CL放映権をアジアで売る男 第7回
アメリカのエグゼクティブは、なぜ欧州のスタジアムで感動するのか
2015/6/30
UEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)は世界中のエグゼクティブを魅了し、スポーツエンターテインメント大国のアメリカ人をも感動させている。アメリカにはなく、欧州のスタジアムだけにあるものとは。
ドイツを回って気がついたこと
──5月中旬、岡部さんはかつてブンデスリーガで活躍した奥寺康彦さん(現・横浜FC会長)たちとともにドイツを回ったそうですね。
岡部:スタジアムやSAPの施設などを見学しました。そこで自分が感じたのは、「日本もさらにサッカー文化を深く根づかせていかなければ」ということ。当たり前かもしれませんが、それを改めて痛感しました。
ブンデスリーガはヨーロッパでも有数のスポンサー収入があり、平均観客数は世界のサッカーリーグでも一番です。さらにSAPのような大企業がテクノロジー面からピッチ内外をサポートしている。ドイツ経済の安定した強さも手伝って、順調に伸びています。
ただ、そうやって商業的に発展しながらも、奥寺さんがケルンやブレーメンでプレーした1970年代、1980年代と変わらず、クラブが地に足をつけて地域に根ざしている。奥寺さんは、改めてそれに感動したと言っていました。
これから日本経済の規模が爆発的に大きくなる可能性は低く、むしろ小さくなる可能性のほうが高い。移民政策を変えない限り、人口が減少していくからです。
経済もサッカーも「Population is power!」。Jリーグが商業的にヨーロッパ5大リーグやアメリカのメジャースポーツと肩を並べるのは、よほどのウルトラCがないと難しい。
だからこそ商業的な挑戦を続ける一方で、クラブの勝敗にかかわらずどんなときもサポートしてくれるファンを獲得し、より一層、地域に密着していくことが大事になってくると思います。
アメリカ人が驚く欧州の観戦文化
──とはいえ、地域に根づくのは簡単ではありません。J1に初めて上がった1年目はものすごく盛り上がるけれど、次第に興奮が薄れていく傾向があります。
日本のサッカー界は、少し焦りすぎかなと。
ヨーロッパのサッカーは産業革命の前後、各学校、各教会、各工場などから生まれてきた。数百年単位で形成されてきたもの。
一方、日本のサッカー文化は戦後から本格的に始まり、プロリーグは約20年の歴史しかない。焦らずに、時間をかけて醸成していけばいいと思います。
──日本でサッカー文化を根づかせるために、スポーツマーケティング専門家の立場からアドバイスできることはありますか。
スタジアムにおけるユーザー(観客)エクスペリエンスを上げることです。それにはヨーロッパとアメリカ、両方の観戦文化が参考になります。
まずヨーロッパでは、試合は街の代理戦争といった一面もあり、ホームとアウェーのサポーターたちの敵対関係を含めて、スタジアムが尋常ではない緊張感と熱気に包まれます。
こういう敵対的な雰囲気はアメリカのスタジアムにはあまりないもの。だからサッカーをあまり知らないアメリカ人のエグゼクティブですら、その興奮にノックアウトされて帰っていきます。
ただし一方で、アメリカ人からするとヨーロッパの試合は演出面で物足りなさがある。スアジアムにおけるエンターテインメントという点では、アメリカのほうが進んでいます。
スポーツ庁に期待すること
──日本もアメリカと同じで、試合が街の代理戦争にはならない。ヨーロッパとアメリカのいいところを取り入れて、独自なものをつくるべきなのかもしれませんね。
サッカーに限らず、いいとこ取りをして改善できるのが日本の強み。両方からどんどん新しいことや優れたことを取り入れていけばいいと思います。
今年10月にスポーツ庁ができたら、スポーツ産業を国策に置き、臨機応変にいろいろなレギュレーションを変えていってもいいと思います。中国はスポーツを重点産業のひとつとして捉えて、昨年大胆なスポーツ業界改革を打ち出してから、ものすごい勢いでスポーツを取り巻く環境が変わってきています。日本も速やかに法律や条例を変えられる体制にしないと、世界の変化についていけないでしょう。
(聞き手:木崎伸也)
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。