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ASEANの全体像を俯瞰する

【全8回】なぜ今、日本はASEANに注目すべきなのか

2015/8/18
成長著しいASEAN。日本との関係はビジネスをはじめ、さまざまな面で緊密化。今回の予告編に加えて7回連載でASEANをざっくり理解するための基本情報や「勘所」を提供する。9月からはインドネシアを皮切りに、国別編を掲載予定。「外交官×エコノミスト」としてASEANを長期にわたってウオッチしてきた筆者の視点から、独自の情報・分析をお届けする。

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日本人のお馴染みとなったASEAN

ここ数年、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の距離は急速に縮まりつつある。

ASEANに進出する日本企業は増え続けているし、ASEANに旅行する日本人も年々拡大している。たとえば、今年のシルバーウイーク旅行先ランキングではマレーシア、タイ、インドネシアがトップ3となっている。

ほかにも、日本人の海外移住先としては、9年連続でマレーシアがトップ、2位にタイが続いており、シンガポール、フィリピン、インドネシアも人気である。移住先ランキングを見ると、ASEANの独占状態だ。
 grp01_海外旅行先人気ランキング

 grp02_ロングステイに関する意識調査

企業・貿易・外交などで欠かせない存在

日本において、企業・個人両面で「ASEANブーム」が起きている背景には、ASEAN経済の活況がある。過去数年、ASEANの経済成長率は5%前後で推移しており、今後も5%を超える成長を続けると予測されている。これは、世界の新興国平均よりも高い水準だ。
 grp03_ASEANと世界の経済成長

こうした高成長は、日本企業のASEAN進出のインセンティブとなっている。特に2010年に日中関係が悪化し、いわゆる「チャイナリスク」が喧伝(けんでん)され始めてからは、日本人のASEANへの関心がより一層高まった。

読者の皆さんの中にも、ASEAN諸国に駐在してビジネスに奮闘中の人や、友人や同僚などが東南アジアに赴任する話を聞くことが増えた人も多いのではないだろうか。

また、最近では、日本を訪れるASEAN諸国からの観光客も急増しており、国別の観光客数でも、中国本土、香港、台湾の中華圏、韓国に次いで、タイが第5位につけている。インドネシア、マレーシア、ベトナム、シンガポールからの観光客も前年比30〜50%増と高い伸びを示している。

今やASEANは、日本にとって、企業進出先、貿易パートナー、外交・安全保障など、広い分野にわたって欠くことのできない存在なのである。

「陸のASEAN」と「海のASEAN」

ここで、改めて「ASEANとは何か」を説明しておこう。

ASEANとは1967年に設立された地域協力機構であり、正式名称は東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)である。

設立当初の原加盟国は「オリジナル・ファイブ」と呼ばれるインドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン。これに加えて1984年に加盟したブルネイも含めて「ASEAN6」と呼ぶ。

そして、米ソ冷戦が崩壊し、ASEAN設立当初の防共・反共という目的の意味が失われた後は、1995年に共産党一党独裁のベトナム、1997年に社会主義政権のラオスと軍事政権のミャンマー、そして1999年には戦乱から国際社会に復帰したカンボジアが加わり、現在の10カ国体制となった。

ASEAN各国はとにかく多様だ。最近、日本では「陸のASEAN」と「海のASEAN」という呼び方もある。

「陸のASEAN」は工業化に成功したタイが中心的な存在だ。タイに加えて、メコン川流域に位置するベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーは「大メコン圏(GMS:Greater Mekong Sub-Region)」と呼ばれる。フロンティア市場が多いことから、今後の高度成長に期待が寄せられている。日本政府も「日メコン協力」の枠組みで、産学官挙げての協力を実施している。

一方、「海のASEAN」の顔ぶれは多彩だ。ASEANの大国インドネシア、金融ハブのシンガポール、イスラム金融やハラール産業など独自の強みを発揮するマレーシア、ビジネス・プロセス・アウトソーシングなどサービス産業が経済をけん引するフィリピン、資源国のブルネイ。特にマラッカ海峡は日本向けに原油や天然ガスを積んだタンカーが通過する要衝でもあり、「海のASEAN」の発展と成長は日本にとって重要な関心事だ。

今年末にはASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)の発足が控えており、日本企業のビジネスチャンス拡大につながる。また、現在交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP、ASEANに加え日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドが参加)交渉でも、ASEANは中核を担っている。日本経済にとってASEANは、もはや欠くことのできない存在なのである。

明日公開する第1回は日本とASEANの関係を解説する。

ASEANの全体像を理解するために

最後に、連載を開始するにあたって、筆者の自己紹介をさせてほしい。

筆者は大学で東南アジア研究を専攻し、外務省に在マレーシア日本国大使館勤務を含む約11年、証券会社でASEAN担当のエコノミストとして約5年勤務した。ASEAN地域との関わりは、もはやライフワーク化している。

大学で学んでいた時期(1995〜1999年)は、「遅れた地域のことや、マレーシア語・インドネシア語を勉強して何か意味があるのか」と言われたこともある。そして、授業で読んだ論文はASEANが地域協力機構として「いかに欧州連合(EU)よりも劣っているのか」という点にフォーカスした議論が多かった。

東南アジアに関わって足かけ20年、最近の日本企業や一般の人々のASEANへの関心の高さは、とても感慨深いものがある。

ただ、ASEANのニーズは高まっているものの、ASEANに関する日本語の情報は十分に提供されていない。情報の量自体は増えているが、全体を俯瞰するような視点を提供する情報は不足している。

実際、筆者が証券会社に勤務していた間に、機関投資家や事業会社を多数訪問したが、「ASEANについての情報は断片的で、全体を俯瞰する情報が取りにくい」「タイやインドネシアなど、個別の国はある程度理解していても、ASEANの全体像は理解できていない」という声に多く触れた。

そうしたリクエストに応えてNewsPicksでは、日本の将来にとって死活的に重要となるアジア、中でも、今後の高い成長性が期待されるASEANについて、独自の視点から情報を提供していきたい。

今回の連載「ざっくりASEAN」では、基礎情報に加えて、ASEANを理解するうえでの「勘所」を伝えていく。今後は、「ASEANカントリーリポート」として、各国ごとに詳しいリポートも執筆していく予定だ。

ASEANに対する理解度は読者の皆さんによってさまざまだろう。そのため、コメント欄を通じて質問を受け付け、可能なかぎりコメント欄や記事を通じて回答する予定である。

また、「NP Flash News」やそのほかの企画を通じて、ASEANだけでなく、中国・インドを含むそのほかのアジア諸国や中東・アフリカまでを視野に入れた重要ニュースの解説を行っていく方針だ。NewsPicksが届ける広域アジア・グローバル情報に期待してほしい。

*続きは明日掲載します。

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