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ホフステード研究で見る、各国の国民性

データで見る、日本の管理職が「マイクロマネジメント」「ホウレンソウ」を連呼する理由

2015/8/15

ザ・ドメスティックだった自分も違和感をもった日本文化

自分は33年間日本に暮らし、日本企業でしか働いたことがありません。出身の宇都宮市はほどほど都会ですが、郊外の田舎町に育った自分は、高校卒業まで「英会話」というものをしたことがありません。

海外旅行デビューも大学に入ってから。そもそも大学時代ですら、外国人の友達はクラスや寮に日本語ペラペラなアジア人の数人だけ。就職しても、ほとんどが100%純日本人(かつ男性多め)というものすごくモノカルチャーな人生を歩んできました。

大抵の日本人は(ここまでではないにせよ)近いようなレベルの異文化経験しかもっていないのではないか、と思います。

そんな純和風な私でも、1年バンクーバーに住んでみただけで、「日本/海外」で衝撃的なほどの違いを感じ、大きな価値観の揺すぶりを経験しました。日本企業の海外支社ではありますが、多文化環境で一度でも働いてみれば圧倒的に感じる「日本人の特異性」。今日はそこについて掘り下げてみたいと思います。

ホフステード研究というのをご存じでしょうか。IBM研究などで知られるオランダの社会心理学者で、1960年代後半から1970年代前半にかけて、6年間で数々の多国籍企業を研究した異端の研究者です。彼の研究は今も異文化研究の基盤となっています。半世紀近く前の結果ですが、思い当たる節がありすぎる研究結果をご覧ください。

彼は集団によって規定される価値観を下記の5つの軸で分析しました。
 grp01_5つの軸

圧倒的に男性主義/リスク回避かつ長期志向の日本人

76カ国調査の平均は、こちら。まあ平均的な数字となってます。
 grp02_average

各国の特徴を見てみましょう。アメリカは非常にわかりやすく、非権威主義でフラット、かつ超がつくほど個人主義、リスクも好み、短期勝負。これはカナダ、オーストラリア、そしてイギリスも同じかたちを示す、まさに植民地時代に通じるアングロサクソンの新地開拓文化を表した結果になっています。
 grp03_america

フランスは権威主義かつ個人主義、「女性」らしさの強さが特徴で(人間関係重視)、リスク回避的、やや短期志向。

ドイツは非常に平均値に近くバランスがとれていますが、長期志向というところが特徴。家族主義・家父長的なドイツは何かにつけ日本と近い気質が語られますが、ホフステードではこのほか、国ごとの特徴を見だすと、いろいろ面白すぎて止まりません。
 grp04_france_Deutschland

では気になる日本の数字を詳細に見てみましょう。

76カ国の順位で言えば、PDI54点(49位:比較的権力集中)、IDV46点(35位:比較的集団主義)、MAS95点(2位:極端に仕事主義、成長・競争を志向する肩書社会)、UAI92点(11位:強くリスクを嫌う)、LTO80点(3位:極端に長期志向)となっています。他国に比べて、数値の出方が大きく、かなり特徴が色濃く表れています。特にMAS(男性的)、UAI(嫌リスク)、LTO(長期志向)などで世界的にも極端な数字が出ています。

ちなみに同じ日中韓を比較してみると、同じアジアの隣国同士でもこんなにも違うのかと驚かされます。

おおむね権威主義/集団主義/長期志向というところは似ているものの、好リスク志向の中国と、リスク回避型の日韓(前回の世界各国の起業家比率で中国がアジアの中でも飛び抜けていたことの根拠を明確に示す結果になっているかと思います)。

「女性」らしさの強い韓国と「男性」らしさの際立つ日中。やや近い韓国が最近グローバル化に大きくかじを切って成功事例を築いた点は逆に救いですね。
 grp05_asia

全体をうまく分類するため、よく比較される2軸でいうとPDI(権威主義)と、UAI(リスク回避性)です。好リスク/非権威主義はAnglo Saxon(アングロサクソン)とNordic(デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー)で、まさに起業家文化を育んできたエリアです。“Village Market”と呼ばれる国々です。

好リスク/権威主義はアジア諸国で中国、シンガポール、香港、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど、“Traditional Family”と分類されます。リスク回避/非権威主義は“Well-Oiled Machine”と分類され、ドイツ、スイス、オーストリアです。

そして、“Pyramid of People”と呼ばれるリスク回避/権威主義のゾーンにラテン(フランス、メキシコ)やアラブ諸国、そして日本、韓国が入るというかたちになっています。同じアジアの中でもリスク指向性の高い中国、東南アジアと、強くリスク回避型の日本、韓国・タイで分かれている点も非常に面白い違いです。
 grp06_PDI_Uncertainty_Avoidance

日本人マネージャーの苦しみ

こうした日本人の特性はどういう結果を生むのか。海外人事マネージャーが日本の仕組みを学ぶと、決まって出てくる言葉が「マイクロマネジメント」と「ホウレンソウ」(ロッシェル・カップ『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』より)。

結果よりもプロセスを重視して、細部に至るまでマネジャーが全てを把握しようとする。詳細に埋もれてビジョンを示せず、何より適切なフィードバックで「エンパワーメント」する習慣がないため、とにかくリーダーシップの弱さを指摘されがちです。

日本と北米文化との相性は、正直言って、良くはありません。アジアが一番近く、欧州のほうがまだ中立的で、北米とのポジショニングは対極に近いです。

これは強み/弱みのコインの表裏とも言えます。日本は人種・文化の多様性どころか、性別の多様性すらも低く、非常にモノカルチャーな環境で築き上げられた「結束性・一体感」を強みとしてきました。日本人男性の中での「マイクロマネジメント」と「ホウレンソウ」で、奇跡的に全体が一気呵成に製品づくりに向かった時代がありました。そして実際にそれこそが過去日本企業の製品の質を担保する競争力の源泉でした。

ところが、それが一歩海外に出た瞬間、皮肉なことにこの強みが、完全に弱みとなって転化してしまう。海外展開を推進する日本人は、大小の違いはあれど、皆こうしたことを経験しているかと思います。

このほかにも日本ならではの理由でグローバル化の足が遅まってしまう理由は、挙げればきりがありません。かといって、これは強みの裏返しでもあり、我々に染みついたものであるために、単純に「欧米化だ!」とばかりに性急な外科手術しても、当然うまくはいきません。

そもそも本来、日本人の強みというのは変化への柔軟性にあったはずです。和辻哲郎は「日本人ほど敏感に新しいものを取り入れる民族は他にないと共に、また日本人ほど忠実に古いものを保存する民族も他にないであろう」と語っています。

この矛盾した表現は以下のように理解できます。日本人は、とにかく「空気を読んで」、自分の本質を変えずに相手になりかわるのがとにかく上手い。多神教からくる受容性の高い価値観に、ボトムアップで強い組織化を築く家父長的・村落的社会風土があり、非論理的でニュアンスを読む力が要される日本語という言語特性も手伝って、自律分散協調型な人格が出来上がります。

つまり現場が自律的に異物を自分なりに解釈し、その良いものを取り込む。それが、遣唐使から鉄砲伝来からペリー来航から、1000年以上にわたって日本人が外的な力を取り入れてきた歴史なのです。歴史的変化にも強靭で、自らの根本を変えずして容易に適用する「和魂洋才」的な特徴は、いままさにこのグローバル化のトレンドの中でこそ、生かされるべきものなのではないかと思います。

ちょっとわかりづらい表現になってしまいましたが、一つ自分の体験も含めて感じる発見としては、ミドルマネジャーが「その強みはそのままでいかに北米文化のいいところを自らに取り込むか」、なのではないかと思います。ただそれをするためには、頭が柔軟なうちに海外に送り、きちんと時間をかけて「(トップではなく)現場にとけこませるポジションで」仕事をしてもらう必要があります。覚えるべきことは「他人を信頼し、任せる」「明確な指示を与え、結果を待つ」「プロセスについては詳細まで言及しない」。たったこれだけのことですが、これが出来れば立派なグローバル人材です。

それよりも、今後語っていくべき困難な問題は、むしろ日本人のリーダーシップのあり方、どうトップマネジメントしていくか、ということです。世界中を知ることより、自分自身を知ることのほうがはるかに難しい。究極的には日本人とは、を知ることが海外に出る一番のテーマなのだと思います。

*本連載は隔週土曜日に掲載予定です。