【証言】経営陣が現場を軽視。ボーイング「凋落」が始まった瞬間
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「それが20年ほど前から、ゼネラル・エレクトリック(GE)のやり方を学び、株主への価値還元を重視する企業へと変わったのです。これを受けて、経営陣は意図的に工場から離れました。本社を移したんです」
ボーイングの企業文化が変化した要因として1997年のマクドネル・ダグラス(MDC)との合併後にボーイングの経営の主導権を握ったGE出身の経営幹部の影響を挙げる解説は多いです。
合併時のMDCのCEOで後にボーイングのCEOになったストーンサイファー、GEでジャック・ウェルチ後継の座をイメルトと競い、敗退後は3Mを経てボーイングのCEOになったマックナーニ、そして現カルフーンと合併後5人のボーイングCEO のうち3人はGE出身です。
これに関連してちょうど先日"The Man Who Broke Capitalism"(資本主義を破壊した男)というNew York Timesの記者によるジャック・ウェルチ評伝の邦訳が出版されました。
ジャック・ウェルチ「20世紀最高の経営者」の虚栄
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015807/
原著の出版はウェルチ没後の2022年ですが、ウェルチ本人に加えて、その弟子であるGE出身の経営者らが様々な米国企業に与えた影響に対するかなり辛口の評伝になっています。
特にボーイングに関しては著者が737MAX墜落事故の取材を担当したこともあって、MDC合併後にGE出身者に先導されたボーイングのマネジメントの変化についてもページが割かれています。
著者は737MAX事故後に解任されたCEOの後を継いだ現カルフーンCEOを着任直後に取材していますが、その取材場所としてボーイングが指定したのがシアトルの生産拠点などではなく、ウェルチズムの伝道施設として知られた「GE大学」クロトンビルに倣ったボーイングの幹部養成センターだったことはわりと衝撃的で、象徴的です。
この取材が行われたのは2020年3月。直後のCOVID禍によりボーイングは深刻なキャッシュフロー危機に陥ります。その対策である早期退職プログラムにより多数の経験豊富なエンジニアが離職したことも、現在の生産性や品質管理の問題に尾を引いていると言われます。示唆に富む非常に良いインタビューですね。興味深い箇所を引用します。
●最も重要なのは、ボーイングの経営陣が安全について語ることと、実際に航空機を製造している現場の人々が実際に見ていること、この2つに信じられないほどの乖離があるということです。
●それが20年ほど前から、ゼネラル・エレクトリック(GE)のやり方を学び、株主への価値還元を重視する企業へと変わったのです。これを受けて、経営陣は意図的に工場から離れました。本社を移したんです。
●私はかなり悲観的です。理由は2社寡占だからです。ボーイングとエアバスしかなく、他の選択肢がありません。
●FAAは本来なすべき仕事をしていませんでした。彼らは政治的な機関ですから、政治的圧力を受けていたのです。最近だけでなく、過去30年間、ボーイングの競争力を高めるという名目で、FAAの監視機能は弱められてきたのです。
株主や規制当局が存在しても、寡占が続き、ガバナンスが効かず、経営と現場にの間で大きな乖離が起きてしまった、杜撰な生産過程が放置されてしまったということなのかもしれません。
日本でも同様のことは起こり得ますし、類似の事件は発生してきました。他山の石として学びたいですね。ボーイングの安全文化を調査した専門委員会のメンバーのハビエル・デ・ルイスMIT講師にお話をお伺いしました。
ハビエルさんが語ってくれたエピソードは、航空機を製造しているとは思えない生産管理の方法で衝撃的でした。そんなに雑でいいの?と。
次の事故を起こさないためにボーイングは変わる必要があると感じさせるインタビューです。
ハビエルさん自身が2019年の墜落事故でお姉様を亡くしているご遺族でもあるのですが、専門家らしい冷静な受け答えが印象的でした。本文では割愛しましたが、こんなことをおっしゃっていました。
「私が737 MAXに乗ることと、自動車を5時間運転すること、どちらかを選べと言われたら、交通事故の恐れもある車の運転よりは安全なので737MAXに乗ります。ただ、他の飛行機とどちらかと問われたら、他の機体を選びます」。