npinterview_150811_bnr

テスラモーターズ、カート・ケルティ氏インタビュー(後編)

価格と車幅を除けば、日本人がテスラを買わない理由はない

2015/8/11
8月5日、テスラモーターズが大阪に直営店をオープン。東京・青山店に次ぐ、国内2店舗目となる(詳細はこちらの記事を参照)。そこで、「テスラ心斎橋」オープンに際し、テスラのバッテリー部門をリードし、テスラモーターズジャパンのディレクターも務めるカート・ケルティ氏にインタビューを実施、日本市場の展望や現在進行中のバッテリー事業などについて話を聞いた。前編に引き続き、カート・ケルティ氏へのインタビューをお届けする。ケルティ氏はテスラモーターズ入社前は、15年にわたって松下電器産業(現・パナソニック)に勤め、うち7年を日本で過ごした。

「三洋しか電池を売ってくれなかった」

──ケルティさんは、パナソニックからヘッドハントされたのか。

ケルティ:パナソニックにいたときにテスラにヘッドハントされた。私がパナソニックを辞めたときは非常に大変で、当時はあまりこういった話ができなかった。テスラとパナソニックがパートナーになったのは最近のことで、私がテスラに入ったのは9年前。もうすぐ10年になる。

私がテスラに入った2006年当時、イーロン(・マスク)はまだCEOではなく、ほかの人がCEOに就いていた。入社当初は、電池をどこから買うかを担当する業務に従事していた。当時の上司はCTOで技術に精通していたが、電池のことはよくわかっていなかった。そこで一緒に顧客を回って、どういう電池がいいかなどの評価をしていた。

当時はまだ、電池の供給会社が決まってなかった。そこで私が入って、最初は中国の電池をたくさん見たが、全然良くなかった。そこで、三洋電機の電池を使うことになった。

──三洋の電池を使うことにした決め手は何だったのか。

実は、電池はわれわれが選んだわけではない。当時は、他メーカーはなかなか電池を売ってくれなかった。なぜなら、EV(電気自動車)は危ないと思われていたからだ。三洋に納得してもらって、売ってもらえるようになった。そうしていると、パナソニックが三洋を買った。こういった経緯だ。

──モデルSに乗っているとのことだが、モデルSの前は何に乗っていたのか。

今は、古いタイプのモデルSに乗っている。モデルSの前はプリウスに乗っていた。それはもう、プリウス発売当初から。やはり、念頭には環境に対する思いがずっとあった。

カート・ケルティ(Kurt Kelty) 1986年スワースモア大学で生物学文学士号所得。1991年から約15年間、松下電器(現パナソニック)に勤め、途中、1997年にスタンフォード大学大学院ビジネススクールで理学修士号所得。パナソニック最後の5年間でシリコンバレーにパナソニックの電池技術研究所を立ち上げ、米国内のバッテリー及び燃料セル開発者との研究開発における提携関係を築く。2006年にテスラモーターズに入社。以来、バッテリー部門のディレクター及び、現在はテスラモーターズジャパンのディレクターも兼務する。

カート・ケルティ(Kurt Kelty)
1986年スワースモア大学で生物学文学士号所得。1991年から約15年間、松下電器産業(現・パナソニック)に勤め、途中、1997年にスタンフォード大学大学院ビジネススクールで理学修士号所得。パナソニック最後の5年間でシリコンバレーにパナソニックの電池技術研究所を立ち上げ、米国内のバッテリーおよび燃料セル開発者との研究開発における提携関係を築く。2006年にテスラモーターズに入社。以来、バッテリー部門のディレクターを務める。現在はテスラモーターズジャパンのディレクターも兼務する

オートパイロットはすでに実装済み

──F1のレーシングチーム、レッドブルからメカニックのケニー・ハンドカマーが入り、バッテリー交換ステーションに力を入れるのではないか、と盛り上がっている。テスラはスーパーチャージャーとバッテリー交換ステーションのどちらに力を入れるのか。

われわれはスーパーチャージャーのほうが便利だと思っている。非常に早く充電できるし、バッテリー交換ステーションと違い、同じ電池を車の中に置いておける。

テスラのドライバーも、スーパーチャージャーはコストがかからないので(テスラはスーパーチャージャーを無料で開放している)、スーパーチャージャーのほうを使いたがる。こうした顧客からの声を聞いているので、われわれとしてもバッテリー交換ステーションよりも、スーパーチャージャーのほうに力を入れるつもりだ。

──バッテリー性能は上がってきているのか。

テスラの最初の市販車であるロードスターの場合、バッテリーのアップグレードをし、より性能が上がるバッテリーを売る予定をしている。モデルSについても、いつかはロードスターのように、バッテリーの交換オプションを付けるかもしれない。

また先週、モデルSの85kWhのモデルを、今度は90kWhにレベルアップするオプションも発表した。バッテリー性能は年々良くなってきている。

──オートパイロットは、日本で今使えるのか。

オートパイロットは、日本でデュアルモーターの車両を納車するのと同じタイミング、8月末にリリースする。また、オートパイロットへのオプションパッケージも配達を始めている。

基本的に、オートパイロットはソフトウェアのアップグレードで対応する。オートマティッククルーズコントロールは、先日のアップグレードに含まれており、また、今度のアップグレードでは車線変更時、たとえば、左の列に入りたいならスイッチで入れるようになる。

ほかにも、アメリカでできることと同じことが日本でもできるようになっている。車線変更したいときに、後続車両が来ていれば、センサーが反応してハンドルが振動して知らせる機能や、同じように、眠くなったらハンドルが振動して起こす機能などはすでに実装済みだ。
 修正後2

モデル3を早く発売したい

──モデルXはいつ日本でも納車されるのか。

モデルXの日本での発売日はまだ決まっていない。ただ、いつも日本での納車が遅れる理由は、日本が右ハンドルだからだ。右ハンドルの場合、多くのものを新しく開発する必要がある。

たとえば、ワイヤーハーネスなどいろんな部分が違う。そうすると、どうしても日本とイギリス、香港は遅れて、同じくらいのタイミングになってしまう。

実は今、モデルXの左ハンドルの車体を日本で売るかどうかを検討している。もし左ハンドルを導入することになれば、納入が早くなるからだ。ただ、日本では明らかに右ハンドルのほうが便利なので、左ハンドルへの需要が高いかどうかを今、調査している状況だ。

──テスラの車は高すぎるという声もある。

基本的に日本人がモデルSを買わない理由は2つある。1つは車幅が広いこと。日本の狭い道だと少し大きく感じる。もう1つは値段。だからこそ、モデル3を早くリリースしたい。

今挙げた2つの要素以外に、モデルSを買わない理由はない。乗ったら買うしかない、と。ポルシェより早いし、ハンドリングもほかの車と比較できない。デュアルモーターで4WDもあり、安全性能で言えば世界一だ。値段と車幅を除けば、買わない理由はない。

われわれの頭の中に、今、一番大きくあるのは、「モデル3を早く発売したい」ということだ。それは2年から3年のスパンで見ている。

しかし、モデル3がうまくいくためにはギガファクトリーがうまくいかなくてはならない。どちらも非常に力を入れているが、ギガファクトリーとモデル3を両輪でやっていくことが必要だ。近い将来ではそれが一番の目標と言える。

──今後日本市場での展望は?

当然のことだが、車をたくさん売りたい。日本はいい市場になると思っている。日本人は最新の技術を最も欲しがる。

テスラの車は1回乗ると、「おっ! これが将来の車か」とすぐにわかる。ほかの車と比較できない良さを理解してもらえるはずだ。最初にiPhoneが出たとき、「これは次の時代のものだ」と感覚的にわかったはずだ。それは車も同じで、モデルSに乗るとすぐにわかる。

これは日本だけに限らないが、お客さんには、まずはテスラの車に乗ってもらいたい。乗ったら、絶対に欲しくなる。試乗はタダでおカネがかからないので、とりえず乗ってみてほしい。そうすれば、テスラが世界一の車だと納得するはずだ。テスラは、パフォーマンスが高く安全で、ハンドリングもいい。スピードは速くて、それに加えて、環境にも良い。

そして、長いスパンで見ると、EVがもっと普及して、ガソリン車よりも売れるようになるはずだ。テスラだけではく、ほかのメーカーも含めて、EVがもっと売れたらいいなと思っている。

(取材・文:福田滉平、写真:山本仁志)