2015年予測_スポーツ

2015年の予測〜スポーツ編〜

侍ジャパンのビジネス化がサッカー日本代表を脅かす

2015/1/3
今年は五輪と男子サッカーのW杯がない「谷間」の年だが、見所は少なくない。1月にアギーレジャパンがアジアカップに臨み、11月には野球の12カ国代表が集う「プレミア12」が台湾で行なわれる予定だ。なでしこジャパンは6月に女子サッカーW杯の連覇に挑む。また、錦織圭がテニスの4大大会で優勝できるかにも注目が集まる。2015年は日本スポーツ界にとってどんな年になるのか?
2011年のアジアカップでサッカー日本代表は優勝を果たした。連覇できるかは「芝生の状態」と「献身性」が鍵になる(写真:AP/アフロ)

2011年のアジアカップでサッカー日本代表は優勝を果たした。連覇できるかは「芝生の状態」と「献身性」が鍵になる(写真:AP/アフロ)

予測1:アジアカップは爆発的に盛り上がる

日本のスポーツメディア業界において、「1月は真空地帯だ」とよく言われる。プロ野球もJリーグもなく、正月の箱根駅伝を除いてキラーコンテンツがないからだ。

だから4年前、前回のアジアカップ(サッカーのアジア王者を決める大会)が1月に開催されることが決まったとき、中継局のテレビ朝日の関係者はこう喜んでいた。

「スポーツニュースが枯渇するため、各局が日本代表のことを取り上げてくれて、必ずアジアカップは盛り上がる」

その予測は見事に当たった。2011年1月にカタールで開催されたアジアカップをニュース番組やワイドショーがこぞって取り上げ、決勝の日本対オーストラリアと準決勝の日本対韓国の視聴率は30%を越えた。紅白歌合戦と家政婦のミタ・最終回に続く数字だ。

今回、オーストラリアで開催されるアジアカップも、同じく1月に開催される。日本との時差はほとんどなく、日本戦は18時キックオフがメイン。前大会と同じく、爆発的な盛り上がりを見せるだろう。

予測2:日本はアジアカップ2連覇を逃す

今回のアジアカップの優勝候補は、開催国のオーストラリア、前回王者の日本、韓国、イランの4チームだ。

日本がD組で同組になったイラクやヨルダン、決勝トーナメント1回戦で対戦が予想されるカタールも曲者だが、彼らは慣れない環境で力を発揮するにはまだ経験が浅い。

日本は苦手のカウンターから失点することはあっても、アジアでは帳尻を合わせるだけの得点力がある。日本がベスト4より前に敗退する確率は5%にも満たないと予測する。

だが、準決勝からはハイレベルな争いが始まる。そこで問題になるのが「芝生の状態」と「ハードワーク&献身性」だ。

日本は子供時代から恵まれた環境でプレーしているため、芝生の状態が悪いと苦しむことが多い。2013年のコンフェデレーションズカップのブラジル戦がそうだった。

オーストラリアのスタジアムは、ラグビーやオーストラリアンフットボールに使用されることが多く、芝生の状態が良くないことが多い。大会で試合を重ねるうちに悪化する恐れもある。

一般的に芝生の状態が悪いと、フィジカルコンタクトが増え、競り合いに強いチームが有利となる。オーストラリアや韓国に比べて当たりを苦手にしている日本にとってはネガティブな要素だ。

また短期決戦では、いかに選手が仲間のために「ハードワーク」をできるかという「献身性」が鍵になってくる。前大会では個人をアピールしようとするスタンドプレーはほとんど見られず、控え選手も含めて一致団結して頂点に登り詰めた。

だが、日本代表の人気が高まるにつれて個人がクローズアップされるようになった弊害からか、2011年アジアカップをピークに「献身性」が下がり続けているように見える。2014年ブラジルW杯の敗因のひとつが、まさにハードワークと献身性の欠如だった。

日本はブラジルW杯のグループリーグにおいて、走行距離の合計が32チーム中20位だった。これはドイツより23km少ない数字。フィールドプレーヤー1人が走る距離は1試合で約10kmであることを考えると、1試合当たりドイツは0.7人分日本より走っていた概算になる。

選手の欧州化が進んで個性が強まってきたのはいいことだが、日本が元々持っていた献身性が低下してはチームとしての波が大きくなってしまう。

今回は「悪い芝生」と「献身性の低下」の影響から、日本はオーストラリアと韓国にパワープレーで競り負けると予測する。

予測3:侍ジャパンのビジネス化が成功する

サッカー日本代表が「スポーツ最強コンテンツ」になるのを横目に、危機感を募らせている人たちがいる。プロ野球関係者だ。

Jリーグは地上波の放送がほとんどなく「サブカルチャー化」に悩まされているが、気がつけばプロ野球も地上波の全国放送が激減し、盛り上がりが各球団のホームタウンに分散され始めた。

野球のキラーコンテンツは日本シリーズに限られており、各キー局はかつてのように中継が日常的にないため、野球中継班の技術を保つことに苦心している。

Jリーグとプロ野球の中継を手がけるJsportsの関係者によると、依然として視聴者の数はプロ野球の方が一桁多いという。ただし、それは年配の加入者のパイが大きいからでもある。

現在、スポーツ新聞社の上層部は野球信奉者(=サッカー嫌い)が多いが、スポーツ新聞の元デスクは「10年以内に人材が入れ替わり、よりフラットな報道が始まる」と予測する。そうなれば、さらにサッカー日本代表の「最強化」が進むだろう。

しかし危機感は、ときに改革のガソリンになる。

2014年11月、ついにプロ野球12球団と日本野球機構が立ち上がった。侍ジャパン(野球の日本代表)を盛り上げるために、「株式会社NPBエンタープライズ」を設立したのである。独自の編集部を作り、公式HPをメディア化する力の入れようだ。

ビジネスの第一弾は、昨年11月に開催した日米野球だ。

国民的な関心事にはならず、視聴率こそ8試合すべて一桁台に留まったが、1試合平均約3万3千人の観客を集めて球場は盛り上がった。今後、ダルビッシュ有や田中将大ら大リーグ勢をどう引き入れるかが大きな課題だが、新たな一歩を踏み出した。

そして次の切り札として期待されているのが、今年11月に台湾で開催予定の「プレミア12」だ。日本を含めた12カ国が参加する世界大会で、プレミアリーグやセリエAの放映権を扱うMP & Silva社が放映権を獲得。試合の一部を日本で行なうことも検討されている。

侍ジャパンにとって追い風になるのは、2020年東京五輪で野球が復活する可能性が出てきたことだ。競技数の上限が撤廃され、開催都市が追加する競技を提案できるようになった。早ければ今夏に野球の復活が決まる。

2015年はいい意味で、サッカー日本代表と侍ジャパンのライバル関係が激化するだろう。

予測4:なでしこジャパンは女子W杯のファイナリストになる

サッカー女子のW杯が6月にカナダで開催される。なでしこジャパンは2011年にドイツで開催された前大会において、準々決勝でドイツ、決勝でアメリカに競り勝って初優勝を果たした。翌年のロンドン五輪では銀メダルを獲得しており、もはやダークホースではない。今大会でも優勝候補のひとつとして見られている。

プラス材料は抽選に恵まれたことだ。最大のライバルと見られるアメリカとドイツは決勝トーナメントの反対の山に入り、彼女たちとは決勝まで当たらない(アメリカとドイツがグループリーグを2位で通過となると話は別だが、その可能性はほぼない)。

おそらく日本は準々決勝でブラジル、準決勝で開催国カナダと対戦することになる。ブラジル戦が実現すれば、トーナメント序盤の山場となる。今回の女子W杯は人工芝で行なわれることが決まっており、丁寧にパスをつなぐ日本にとっては悪くない環境。今のなでしこジャパンなら、パスワークでブラジルを上回れるはずだ。また、昨年10月のカナダ遠征で日本はカナダに2連勝しており、(セットプレーの高さにやや課題があるが)苦手意識はない。

チェルシーの大儀見優季を筆頭にヨーロッパで成長している選手が多く、再びファイナルに到達することができると予測する。

予測5:錦織圭の優勝確率が高まるのは全仏と全米

2015年の日本スポーツ界にとっての最大の関心事は、「錦織圭がテニスの4大大会で優勝できるか」だろう。その可能性は確実に高まっており、実際、ブックメイカーの優勝オッズを見ると評価の高さがわかる。

オッズから見ると、優勝確率が高まるのは5月の全仏、8月の全米だ。以下『bwin』のオッズである(2014年12月31日時点)。

【全豪】(1月開催、ハードコート)
ジョコビッチ2倍、ナダル7倍、フェデラー7倍、マレー10倍、チリッチ13倍、ワウリンカ13倍、ディミトロフ15倍、錦織17倍

【全仏】(5月開催、クレーコート)
ナダル2.25倍、ジョコビッチ2.65倍、ワウリンカ13倍、フェデラー15倍、錦織15倍

【全英】(6月開催、グラスコート)
ジョコビッチ3倍、マレー6倍、ナダル8倍、フェデラー8倍、ディミトロフ11倍、チリッチ11倍、ワウリンカ19倍、ラオニッチ26倍、キリオス26倍、ツォンガ26倍、錦織26倍、デルポトロ26倍

【全米】(8月開催、ハードコート)
ジョコビッチ2.40倍、ナダル5倍、マレー6倍、フェデラー9倍、錦織15倍、チリッチ15倍

芝生のグラスコートで行なわれる全英オープンにおける評価は低いが、全豪オープンは8番手、全仏では同率で4番手、全米では同率で5番手となっている。

昨年4月、錦織はバルセロナオープンで優勝して、初めてクレーコートのツアーで優勝した。さらにマドリッドのマスターズでも決勝に進出し、クレーコートを得意にしているナダルを追いつめた(残念ながら途中で腰を痛めてリタイア)。直後の全仏はケガの影響もあって1回戦で敗退してしまったが、今年の全仏でオッズ上位に来ているのは、ラリーが長くなりやすいクレーコートが逆に今の錦織に合っていると見られているのだろう。

競馬の表現を借りれば、まだ大本命や本命ではないが、対抗と言えるポジションに上がってきた。

  【特別テニスコラム 文:上田裕】

錦織圭は2014年に大きく躍進し、全米オープン準優勝、ツアーファイナル(最終戦)ベスト4、そして最終世界ランキング5位と次々に日本テニス界の歴史を塗り替えた。その2015年の活躍を占ってみた。

◎全豪は番狂わせが起きやすい

多くのテニス選手が「一番の夢」と公言するのが、全豪、全仏、全英(ウィンブルドン)、全米の4大大会での優勝だ。だが、男子テニス界ではジョコビッチ、フェデラー、ナダル、マレーの通称「ビック4」がここ10年ほど、4大大会での優勝を独占してきた(2004年から2014年まで44大会開催された4大大会のうち、ビック4は39大会に優勝している)。そこに風穴を開けようとしているのが世界5位となった錦織を筆頭とする次世代グループだ。

オッズ的には全仏での評価も高いようだが、個人的にはハードコート育ちである錦織に優勝のチャンスがあるのはやはり全豪、全米と予測している。

特に今月19日から開幕する全豪はチャンスと言える。シーズン序盤ということもあり、勢いに乗ったランク下位の選手が上位の選手を倒す番狂わせが過去何度も見られたからだ(ジョコビッチ、ナダルを撃破した昨年のワウリンカの優勝が好例)。逆に錦織のオッズの評価の高い全仏では、過去10年で9回優勝という超人的な成績を残しているナダルの壁がまだ高いのではないだろうか。

全豪はオーストラリア開催ということもあり、アジア圏の選手への観客からの後押しも期待される。錦織が大会の中心となる可能性は十分にある。

◎2つの苦手パターンを克服できるか

昨年飛躍的に成績を伸ばした錦織は、他選手から研究されて、対策は当然今まで以上に厳しくなるだろう。

特に、錦織が苦手としているパターンは2つある。

まずひとつは自分より攻撃の展開が早く、ミスなくそれを続けられる選手(昨年最終戦でのフェデラー戦、昨年全米でのチリッチ戦)の攻めを凌ぎきることができず負けるパターンだ。

もうひとつは、圧倒的な守備力と着実なサービスキープ力を持つ選手(昨年全豪でのナダル戦、昨年最終戦でのジョコビッチ戦)の守備を崩しきることができず、攻め急いで負けるパターンだ。

逆に同じトップ10選手でも、フェレールのような守備力は高いがサービスキープが絶対ではない選手、ラオニッチのような一発の破壊力はあるが持続力に欠ける選手は、錦織はストロークの粘り強さ、支配力で分があるため得意にしている(2014年12月31日時点でフェレールとは通算6勝3敗、ラオニッチとは通算4勝1敗だ)。

錦織のように攻守にバランスのよいストロークを武器にしており、駆け引きが上手なタイプは格下には負けにくいため、大きな怪我さえなければトップ10は維持できる可能性は高いだろう(ATPの公式データによると錦織の2014年の成績は54勝14敗、うち対トップ10選手との戦績が11勝7敗の勝率61%、対トップ10選手以外との戦績が43勝7敗の勝率86%だ)。

◎攻撃力の強化がカギ

では、どうしたら負けパターンを攻略できるのか。そのカギは攻撃力のさらなる強化だ。

本人もマイケル・チャンコーチもそれをよくわかっているのだろう。今回のオフシーズンではサービス、ネットプレーという攻撃的なショットを重点的に強化しているとの情報が公開された(攻撃力が増すと、ポイントが早く決まって体力的にもプラスになる)。

ラケットもボールの球速が増すように、特注で新モデルをメーカーに作ってもらった。

昨年はスピード、テクニックを活かした守備力に加え、マイケル・チャンコーチの下、攻撃力を強化したことが飛躍につながった。果たして今シーズンはどのようなテニスを披露してくれるのだろうか。

昨年の全米で発した「勝てない相手はもういない」という名言を、4大大会の優勝トロフィーとともに聞く日はきっと遠くない。