天性の起業家
【予告】Airbnb創業者が歩んだ、成功までの「地道な冒険旅行」
2015/7/11
各界にパラダイムシフトを起こしてきたイノベーターたちは、どのような人生を送ってきたのか。その深部に迫る連載「イノベーターズ・ライフ」の11人目は、宿泊仲介サイトAirbnb(エアビーアンドビー)の創業者ネイサン・ブレチャージク氏。2008年に創業し、今や世界中で100万室を超える部屋を提供するサービスに成長させた。知られざる起業秘話と、成功するために必要なことを明かす。全10話を毎日連続で公開する。
旅の始まり
よく聞かれる質問がある。
「どのようにして起業家になったのか」
まるで「ある日、目覚めたら世界を変えるようなアイデアを思いついていた」とでもいうような、簡単な答えを期待しているふうな質問だ。実際は、そう簡単には進まなかった。
すべては僕が12歳のときに始まった。体調を崩し、学校を一日休んだ日のことだ──。
高校の4年間で稼いだお金は100万ドル(約1億2000万円)近く。これは大学の学費にもなった。しかし、そのときでさえ僕の起業家としての旅は始まったばかりだったのだ──。
なかなか理解されないAirbnbのコンセプト
「いつまであの事業を続けるつもりなの?」
両親はAirbnbのコンセプトを理解しなかった。
二人の意見は、ほかのあらゆる人と基本的には同じだった。つまり「赤の他人を泊めたいという人がいるの?」ということだ。
やがてホストの1人が、端的に説明してくれた。
「友達に『なぜ、知らない人を自分の家に泊めるのか』と聞かれたら、いつも『その知らない人たちは、まだ会ったことがないだけの友達だから』と答えている」──。
ホスピタリティと支払いの問題
起業当初から、Airbnbのホストたちのホスピタリティは変わらない。清潔なリネンや、枕に置いてあるチョコレートバー。ホストたちは、そういったこまやかな部分にまで配慮する。
だが、支払いの方法は変わった。当初は宿に到着後、ゲストがホストに直接支払いをするシステムを採用していたのだが、ローンチの1週間後に初めてサービスを利用した創業者のブライアン・チェスキーは、ATMからおカネを引き出すことを忘れた。
ホストは寛大にも許してくれた。しかし、ブライアンは次の日も忘れた。たちまちブライアンとホストの間に気まずい空気が流れ、温かいもてなしは消えてしまった。
Airbnbが宿泊料の前払いを求めるようになったは、この宿泊経験がきっかけとなっている。ここから学んだことがいくつかあった──。
不景気に必要だったイノベーション
起業することは簡単ではない。不景気のときの起業はさらに困難だ。だからこそ、僕たちは頭ひとつ抜きん出るためにもイノベーティブであり続けなければいけなかった。
ゲストは8万人いるが、宿泊スペースは7万人分しかない。2008年の民主党全国大会の際、開催地のコロラド州デンバーが直面した課題だ。僕たちにとっては勝負どころだった。
しかし、党大会のおかげで一時はメディアで引っ張りだこだったAirbnbも、イベントの熱気が冷めると存在をすっかり忘れられた──。
シリアルで事業資金をつくる
その次の事業は「シリアル」だった。ある晩遅く、ジョーとブライアンは、大統領選挙をテーマとしたシリアルをつくったらどうだろう、と言うのだ。
2種類のシリアルをつくった。オバマ版とマケイン版だ。シリアルの売れ行きを見ていたら、大統領選挙の行方も簡単に予想できた。その週の終わりまでに、オバマ版は売れ切れた。マケイン版は4分の1くらいしか売れていなかったのだ。
しかしまあ、大当たりしたね。結果的には、シリアルがAirbnbの最初の事業資金となった──。
Yコンビネーターへの応募
テックの世界では、Yコンビネーター(スタートアップ企業の育成に強みを持つベンチャーキャピタル)への参加は「成功」と同義だ。卒業生にDropboxやReddit創業者を含むスタートアップ起業の養成講座であるYコンビネーター。この養成講座は、スタートアップの成長をキックスタートさせることを目的とする。
僕たちがYコンビネーターに参加できたことは非常に幸運だった。締め切り日を過ぎて応募したうえに、面接でのプレゼンも失敗した。
そんな中、僕たちがどうやってYコンビネーターの選抜に合格したのかは興味深いストーリーだ。この養成講座は、僕たちのビジネスに素晴らしいものをもたらしてくれた──。
ニューヨーク大作戦
2008年から2009年初めの頃は、掲載されていた物件のほとんどがニューヨークにあるものだった。Webサイトはシンプルなもので、サイトでできることは検索と予約、支払い、紹介文の作成、レビューの書き込み、その程度だった。
事業を成長させる方法として、Webサイトのデザインとインターフェースの改善を考え始めた。オンラインでの予約を考えている人を惹きつけるには、第一印象がとても重要なのだ。
僕たちはホストに電話した──。
そして、すべてがつながり始めた。部屋の予約が増え始め、ホストはおカネを稼げるようになった。そうなると、Airbnbを友達に勧めるようになる。勧められた友達は、Airbnbに登録する。
振り返って考えると、最初に20軒の紹介ページの改善に力を貸したことは大成功だった──。
冒険を恐れるな
僕のお気に入りのコアバリュー(基本となる価値観)は「冒険を恐れるな」だ。これは起業家なら全員に意味のあることだと思う。特に日本の起業家に役立つものだろう。
言うまでもないが、必ず100%成功することはない。決定的に失敗してしまうことも、もちろんあり得る。
だが、重要なのは旅を続けることであって、目的地はさほど問題ではない。このことを覚えておくべきだ。そして失敗を覚えておくことだ。
こう言えるのは、僕自身も失敗してきたからである──。
連載「イノベーターズ・ライフ」をお楽しみに。本日、第1話を公開します(有料)。
*目次
【第1話】100万ドル稼ぐ高校生、経営センスを培う
【第2話】経営破綻に学んだ「危険信号」と「すべきでないこと」
【第3話】ルームメイトと見つけたAirbnbのアイデア
【第4話】衝撃を受けたドイツ人ゲスト、日本人ホスト
【第5話】景気後退の中で創業、歴史的イベントに乗じる
【第6話】大統領シリアル「オバマvs.マケイン」で事業資金をつくる
【第7話】最後のチャンス、VC「Yコンビネーター」への応募
【第8話】プレゼンでの偶然が「ラーメン収益力」につながる
【第9話】Airbnbをメジャーにした、ニューヨーク大作戦
【第10話】起業家が成功するために重要な「3つのこと」
(聞き手・構成:Jordan Krogh、翻訳:東方雅美、撮影:竹井俊晴)