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モイ 赤松洋介社長インタビュー

動画の新星、ツイキャス1000万人超えの秘密

2015/7/23
ツイッターの伸び悩みが言われて久しいが、それとは対照的に猛スピードで伸び続けているツイッターベースのサービスが「ツイキャス」だ。若い世代を中心に広がり、独自の世界を形成しつつある。登録ユーザー数は1000万人を超え、日本の動画コミュニケーションインフラとして定着してきた。そのツイキャスを運営するモイの赤松洋介社長にインタビューを敢行。ツイキャスに火がついた理由、そして2020年までの未来について聞いた。

広告出さなくてもユーザー1000万人超の秘密

──ツイキャスは多くの若者の日常に溶け込んでいるが、なぜここまで広まったのか。

赤松:もともとここまで流行るとは思っていなかった。ツイキャスが人気を集めた理由は、正直言ってまったくわからない。最初は、GMOインターネットの熊谷(正寿社長)さんが株主総会に使うなど、ネットギークに広まり、しばらくはその層を中心に、アーリーアダプターが使う状況が続いた。

その次に女性や芸能人、路上ライブなどをしているアーティストなどのユーザーが徐々に増え、iPhoneが学生に広まったことがきっかけとなって学生の間で一気に火がついた。ちょうどその頃、ツイッターが流行り始めたことも重なって若い人に広がり、気がつけば今のような状況になっていた。
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──広告を出すなど、ユーザーを増やすための仕掛けは手がけてきたのか。

大きな仕掛けはやっていなく、ただ淡々と、ユーザーのコミュニティの様子を見ながら、コミュニケーションをシステム化する取り組みをずっと行ってきた。

映像コミュニケーションは品質のコントロールが難しい。自分の顔を出してしゃべるから、観ている人からのコメントで変なことを言われると嫌になる。そういった思いをさせずに、みんなが楽しめるかたちを追求していくうちに自然と広がった。

広告はほとんど出していない。そもそも、ユーザーがユーザーを連れてこないと、このサービスは面白くない。「Ustream(ユーストリーム)」ならアプリストアからダウンロードすればすぐに楽しめるが、ツイキャスはダウンロードしても知らない人がただ並んでいるだけ。だから、基本的に口コミなど誰かの紹介でツイキャスを使わないと面白くない、というのがベースとしてある。

──なぜ日本でスマホベースのキャスティングアプリとしてひとり勝ちの状況をつくれたのか。

まず、日本にスマホに特化した配信サービスがなかったことがラッキーだった。しかし、それだけではない。生放送のサービスは、コストがかかるわりには収益的に厳しい。そういった意味で、追随してくるサービスが出てこなかった。最初は今あるおカネでどうやって配信サービスをつくるかにフォーカスし、オフィスの中にサーバーを置いてやっていた。

グロースへの施策

──ツイキャスをツイッターに紐づけた理由は?

今は「キャスアカウント」というツイキャス独自のアカウントで、ツイッターを介さずに使っている人もいる。ただ、常にソーシャルグラフがあると強い。

フェイスブックは「子どもが生まれました」と投稿すると、みんなが祝福してくれるが、人が入り乱れてグチャグチャになる。知り合い全員に見せるコンテンツは限られている。たとえば、フェイスブックでは仕事の愚痴は書けないが、ツイッターは1人で複数のアカウントを持っていることが多く、それぞれのアカウントに独自の世界があるので、しっかりとコミュニケーションをとれるコミュニティをつくりやすい。

──アメリカでは「Meerkat(ミーアキャット)」と「Periscope(ペリスコープ)」が、ツイッターをベースとした生放送サービスのデファクトスタンダードを狙って、骨肉の争いを展開中だ。海外サービスに対して危機感はあるか。

ツイキャスはコミュニケーションを楽しんでもらうことにフォーカスしている。ミーアキャットやペリスコープは放送に特化しているので、ツイキャスとは少し違うと思う。一般の人はゆるいコミュニケーションを求めているのではないか。アメリカにはこれまで、個人が生放送するサービスはなく、そういった文化がつくられれば、ツイキャスも入りやすいくらいの思いでいる。

海外で言えば、ブラジルのユーザーが今は特に多い。理由はさっぱりわからないが、考えられるのは、やはりライブ配信ができるアプリが世界に3つくらいしかないこと。

当時、ブラジルのセレブたちが使ってくれて、それをブラジルのテレビ局が取り上げてくれて、人がたくさん来るようになった。サッカーのワールドカップの際のデモをユーザーが配信したら、百数十万人レベルの人が使った。今は全体の2割ほどがブラジルのユーザーだ。
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「おカネのことはユーザーさえ増えていれば問題ない」

──ECを始めたのは収益化を図るための動きか。

ツイキャスユーザーにはさまざまなことをしている人がいて、そういう人たちを応援したいという気持ちで、もともとは始めた。チケットはライブ配信中にほとんど売れるのだが、配信中に売ると手数料ゼロなので、私たちはずっと赤字だ。

ECサイトは購買体験をする人が何人いるかが非常に重要なので、最初はそれを徐々に広げていければと考えている。ECで買ってくれれば配信者にとって利益になり、それが将来的にツイキャスにとっても利益になると思う。

──マネタイズの起爆剤として考えていることはあるか。

今のところまだない。今は、ユーザーをもっともっと増やしたい。ユーザーさえ伸びていれば、おカネに困ることのない時代なので、しばらくはそれでいこうと。

今は、イーストベンチャーズから出資してもらった6億円の資本金と、少しのキャッシュフローがあるので、収益化にあまり重きを置いていない。イーストベンチャーズも収益について言ってこない。

むしろ、今の収益は、Webサイトでの広告と仮想アイテムのアプリ内課金くらい。広告はアドセンスを入れているだけだ。

──出資を受けている以上、上場は至上命題ではないのか。

いろいろな手段があるとは思うから慎重に見ていきたい。さまざまな市場があり、また上場のほかにも買収されるという選択肢もある。必死で上場を目指すことはなく、上場が目標でもない。

──企業とのコラボなど、ビジネス面でのアプローチはないのか。

企業ユースに関しては高まってくるとは思うが、自分たちの目指している方向とは違うケースが多い。企業は、ユーストリームでやってもらえばいいんじゃないかな、と。多くの企業には目的があるが、それがユーザーとのコミュニケーションでない企業もある。

そうすると、コンテンツは良くても見に来た人は残念な思いをする。ツイキャスがそういうサービスになるのも嫌なので、企業とのコラボなどはまだ先にしようと考えている。

ツイキャスはコミュニケーション。コンテンツではない

──動画は今、非常に注目を浴びているが今後も伸びていくと思うか。

あまり興味がないというか、動画のほうが情報量が多いのでそういう意味ではたくさんの人が動画というツールを使うだろう。ただ、動画は、ひとつの形態。コンテンツにシフトしているのであれば、新しいコンテンツが速くて使いやすくなっただけにすぎない。

テレビの役割が、ライブ放送かドキュメンタリーのようなハイクオリティなものにシフトしていって、バラエティ系のエンタメ的な要素はネットのほうが優れているという点では、動画にシフトしていると言える。

そういう意味では、ツイキャスは時代の流れには乗っているが、動画は見るのに時間をとられる。人の時間は限られているので、そんなに世の中、面白いコンテンツだらけになると大変だと思う。動画は、スマホならではの隙間時間にできるゲームとの奪い合いになる。
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──ツイキャスの今の課題は?

若い人と女性のユーザーが多いことが強調されているが、もっと幅広い人たちをターゲットにする必要がある。さまざまな人が気軽に使えるサービスにしたい。

そのための課題として挙げられるのは、メディアというよりもコミュニティとしての面だ。どうやってたくさんのコミュニティを生むのか、また、コミュニティをつくっていくのかが大切だ。

──ツイキャスは2020年にはどうなっているか。

さっぱりわからないが、コミュニケーションインフラのひとつとして使ってくれていればうれしい。何か出来事があったときに、入り口として使ってもらえる存在になっていたらいい。

よりリアルタイムなコミュニケーションに関しては、かたちを変えた新たなサービスが出てくると思う。しかし、感動したり、話したいと思ったときに、それをツイートするのか、LINEするのか、ブログに公開するのかなど、さまざまなニーズに対し、多くの手段が存在する。

その中で、何を選んでいるのかというと、誰が見るか、どんな反応がくるかを考えている。そこで、ツイキャスに投げればどういう反応が来るのかって思ってもらえる、ユーザーの選択肢に入っているツールになっていればいいと思う。

赤松洋介(あかまつ・ようすけ) 京都大学工学研究科修士課程修了後、オージス総研に入社。 1997年まで1年間米スタンフォード大学客員研究員を務める。 サイボウズを経て、2005年にサイドフィードを設立。 数々のサービスをリリース後ツイキャスを開発。現在はモイ(サイドフィードより会社分割)の事業拡大に注力する

赤松洋介(あかまつ・ようすけ)
京都大学工学研究科修士課程修了後、オージス総研に入社。 1997年まで1年間米スタンフォード大学客員研究員を務める。 サイボウズを経て、2005年にサイドフィードを設立。 数々のサービスをリリース後ツイキャスを開発。現在はモイ(サイドフィードより会社分割)の事業拡大に注力する

(構成:福田滉平、写真:福田俊介)

*NP特集「2020年のモバイル」は、明日掲載の「キュレーションメディア大競争(アンテナ)」に続きます。