今の日本には、どんなリーダーが必要なのか

2015/8/3
政治・経済・ビジネス・サイエンス・学問。あらゆる領域で、グローバル化が進行している。ただし、今のままでは、日本と日本人は世界での競争に勝つことはできない。日本人が世界で成り上がるには、これまでの成功体験を捨て、新しいメンタリティや方法論を身につける必要がある。
世界を舞台に活躍する慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏とメタップス社長の佐藤航陽氏が、リーダーシップ、教養・哲学、テクノロジー、先見力などの切り口から世界を語る。第1弾では「リーダーシップ」をテーマに語り合う。
(聞き手:佐々木紀彦・NewsPicks編集長)

日本のリーダーはなぜ決断力がないのか

佐々木 この対談企画では、世界に通用するリーダーになるための素養として、「リーダーシップ」「教養」「テクノロジー」「先見力」の4つについて話をお聞きしたいと思います。最初のテーマは「リーダーシップ」です。お二人は、リーダーシップをどのように定義していますか。
竹中 リーダーとは「その人がいないと社会が成り立たない存在」だと思います。私たち人類は、動物として生きる力はそれほど強くないけれど、社会を構成することによってここまで発展してきました。
ルールをつくって社会を構成し、テクノロジーなどを生み出して、地球上のすべての生物の主役になったわけです。逆にいうと、人間は社会の中でしか生きられない。
どんなにアウトローを気取ったところで、コンビニで買い物をするでしょう。コンビニは社会制度のひとつですからね。その社会の秩序を保つうえで、リーダーはすごく重要です。リーダーがいないと秩序が維持できない。
ところが、農耕民族と遊牧民族ではリーダーのタイプが違う。非常に典型的な例で言えば、農耕民族で大事なのは、水をどういうふうに分け合うかということ。だから社会の構成員全員の顔を立てながら、それぞれの利害を調整できるようなリーダーが好まれた。
いっぽう遊牧民族は、家畜と一族を連れて移動するとき、どっちの方向に行けば食糧があり、水があるかを考えて、進む方向を決めなければいけない。だから、斥候を放ってその土地の様子を調べさせる。
その情報をもとに意思決定をして、最後はひとりのリーダーが「こっちへ行く」と決める。この人の意思決定が間違ったら、みんなが死んでしまう。だからブレークスルーできるタイプの強いリーダーが求められた。
たぶんいまの日本でリーダー論が盛んなのは、グローバル化でフロンティアがどんどん開かれているのに、速やかで大胆な意思決定ができる遊牧民族型のリーダーが少ないからでしょうね。
日本のリーダーは、どちらかというと農耕民族型で、社員みんなの兄貴分みたいな人が社長になる。だから決断も遅いし決断能力もない。
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
1951年、和歌山県和歌山市生まれ。1973年、一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行入行。1981年、ハーバード大学、ペンシルバニア大学客員研究員。1982年、大蔵省財政金融研究室主任研究官。1987年、大阪大学経済学部助教授。1989年、ハーバード大学客員准教授、国際経済研究所(Institute of International Economics)客員フェロー。1996年、慶應義塾大学総合政策学部助教授。1998年、「経済戦略会議」(小渕首相諮問会議)メンバー 2000年、「IT戦略会議」(森首相諮問機関)メンバー。2001年、経済財政政策担当大臣。2002年、金融担当大臣・経済財政政策担当大臣。2004年、参議院議員当選。経済財政政策・郵政民営化担当大臣。2005年、総務大臣・郵政民営化担当大臣。2006年、慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長。2009年、パソナグループ取締役会長、2010年、慶應義塾大学総合政策学部教授。2013年 産業競争力会議メンバー。2014年、国家戦略特別区域諮問会議メンバー。オリックス社外取締役。近著に『日本経済2020年という大チャンス!』(アスコム)、『日本経済のシナリオ』(KADOKAWA)。

「これからはこうなる」と言い切る

佐藤 確かにおっしゃるとおりですね。不思議だなと思うのは、たとえば、私はリーダーシップが別にないんですよね。それなのになぜ、いまメタップスという会社のトップを務めているかというと、自分にはどうしてもやりたいことがあるからです。それがないとすれば、なかなかトップに立てない時代でしょう。
1970〜1980年代は、別に何もしなくても経済が伸びていたので、人心掌握がうまくて、みんなをガンガン引っ張っていく人がトップに立った。でも、2000年を過ぎた頃から、みんな方向性がわからなくなってしまい、「あっちだ」と言う人がいないと組織が成り立たなくなってしまったのではないでしょうか。
佐々木 佐藤さんの考えるいまのリーダーにとって最も大事な能力とは、ビジョンを示すことですか。
佐藤 そうですね。未来を指し示すこと。「これからはこうなる」と言い切ることだと思います。でも言い切るには、相当考え抜かないといけない。四六時中、そのことを考えている人じゃないと、リーダーにはなれないでしょうね。
そして、その人の言っていることが、実際に未来で起こらないといけない。その人が前から言っていたことが、しばらくしたら現実になったという実績が必要です。
たぶん、そういうリーダーって最初にビジョンを語るときは、みんなから「この人、何言ってんの」と思われている。でも、それが本当に現実になると、それ以降はみんな「おそらくこの人が言ってることは正しいだろう」と思う。そこで「じゃあ、この人についていこう」という循環が生まれるんじゃないでしょうか。
佐々木 ということは、大きい方向性を示したうえで、小さくてもいいので成功例をつくることが大事ですね。