電通とダスラーが出資したISLの功罪

2015/7/12
間違いなくISLは、W杯ビジネスを成長させた功労者だ。
このホルスト・ダスラーと電通の出資によって設立されたスポーツマーケティング会社は、スポンサーを呼び込んで「看板ビジネス」を構築し、W杯を「金のなる木」に育てあげた。バブルマネーで潤う日本企業をいざなううえで、電通も大きな役割を果たした。
遠回しな貢献もある。
ISLから独立したドイツ人2人がTEAMを立ち上げ、彼らはUEFAと組んでチャンピオンズリーグという超人気コンテンツを生み出した。のちに、その“刺激”によってW杯も放映権ビジネスに力を入れるようになった。
1998年W杯まで、FIFAはBBCやNHKがつくる公営放送団体に安く放映権を卸していたが、2002年W杯から入札制を導入することを決めた。
ちなみにISLがずっと持っていたのは、W杯のスポンサーに関するマーケティング権で、1998年W杯以降も同権利はすでに約束されていた。とはいえ、“FIFAの代理店”として放映権をほかに渡すわけにはいかない。
ISLは利権を守るために次のような戦略を打った。
アベランジェとブラッターに2002年W杯と2006年W杯をセット販売するように働きかけ、その情報をできる限り伏せさせたのだ。
高額の放映権を落札するには銀行からの保証を必要とし、ライバルたちも準備を進めていた。だが、あくまでそれは1大会分だった。いきなり2大会分の保証金を用意しろと言われても、それは不可能だ。
思惑通りに事は進み、1996年、ISLはドイツのキルヒメディアと共同で2大会分の放映権を手にすることに成功した。放映権は約10倍に膨れあがり、かつてないコストが生じたが、W杯のプレミア感を考えれば十分に取り戻せるはずだった。
だが、放映権マネーの高騰が、賄賂の相場を狂わせることになる。
のちにスイスの裁判所が開示した資料によれば、1989年から2001年まで、ISLはFIFA関係者らに1億3800万スイスフラン(現在のレートで約180億円)の賄賂を送金していた。
賄賂を受け取ったことが明らかになっているのは、アベランジェ(FIFA前会長)、レオス(元南米サッカー連盟会長)、ティシェイラ(元ブラジルサッカー協会会長)。さまざまな権利をISLに斡旋した見返りだと思われる。
2001年5月、ビジネスの拡大がたたり、40億スイスフラン(約5200億円)の負債を抱えてISLは破産した。翌年にはキルヒメディアも破産に追い込まれた。
ISLには、W杯ビジネスを発展させたという「表」の顔と、タックスヘイブンの銀行を利用したキックバックの仕組みをつくった「裏」の顔がある。
この日本とも縁が深いスポーツマーケティング会社はサッカー界に何をもたらしたのか――。2002年W杯招致委員会のメンバーだった広瀬一郎に話を聞いた。