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CL放映権をアジアで売る男 第8回

なぜプレミアとブンデスの放映権は3倍もの格差がついたのか?

2015/7/14

長いシーズンが終わってヨーロッパにバカンスの季節が訪れ、スポーツマーケティング会社「TEAM」で働く岡部恭英もスイスから日本に一時帰国した。

ただ、「CL放映権をアジアで売る男」にとって、サッカーは生活の一部だ。日本サッカーの関係者に会い、情報を交換している。

その合間を縫って、岡部が初めてNewsPicks編集部を訪問。ヨーロッパの放映権ビジネスについて話を聞いた。

【今回の読みどころ】
・プレミアの放映権料はブンデスの3倍
・ドイツ王者・バイエルンの放映権は、プレミア最下位の約半分
・大英帝国の旧植民地ネットワーク
・英米のエンターテインメントの強さ
・サッカーTV観戦における「セカンドスクリーン」

プレミア放映権料は3年間で1兆円

──知人からこんな質問を受けました。「プレミアとブンデス、なぜ放映権に3倍もの格差がついたのか」と。プレミアは2016-19の放映権が、国内だけで約1兆円(3シーズン合計)にもなり、他リーグと圧倒的な差をつけています。

岡部:キッカー誌の資料をもとに、放映権を1シーズンあたりに換算すると、イングランドのプレミアリーグは23億ユーロ(約3100億円)、ドイツのブンデスリーガは8億3000万ユーロ(約1100億円)です。

リーグとして格差があるため、プレミア最低額のカーディフ(一昨季7630万ユーロ)でも、ブンデス最高額のバイエルン(昨季3724万ユーロ)の約2倍を手にしている。なぜこれほど差が開いたのでしょうか。

5つの理由があると思います。1つ目は有料TV市場の成熟度が大きく違う。イギリス国内のBスカイBのスポーツパッケージの契約数は1000万人を超えます。ヨーロッパではダントツで一番の数字です。

2つ目は前々回に話したように、電話会社の参入が大きい。ブリティッシュ・テレコムの参入によって競争が激化し、プレミアの放映権がさらに高騰しました。

大英帝国の強み

──自国における有料TVの契約者数は、人口8100万人のドイツより、6300万人のイギリスのほうが上なんですね。では、国際市場においては、どうでしょうか。

当然、プレミアが上です。

プレミアの国外での放映権総額は年間11億5000万ドル(約1420億円)規模で、国内で稼ぎ出す数字に比べると小さいですが、ブンデスの国外の額よりは段違いに大きい。

コンテンツの質が高いことに加えて、香港、シンガポール、南アフリカなど、大英帝国の旧植民地が世界中にあることが大きいと思います。祖父の代から受け入れられていて、たくさんの人に「my team」がある。

プレミアもそれをわかっているから、アジアのプライムタイムに合わせて試合を開催するようになりました。

話を戻すと、3つ目の理由が旧植民地のネットワーク、4つ目がアジアのプライムタイムに合わせたことです。

長期休暇中もスケジュール表は、サッカー関係者とのミーティングや会合で埋まる(写真:福田俊介)

長期休暇中もスケジュール表は、サッカー関係者とのミーティングや会合で埋まる(写真:福田俊介)

英米のエンターテインメントは国境を越える

──ドイツほど経済が好調でも、有料TVを浸透させるのは難しいんですね。

それは不思議ではありません。アングロサクソン(英米)においては、サービスに対価を払う文化(例:有料TV)が浸透しています。またドイツは経済大国かもしれないですが、ドイツのエンターテインメントは世界的に無名ですよね?

一方、イギリスはアメリカと同じく、エンターテインメントが発達していて、イギリスの音楽や映画が世界中で受け入れられています。スポーツの放映権で差が出るのも、僕からしたら自然な感じがします。

サッカーTV観戦における新たなツール

──なるほど。

イギリス人はどうユーザーエクスペリエンスを上げるかを常に考えて、向上させる努力をしている。たとえば、サッカー中継では「セカンドスクリーン」をいち早く導入しました。

──セカンドスクリーンとは何ですか。

セカンドスクリーンとは、タブレットやモバイルフォンを第2の画面にすることです。TVで試合中継を見ながら、別アングルの映像を手元のタブレットで見られる。

テレビを見ながらチャットできるソフトが入れてあったり、映像に映っている選手が誰でどんな成績かをすぐに調べられたりする。

選手がシュートしたら、じゃあ横のアングルからの映像をタブレットで見てみよう、ということができます。マルチカメラの機能をフルに生かすわけです。

日本におけるCL(チャンピオンズリーグ)中継でも今季から導入される予定です。

単にTVを見るのではなくて、もっとインタラクティブに、もっとディープに掘り下げながら自分で見られる。

そいうことを始めるのは、だいたいイギリスやアメリカが早い。

──コンテンツの価値を高めるために、知恵を絞っているわけですね。

繰り返しになりますが、彼らはメディアにおけるユーザーエクスペリエンスを上げることにものすごい努力をしている。だから新しいテクノロジーにも貪欲で、イノベーションも先駆けて起こせるわけです。

岡部恭英(おかべ・やすひで) 1972 年生まれ。 CLに関わる初めてにして唯一のアジア人。UEFAマーケティング代理店、『TEAM マーケティング』のTV放映権&スポンサーシップ営業 アジア&中東・北アフリカ地区統括責任者。ケンブリッジ大学MBA。慶應義塾大学体育会ソッカー部出身。夢は「日本が2度目のW杯を開催して初優勝すること」。写真右は上海のサッカーコメンテーター。(写真:著者提供)

岡部恭英(おかべ・やすひで) 1972 年生まれ。 CLに関わる初めてのアジア人。UEFAマーケティング代理店、「TEAM マーケティング」のTV放映権&スポンサーシップ営業 アジア&中東・北アフリカ地区統括責任者。ケンブリッジ大学MBA。慶應義塾大学体育会ソッカー部出身。夢は「日本が2度目のW杯を開催して初優勝すること」。写真右は上海のサッカーコメンテーター(写真:岡部恭英)

(聞き手:木崎伸也)