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CL放映権から見る世界の潮流 第3回

資金増で中国メディアも知的財産権を尊重し始めた

2015/6/2
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)は、世界最大規模のスポーツコンテンツだ。そのマーケティング権利を独占的に扱うスイスのTEAMマーケティングに、ひとりの日本人がいる。ケンブリッジ大学でMBAを取得した岡部恭英だ。企業と国の思惑が絡み合う巨大サッカー市場で、岡部が目にしたものとは──。
第1回:ヨーロッパの名門クラブは、アジアでパートナーを探している
第2回:なぜ中国企業が「W杯放映権会社」を買収したのか?
『CCTV』(中国中央テレビ)のスタジオにて(写真:岡部恭英)

『CCTV』(中国中央テレビ)のスタジオにて。(写真:岡部恭英)

微博(ウェイボ)の運営会社もCL放映権を獲得

──基本的な質問をさせてください。CL放映権というとTV局をイメージしますが、インターネットにおける放映権がそれとは別に販売されているということですか。

岡部:そうです。僕が今の会社に入ったときに手掛けたのは、『CCTV』(中国中央テレビ)へのCL放映権の販売でした。世界で一番大きいテレビ局です。

ただ、中国では、今はインターネットにおける権利販売がものすごく伸びています。なぜなら中国の若い世代は、だんだんテレビを見なくなってきている。

多くの人が最新のスマートフォンを持っていて、メディアに関する消費行動が変わってきた。だから今、インターネット業界にものすごく資金が集まっている。

世界最大のインフォテインメント・サイトのひとつである「新浪(シーナ)」というポータルサイトがあって、そこともインターネットにおける放映権を契約しています。同社は中国版ツイッター、「新浪微博(ウェイボ)」で有名ですね。

──ちょっと待ってください。前回、テンセントと蘇寧(スーニン)電器が中国におけるインターネット上の放映権を持っているということを聞きました。いったい何社が持っているんでしょうか。

計4社です。すでに触れたテンセント、蘇寧電器、新浪に加えて、あとはLeTVです。

蘇寧電器に関してより正確に言えば、彼らの子会社である上海の動画サービス「PPTV」が放映権を持っています。

上海の夜景(写真:岡部恭英)

上海の夜景(写真: 岡部恭英)

非独占でも権利を買うくらい資金がある

──通常、1カ国につき1つの会社が独占的に権利を持つものだと思っていました。中国は人口が多いから気にしないんでしょうか。

ご指摘の通り、通常の国では1社が独占することで、その会社が大きなメリットをもつようになっています。

ただ、中国はものすごく大きなマーケットなので、すみ分けができているのではないでしょうか。それに加えてどの会社も急成長しているので、「非独占でしか買えないなら仕方がない」というくらいに資金があるんだと思います。

独占するためにさらに大きな金額を払うところが現れる可能性もありますが、放映権を販売する側としてはリスクを伴います。販売額とエクスポージャー(露出)のバランスを取らなければいけません。

そういうことを考えると、現状、中国の場合、リーチを確保するために、ノンエクスクルーシブ(非独占)の形態は非常にいいんです。

──各会社はインターネットにおいて、CLを無料放送しているんですか。

今のところ彼らは無料で放送しています。なぜならインターネットにおける広告収入が、日本では考えられない額になるからです。人口を見て、単純に言っても、規模は10倍になりますね。

もう完全にモバイルの時代が来ました。スマートフォンでのビジネスです。中国の主要都市では、日本以上に携帯が財布代わりになっていて、タクシーでも何でも支払うことができます。

要するにテンセントやアリババは、銀行みたいになっているということ。銀行よりも金利がいいくらいです。彼らはマネーマーケット・ファンド(MMF)を始めて、1、2カ月でそれぞれ数兆円以上集めました。

──インターネットの会社があらゆるビジネスに手を出していると。

そうです。特に中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)という3大インターネット会社がすごい。

中国はグーグルが禁止されているので、検索はバイドゥの独占。アリババはeコマースから出てきた。テンセントはインターネットポータルやチャットから入ってきた。

それぞれ出発点は違いますが、今やみんなソーシャルメディアも、ゲームもやっているし、Uber(ウーバー)みたいにタクシーのサービスも始めている。そして銀行みたいなことをやっているし、投資もすさまじいです。

中国における知的財産権

──岡部さんが今の会社に入ったときと比べて、アジアの重要度は変わりましたか。

はい。日本を除いたアジアで言えば、約10倍の規模になりました。

──昔のイメージだと、中国は違法サイトが多く、放映権は高く売れないという印象がありました。

違法サイトがまったくないと言うと語弊がありますが、昔と比べると、インテレクチュアル・プロパティ(知的財産)を守ろうとする姿勢が、インターネット会社に関してはすごく強くなってきた。

昔はユーザージェネレイトのサイトでイリーガルにやっていたところもあります。でもあまりにも資金が入ってくるので、きちんと投資するようになってきたんだと思います。

──話は変わりますが、ブックメーカー会社にCL放映権を売ることもあるんでしょうか。

いや、それはありません。そもそも私たちは、タバコ会社とブックメーカー会社にはスポンサー枠も売っていません。基本、それらの業種の会社はNGです。

(聞き手:木崎伸也)

※本連載は毎週火曜日に掲載予定です。