当事者は言う。コンサルとファンドの融合は、言うほど甘くない

2015/8/9
変貌するコンサルティング業界のトレンドのひとつが、「投資ファンド化」だ。コンサルティングファームは基本的に、戦略立案にとどまり、結果責任を負わないビジネスモデルだが、最近、実際にクライアントの事業に出資し、結果にコミットする投資ファンド型コンサルティングファームが増えつつある。
では、なぜここへ来て、投資ファンド業務に進出するコンサルティング会社が増えているのか? コンサルタントによる投資活動は、果たしてうまくいくのか? 「投資ファンド化」の現実について、元コンサルのファンドトップ、みさき投資社長の中神康議氏に聞いた。

ちゃんとした中期計画を出せば、株価は上がる

──中神さんは、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、コーポレイト ディレクション(CDI)で約20年弱にわたりコンサルティングを行い、2005年にファンドビジネスに軸足を移しました。
中神 そうですね。現在と同じ「働く株主」のコンセプトで、2005年に投資業界に入り投資助言会社を設立しました。
──「働く株主」のコンセプトとは?
私はずっと経営コンサルタントの仕事をしてきて、クライアントの経営に少しでも貢献することに職業人生を費やしてきました。長くやっていると、クライアントの経営者と一緒になって、経営を大きく変えられることがある。
そうすると、企業価値が上がり、それに伴って株価が上がるという経験をするわけですね。
──記憶に残る、株価が上がった例はありますか。
思い出深いのが2000年ごろ、ある通信関連企業のコンサルティングをしたときです。
日本全国に200近くあった拠点を、儲かっている地域と儲かっていない地域に分け、儲かっていない地域は顧客サービスレベルを落とさないように手を打ちながら支店を統廃合する、あるいは代理店に任せる、場合によっては撤退する。
さらに、当時技術的に可能となってきた新しいインフラを導入するなどして、営業利益を1桁億円程度から100億を超えるレベルにしたプロジェクトをやったことがあります。株価は以前の10倍になりました。
ここまでのインパクトはなくとも、ちゃんとした中期経営計画をつくり、それをマーケットで発表するだけで、株価が上がった例はいくつもあります。それらの体験を通じて、やっぱり株価というのは、より良い経営をすればちゃんと上がるものなんだと理解しました。
そこで、こうすれば経営がもっとよくなるのではないかと思える会社に投資して、経営進化を応援する「働く株主」のコンセプトがいけるんじゃないかと思ったのです。「もしかしたら、こうすれば御社の経営はもっとよくなるんじゃないですか」と所見を持っていくわけですね。
──以前からプライベート・エクイティ(PE)はありましたし、コンサルティング業界からPEに行く人もいました。その違いとは?
2000年代前半は、PE御三家と呼ばれるファンドがありました。特にその中の1社には、コンサルタント出身者が多いですし、投資先企業にハンズオン(支援先のマネジメントに深く関与すること)で経営に携わる部分は似ています。
ただ、彼らは非上場企業の株式のマジョリティを取って、ハンズオンで経営改革をするのがメインなんですね。一方、僕らは、上場株にマイノリティ投資をして、“下から目線”で経営を応援する(笑)。
──具体的には?
たとえば、SHOEIというヘルメット会社があります。バイク用の高級ヘルメットの世界では圧倒的なグローバルニッチ・トップ企業です。
この会社の社長だった山田勝さん(現会長)は、一度は潰れたSHOEIの経営を立て直し、海外ビジネスをつくりあげ、圧倒的なグローバルトップにしたすごい人なのですが、企業のブランディングという側面から見ると、マニアックなバイクオタクにのみアピールするようなプロモーションスタイルとなっていました。
でも、僕らは、SHOEIには、もっとカッコいいブランドになってほしいなと思ったんです。「メイド・イン・ジャパン・オンリーで、海外売上比率がこれだけ高くて、かつ、BtoCで戦えている会社」って、実は日本企業にはあんまりないんですよ。
それで、もっとファッショナブルな高級路線でプロモーションしたら、より強いブランドになるのではないかと議論し、ブランドコンセプトも、ホームページも刷新したんです。今、SHOEIのブランド力は本当に強くって、為替が動いても値上げができちゃうんですよ。お客さんの支持が強いから。
──なるほど。
それから、実際の販売戦略のことでいうと、思っているよりブラジル市場は大きいのではないのかと考え、ブラジルの国家交通局のデータを集めてきて、SHOEIのヘルメットのユーザーになりうる大型バイクのユーザーが増え始めていることを確認して、ブラジル市場の有望さを進言したりしました。

投資対象は「ちょっとだけ惜しい」会社

──まさに「働く株主」というわけですね。
とはいえ、最初からうまくいったわけではないんですよ。投資を始めた当初は、経営があまりうまくいっていない、お上手ではないと思う会社に行って、僕たちが筆頭株主となり会社を立て直し、一気にリターンを狙うというようなことも考えました。
でも、この手の企業への投資は全然駄目でしたね。こういう会社に限って、僕たちがいい提案をできたとしても社長はのらりくらりとかわすんですよね。結果、会社はなにも変わらず、業績も良くならないからリターンも出ない。やっていても、つらいんですよ。
そこで、もう1つの投資仮説だった、もともとすごくいい会社でいい経営者、いい従業員もいるのに、ちょっとだけ惜しい、足りないところがある会社だけに投資対象を定めることにしたのです。
つまり、いい会社をさらによくする戦略です。実はこういう会社の社長こそ、「社長、こんなことやりませんか」と僕たちが提案すると、「いいね、いいね、それやろう」となりやすく、業績が良くなって株価も上がるんです。僕たちもこういう投資のほうが圧倒的に楽しい。
──そのような「働きがいのある」投資先をどのようにして見つけるのですか。