脱カリスマで躍進。船井総研の「会員囲い込み」ビジネスはなぜ成功したのか

2015/8/12
コンサル業界には独自のビジネス手法で業績を拡大する企業がある。それが船井総研ホールディングスだ。売り上げは2006年をピークに、その後5年間、減少の一途をたどったが、2012年からは増加に転換、2014年度決算では、過去最高の124億8500万円を記録した。「スケール(拡大)が難しい」と言われるコンサルビジネスにおいて、独自の存在感を示している。好調の背景には、プロジェクト型コンサルの問題点を克服する「会員囲い込み」というビジネスモデルが見え隠れするが、実情はどうなのか。同社社長・高嶋栄氏に話を聞いた。

スーパーコンサルタント主義からチーム主義へ

──船井総研の業績回復の要因は何ですか。
高嶋 まず当社の2007年からの売り上げの伸び悩みについてお話をしますと、当時売上高100億円がひとつの壁として立ちはだかっていました。
コンサルティング会社は、多くのコンサルタントが持続的に活躍しなければ業績を拡大することができません。しかし当社は、一部の優秀な社員に、売り上げの拡大を頼っていた。その限界が来たのです。
前任社長までの時代は「スーパーコンサルタント主義」。自身がスーパーコンサルタントだったがゆえに、「コンサルタントとはかくあるべし」という明確な理想像を持っていました。当時はそのようなスーパーコンサルタントにけん引させることにより、会社全体の活力を生み出すという手法で業績の拡大を果たしていました。
こうした歴史の中で、業績に陰りが見えた。この壁を越えるためには、スーパーコンサルタントだけに頼るのではなく、新卒社員が早い段階で自立し、クライアントにサービスを提供できる体制を組織的につくらなければと思っていました。そうしないと、「100億円の壁」を突破しても、すぐに「200億円、300億円の壁」にぶつかると考えたからです。
だから、社長に就任した2010年に、「スーパーコンサルタント主義」から「チームコンサルティング主義」へと方向性を変えました。つまり、クライアントの課題に、チームで取り組んでいくことで、クライアントへの貢献をさらに果たすことを目指しました。
──方向性を変えるにあたって、具体的にはどういったアプローチを取ったのですか。
社員一人ひとりを、業界ごとに特化したコンサルタントに育てていきました。「あれもこれも1人でやる」というのは、無理がありますから、そこはチームで補えばいい。
また、コンサルティングのアプローチも「成長実行支援型」、つまり売り上げ拡大のためのマーケティング支援に特化しています。なぜならマネジメント支援だと、20代のコンサルタントが来たら「10年早い」と思われるかもしれませんが、マーケティングなら若くても価値を出すことができますから。
──若手を戦力化するために、どういった育成方針を取っていますか。
業界別経営研究会を通じて、育成を試みています。船井総研では創業時より、クライアントから会費を集めて会員になってもらい、交流会や勉強会を主催していました。
現在は取引先である約8000社のうち、5000社ほどが会員になっていただいています。そこに、進行役として若手社員を投入することで、業界の専門性が身に付くだけでなく、経営者との接点が深まり、相手のニーズがつかめるわけです。
若手を自立させるためには、とにかく経営者に会わせるのが一番です。もちろん、ただ先輩社員の後ろにくっついて、経営者に会っているだけでは、「この人、なんでいるんだ?」と思われます。
でも研究会を通じて知り合えば、かわいがってもらえて、いずれは自分のクライアントになってくれる。経営者にとっても、新人時代から見ているコンサルタントが成長するのは、うれしいものなんです。

社員数が数人の零細企業もターゲットに

──会員制度で顧客を囲い込み、研究会に参加してもらったうえで、コンサルティング契約に結び付けるというビジネスモデルですか。
ええ。普通のコンサルティング会社は、プロジェクト型で契約を取る。だが、それだと仕事の終わりとともに縁が切れてしまいます。そこで私たちはクライアントとの縁を維持する「ストック型」のビジネスモデルを目指しました。
そのためには、やはり経営者をつかまないといけない。大手企業が相手だと、担当者が3、4年で変わるため、継続的な付き合いになりにくい側面があります。だから中小企業のオーナーにターゲットを絞っています。
現状、当社の収益の75%は毎月のコンサルティング業務で、この部分の拡大を目指しています。でも私たちは、プッシュ型で顧客に営業をかけることはありません。
ではどうするか。見込み客に対して、いきなり「コンサルティングを受けませんか」と言っても、相手は引いてしまいます。代わりに、まず研究会への参加を勧めます。研究会に入れば当社のコンサルタントの雰囲気もわかるし、すでにコンサルティングを受けている経営者にも出会えるから、情報収集がしやすい。新規のクライアントの不安を消すことも、研究会の役目です。
また、コンサルティングだけ受けている企業と、研究会にも入ってコンサルティングも受けている企業とだと、後者のほうがリピート率が高い。研究会の売り上げ自体は全体の10%ほどですが、重要な位置を占めています。
──継続率を高めるために意識していることは?