2024/10/12

「女性活躍推進」がなぜ必要か…まずはその疑問に答えましょう

株式会社 We Are The People 代表取締役
政府が旗振り役となって「女性活躍推進」の取り組みが進んでいます。男女共同参画社会に向けた機運は少しずつ高まっているものの、突然、「女性登用」などの対応を迫られ続ける現場の悩みは、尽きないのではないでしょうか。

そこでこの連載では、グッチグループジャパン(現ケリングジャパン)やラッシュジャパンなど名だたる外資系企業で人事統括責任者を務め、人事のプロとして株式会社「We Are The People」を起業した安田雅彦さんに、職場における「女性活躍」の考え方や、子育て中の女性社員のサポートのあり方などを、解説していただきます。
INDEX
  • マイノリティーにとっていい会社は…
  • 「女性だからと容赦しない」こと
  • 男性社会の「同質性」を打ち砕く力
(写真:maruco / gettyimages)

マイノリティーにとっていい会社は…

こんにちは、安田雅彦です。
この企画では、職場における女性登用の考え方や、女性の部下との上手なコミュニケーション方法など、みなさんが日々お感じになる、女性の働き方にまつわるさまざまな課題や疑問について、僕自身の経験のなかから、答えていきたいと思います。
まず初回は、僕自身の考え方や、考えの背景にあるものについてお話ししましょう。
いきなりですが、誤解を恐れずに言うと、僕は女性が好きなんですね。その原風景は生い立ちにあって、僕は両親と祖母、祖母の妹、そして姉と妹という7人家族で育ちました。
7人中5人の女性に囲まれて成長したため、女性に対する違和感がありません。さらにいえば、現在の家族構成も、妻と娘、女の子の犬2匹という女系家族です。
それから働いてきた環境も、女性が多い職場ばかりでした。大学卒業後のファーストキャリアはスーパーマーケットでしたが、圧倒的に女性が多い職場でした。
そして次にグッチ。リテール業界は女性が多いうえに、そのなかでもファッションビジネスは特に女性が多い世界です。
(写真:VioletaStoimenova / gettyimages)
自分で起業するまで日本の会社で12年、外資系企業で20年働きましたが、特に外資の人事部門には女性が多いんですね。なぜかというと、マイノリティーに合わせたほうが働きやすい環境になるという考え方が、多くの外資系企業に根付いているようです。
僕が最後に勤めた化粧品会社のラッシュジャパンでは、「マイノリティーにとっていい会社は、マジョリティーにもいい会社だ」という考え方が、明確に共有されていました。
ラッシュジャパンは、社員の85%ぐらいが女性の会社です。僕は人事部長でしたが、28人の部下のうち27人が女性でした。
とくに日本企業では「男性向き、女性向きの仕事がある」という考えが根強く残っているようですが、そんなものはありません。
業界やジャンルによって、さまざまなバックグラウンドはあるものの、「女性向き」「男性向き」の仕事なんてない、と僕は思っている。仕事をしていくうえで、能力に性差などは絶対にないわけです。

「女性だからと容赦しない」こと

そもそも日本の企業社会は、これまで女性に対して「求めて」こなかったと思います。
僕がいた会社は規模の大きい外資系企業でしたが、女性社員たちには、自立して働き続けることに対する切なる思いがあり、その思いに正面からこたえようとする前提が、企業にはありました。言い方を変えると「女性だからと容赦しない」ところがある。
だから僕自身の女性に対するポリシーは「容赦しない」ということです。
それはつまり、キャリア、働くということに対して「求める」ことをデフォルトにする。
女性に対して「本来、どういうことをやるべき立場であるか」「社として何をしてほしいか」を共有し、そこからどのようなサポートが必要かを一緒に考え、アジャストしていく。
まず職場の戦力であることを求めてから、それを達成するためにどういう配慮をしたらいいか、どんな制度が必要かなどを、自然発生的に対応できるカルチャーが理想です。
日本の企業社会は、この「求める」ことをしていない気がします。「ライフイベントに応じて働きたい」という女性社員に対し、「じゃあ別室へ」となるのが現状じゃないか──そんな気がします。
(写真:mohd izzuan / gettyimages)
もうひとつ、僕が重要だと考えていることがあります。それは「まずはフレームを変える」ということの重要性です。
「女性活躍」に関して、政府が旗振り役となって政策として推し進めるやり方に対しては賛否があるけれど、数値的なものをターゲットにするのはいいことだと思います。
外枠を固めてから中のマインドを変えるやり方は、常套手段として「あり」です。「男性の機会を奪う逆差別」という批判もあるけれど、まずこの「逆差別」という言葉が、僕は大嫌いです。
まずもって「逆差別」という言葉は、差別している人が使いたがる傾向が強い。障がい者雇用の関係でノーマライゼーションにも取り組んできましたが、その過程でも何度もそう実感しました。
だから、まず女性管理職の登用に目標値を掲げることは、大切だと僕は思います。
これまでの日本の企業風土を思えば、それぐらいしてもなお、まだこの社会が持つジェンダーの偏りは、そうそう簡単に是正されませんから。
長い歴史の中で構築された固定観念や価値観を壊すためには、フレームを変えることから始めるのは、大いに「あり」だと思います。

男性社会の「同質性」を打ち砕く力

この連載では、具体的に企業の中でどういう動きをしたらいいのか、つまり女性リーダーをどうサポートしていけばいいのかといったテクニカルな話もしたいと思いますし、昨今、「子持ち様」なんていうイジワルな流行語もありますが、「子どものいない独身女性へのしわ寄せ問題」をどう解決するのか、という難題にも、一緒に向き合いたいと考えています。
女性の部下とのコミュニケーション方法についても、自分の経験からお答えしていきたい。
たとえば、女性には「生理」があるので、月に数日はベストコンディションではない日がほぼ必ずありますよね。日本の男性管理職でこれをまともに学ぶ人はいないので、そうすると「女性は扱いにくい」という結論になってしまう。
まずは共に働くうえで、女性の「性」を知る必要があるといったことも、お伝えしていきたいと思います。
もちろん、僕自身も人事畑で働き続けて、いろいろな難題にぶつかり、何度も何度も悩みました。結局のところ、気配りで乗り切った、という部分が大きいかもしれません。
最後に「なぜ職場に女性がいたほうがいいのか」について、僕の考えをお伝えしましょう。
それは、職場における女性の存在は、男性社会の「同質性」を打ち砕く力があるからです。男性社会の中で醸成されてきたジェンダーバイアスや誤った価値観は、男性だけの組織では、なかなか是正できないものです。
(写真:FangXiaNuo / gettyimages)
2022年にある外食チェーンの経営幹部が、大学の社会人向けの講義で、若い女性をターゲットにしたマーケティング戦略を説明する際に「生娘をシャブ漬け戦略」などと発言して大炎上し、解任される騒ぎがありました。
この経営幹部がこの場以外でもこの「戦略」を公然と説いていたか否かは不明ですが、たとえば男性社員だけの会議でこのような発言をしたとしても、「それはおかしい」という声が上がりにくい空気が、男だけの組織にはある。
対話する先に「女性がいる」という緊張感があることで、おのずから正しい発言や判断へとつながっていく、ということもあるでしょう。
もちろんそれは「女性」に限ったことではなく、「障がい者」「同性愛者」など、インクルーシブの観点でさまざまに応用できることです。いかに企業に多様性が必要か、おわかりになると思います。
古いタイプの管理職には、「ここに女性がいたら言えないことなんだけど」などと前置きしながら、下ネタや女性批判を始める人がいます。そういう話し方をする管理職は、決まって「ダメな上司」です。覚えておいてください。