(ブルームバーグ): 日本銀行の植田和男総裁は8日、為替動向次第では金融政策による対応が必要になるとの見解を示し、円安に対するけん制姿勢を強めた。衆院財務金融委員会で答弁した。

植田総裁は円安の影響に関して、「為替相場は経済・物価に重大な影響を与え得る」と指摘。「従来の局面と比べ、為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」とも述べ、「政策運営にあたって最近の円安の動きを十分に注視している。動向次第で金融政策運営上の対応が必要になると考えている」と語った。

具体的には、物価変動から短期的な変動を取り除き、需給ギャップや予想物価上昇率などを反映した基調的な物価上昇率への影響を重視していると説明。円安が基調的な物価上昇率に与える影響については「これまでのところはそれほど大きな影響ではない」としつつ、「今後は影響してくる、あるいは影響するリスクがあるとみている」と述べた。

植田総裁は4月の金融政策決定会合後の記者会見で、円安が現時点で基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていないとの見解を示した。今回の発言は、為替変動の影響を踏まえた政策対応について、これまでよりも踏み込んだ形だ。7日の岸田文雄首相との会談でも為替が経済・物価に与える影響について議論しており、日本経済の回復力が弱い中、日銀は難しいかじ取りを迫られそうだ。 

植田日銀総裁が首相と為替を議論、基調物価への影響を注視-連携確認

8日の東京外為市場で、円相場は1ドル=155円台前半に下落している。植田総裁が円安のこれまでの影響について慎重な見解を示したことをきっかけに、円が一段安となっている。

円は155円台前半に下落、植田日銀総裁の慎重発言で一段安の展開に

日銀は3月の金融政策決定会合で17年ぶりの利上げを決めたが、その後も日米金利差などを背景に円安が進行し、政府・日銀は日本の大型連休中に2回の為替市場介入に踏み切ったとみられている。

同委員会に出席した鈴木俊一財務相は、円安にはプラスとマイナスの両面があるとしながらも、「輸入物価を押し上げるというマイナス面について私も強い懸念を持っている」と発言。政策課題として物価高騰への対応が極めて重要とした上で、為替市場の動きを注視して「取るべきときには適切な対応を取っていきたい」と語った。

緩和度合い

総裁は基調的な物価上昇率が上がって行けば、「それに応じて金融緩和の度合いを調整していくことが適切だ」と表明。目標である2%前後で先行きの物価が推移する見通しを示した4月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)に言及し、「1年半後とか2年後を待って利上げをするということではなく、パス通りに基調的な物価が上がっていけば、それに応じて金融緩和の度合いを適切に調整していくつもりだ」との認識を示した。

金融政策運営は「為替市場を直接のコントロール対象とはみていない」と改めて指摘。金融政策運営はあくまで物価の安定を目標にしているとし、「政策運営が、私どもの財務への配慮から必要な遂行を妨げられることはない」と語った。

他の発言

  • 消費者物価、賃金と物価の好循環に起因する部分の割合は強まってきている
  • 2%の物価上昇を支える需要サイドの伸びが伴う必要がある

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--取材協力:氏兼敬子.

(鈴木財務相の発言を加えて更新しました)

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