタ的に捉えている様子が自然に書かれています。読みながら、「今、こういうことをしゃべっている自分」「今、こういうものを読んでいる自分」などと、メタ的な視点ができてくるようになると思います。

さらに、ミステリー全般を読むこともいいんじゃないでしょうか。多くの場合、登場人物が皆エモーショナルに動いている中で、探偵は神の視点に近いところから観察しています。この神の視点の置き方がメタ認知に近いんです。

中野信子の「コメント力」の秘訣
1. コメンテーターとしての「ペルソナ」をつくる
2. 科学的知見を求められているので、個人的な意見は言わない
3. メタ認知を楽しむ

(取材・文:村井京香、撮影:遠藤素子)
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*明日掲載の「国語辞典編纂者・飯間浩明から見た、ネットでコメントをするためのコツ」に続きます。