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口コミ、集中、究極、スピード

シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」

2015/8/4
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。本連載では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の一部を抜粋して掲載するとともに、訳者の永井麻生子氏による書き下ろしコラムを全2回掲載。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」

シャオミの経営施策の基盤

スマートフォンのみならず、空気清浄機などの家電にも進出し、さらなる飛躍を目指すシャオミ。創業後たった5年で売上額1兆円超えという快挙をなし遂げたこの企業の経営戦略には重要なキーワードがある。それは、以下の4つだ。

1:口コミ
 2:集中
 3:究極
 4:スピード

これは創業者である雷軍(レイ・ジュン)自身の人生観にもとづくもので、シャオミのさまざまな経営施策の基盤になっている。4つのキーワードを順に説明していこう。

(1)口コミ:「期待以上」と「参加感」

シャオミの口コミ戦略の根本は、雷軍の次の言葉に集約されている。

「口コミのキモは期待を超えることだ。人々の期待を超えたものだけが口コミに乗っていく」(『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』より)

人は、自分の期待以上、予想以上のものをみせられると、他人に話さずにはいられない。そのため、シャオミは「期待以上」であることにこだわる。たとえば、創業当時、創業者グループは自分たちの身元を明かさなかった。

「元金山ソフトウエアの社長であるとか、グーグルやマイクロソフトなど名だたる世界的IT企業の責任ある立場であったことなどを宣伝に使えばいい」という外部からのアドバイスに対しても、「それをすると期待感が上がってしまう」と言って、沈黙を貫いた。

このように、彼らは注意深くユーザーの期待感をマネジメントし、常に期待以上の商品を世に送り出してきた。そのため、シャオミに関する情報は口コミにのりやすいのである。

シャオミの口コミ戦略を語るうえで無視できないもうひとつのキーワードは「参加感」だ。シャオミの企業活動に自分も参加しているとユーザーに実感させることが、シャオミのマーケティング戦略の中核である。

たとえば、新製品を発売する前に、テスト版を発売し、そこで試用したビーフン(シャオミファンのこと。前回参照)たちの意見や要望を取り入れ、改良した製品を量産版として世に出す。自らの意見が製品に取り入れられたビーフンは必ず友人に自慢し、SNSに書き込む。そのようにして、ユーザーに参加感を持たせることで、口コミが広がる。

一部のビーフンはその知識などをシャオミに認められ、「名誉ユーザー」というような称号を与えられており、プログラマーたちからも一目置かれているという。

また、シャオミでは実際にオフラインでもユーザーのミーティングを開催し、ユーザー同士、あるいはユーザーと社員が実際に会う機会をつくっている。

実際に会うことで、ユーザーは参加感を高め、社員は自分たちがサービスを提供している相手が単なる「数字」ではなく、一人ひとりの人間であることを実感する。そのことが、製品の使用感を高めることに寄与する。

このように、シャオミはユーザーを巻き込んでいくことで、口コミを広め、商品をより良いものにしているのである。

(2)集中:工場なし。バージョンはひとつ

シャオミは、その力を自分たちの得意分野に徹底的に集中させる。付加価値の高い研究開発部門とブランドやサービスなどの分野のみをシャオミ自身が行い、それ以外の部分に関してはできる限り外部へ発注する。

それゆえ、シャオミは自社工場を保有していない。従来の考え方では、生産設備を持たないのはデメリットであるはずだが、シャオミは「工場を持たないからこそ世界最高の工場を使うことができる」と考えている。

部品、組み立て、流通などさまざまな分野で、トップレベルの業者と戦略的に提携することで、むしろ多くのメリットが得られている。そして、その分のリソースを、自分たちが得意で、より多くの価値を生み出しうる分野である開発やマーケティングなどに集中しているので、低価格の商品でも利益を上げることができるのである。

また、シャオミの「集中」に対するこだわりは、新商品の売り出し方にも表れている。

シャオミでは、新作を出すとき、ひとつのバージョンしか出さない。それは、そのひとつのバージョンに集中し、究極の作品に仕上げているという自信の表れだ。雷軍は、製品に絶対の自信があればそのバージョンだけを出せばいいと考えている。しかし、そのためには、商品のコンセプト設定からデザインや製造に至るまで、理想の姿にまで突き詰めていなければならない。

このように、「集中する」とはすなわち、すべての点で究極を実現するということにほかならないのである。

(3)究極:ユーザーが驚くほどの完成度

集中すべき部分に力を集中し、商品を究極にまで高めること──。それがシャオミの生産哲学である。シャオミの言う「究極」とは、徹底的にやり抜き、他人が追いつかない高みにまで登ることだ。

そして、その範囲は製品の品質にとどまらない。製品本体だけでなく、包装からアフターサービスに至るまで、シャオミは究極にこだわる。

たとえば、商品を入れて発送する箱は、一見したところ、印刷も少なくシンプルな無地の紙箱だが、100kg近い人間が乗ってもつぶれないほどの強度を持つ。輸送中の破損事故をできる限りなくすためだ。

また、シャオミは、販売はほぼすべてインターネットを通じて行っているが、メンテナンス用のサービススポットは、中国全土に20以上置かれている。そこでサービスによっては自社だけではなく他社製品へのメンテナンス(フィルム貼りなど)さえも行っている。

「口コミ」の部分で述べたように、シャオミは「期待を超える」ことをとても重視している。「ユーザーが驚きの声を上げる」ほどの完成度を目指しているのだ。商品からサービスに至るまで自らが提供するものをすべて究極のレベルに到達させているからこそ、すべてのユーザーはシャオミの製品とサービスに驚きの声を上げ続けている。

(4)スピード:成長スピードと反応スピード

シャオミがこだわる「スピード」には2つの意味がある。ひとつは、成長のスピードで、もうひとつは反応のスピードだ。

雷軍は、スピードはパワーだと言う。企業が急速に成長しているときには、その内部の問題は顕在化しない。しかし、いったん成長のスピードが落ちると、次々と問題が噴出してくる。

そのため、企業は常に安全性とバランスをとりつつも急速成長することが必要なのだという。そのように、スピーディーな成長戦略を採り続けた結果として、シャオミは「世界最速1兆円売り上げ達成」という偉業を成し遂げているのである。

シャオミにとって重要なもうひとつの「スピード」は、反応の早さである。「舟は小型のほうが扱いやすい。スピーディーに変化に対応できる」とかつて雷軍は語った。

スピーディーに状況の変化に対応するために、自ら工場を持つことをせず、過剰な生産能力をも持たないようにしているのだ。常に品薄が続く今の状況を考えれば、より生産能力を高めて売り上げをさらに増やすことは容易であろう。

しかし、もし生産能力を高めれば、市場になにがしかの変化が生じた場合、スピーディーに対応できない。つまり、反応のスピードを高くしておくために、「持たないこと」を選んでいるのである。そして、その施策が「在庫ゼロ」を実現し、商品の発送のみならず、資金の回転をも速め、シャオミに大きな利益をもたらしている。

このように、「口コミ」「集中」「究極」「スピード」という4つのキーワードがシャオミの急成長の秘密を握っている。それぞれのキーワードについて、まさに究極に考え抜き、それを実現しようとして、シャオミのさまざまなビジネスモデルは構築されているのである。

*明日から毎朝、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載します。
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