シリコンバレー発ロボット最前線

ロボットの箱詰め競争から見えてきたもの

アマゾン主催。ロボットコンテストに見る米国の「チャレンジ」

2015/6/1

なぜロボットは箱詰めができないのか

先週(米時間5月26、27日)、シアトルでアマゾン・ピッキング・チャレンジ(APC)が開催された。以前お伝えしたことがあるが、APCは、配送センターで人がやっている箱詰め作業をロボットに行わせる技術を競うコンテストである。

アマゾン・ドット・コムがロジスティクスを効率化させて、翌日、即日で配達をしようと挑んでいるのはご存じだろう。さらにその向こうには、ドローンによる30分配達という目標を掲げて、同社は世界をクリックの速度に近づけようとしている。

配送センターの中もロボットがいっぱいだ。アマゾンが2012年に7億7500万ドルで買収したキヴァ・システムズのロボットは、現在1万5000台が導入されて忙しそうに動いている。キヴァのロボットは、商品を棚ごと持ち上げて作業員のところまで運び、作業員はそこから商品を取り出して箱に詰めるという仕事を行っている。

さて、その箱詰めの部分が現在のロボット技術ではなかなかできないのだ。

通常の部品メーカーや食品メーカーの工場で使われるピッキング・ロボットは、つまみ上げるものが決まっているため、ロボットの作業は難しくない。というよりも、こうした産業ロボットの技術はかなり発展していて、画像認識技術と一定の把持作業を行うことができるロボットが広まっている。

ところが、アマゾンのようなオンライン・ショップの出現と共に出てきたのは、ありとあらゆる商品をひとつの箱の中に詰めるという作業の必要性だ。もしここでロボットを使おうとするのならば、ロボットはどの棚にどの商品が入っていて、傷つけないようにつかむにはどちらの方向からつかめばいいかを認識、計算し、それを箱に入れるという一連の作業を行わなければならない。

しかも商品は、書籍のように重いものから、鉛筆のように小さなもの、ぬいぐるみのようにフワフワしたもの、袋入りのおもちゃのようにキラキラと光るものと多様。それぞれをそれなりに扱わなければならないのだ。

そもそも、ロボットのハンド技術は発展が遅れている分野である。人間の手は柔軟に動くだけでなく、モノを見ただけでどこからつかむか、どの端を持ち上げるか、どの部分を引っ張るかといった認識に対応している。これをロボットにやらせるのは大変なのだ。
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ロボットも認識方法も三者三様

こうした背景があって、スタートしたピッキング・チャレンジだが、アマゾンが賞金と一部の旅費補助金を出し、中国やヨーロッパ、日本も含んだ世界中から30チームが集まった。大学の研究者、学生、そして企業の研究室、スタートアップなど参加者はさまざま。その混成チームも見られた。

結論から言うと、優勝したのはドイツのベルリン工科大学チーム。2位はマサチューセッツ工科大学、3位はチーム・グリズリー(ミシガン州のオークランド大学とデータスピード社の混成チーム)。日本から参加した2チームは残念ながら上位を逃した。

ただ、面白かったのは、同じ仕事をするのにこんなに違ったアプローチがあるのかということだ。

まずは、使うロボットが違う。

ゼロから自分たちのロボットを作って挑んだチームもあれば、APCに協力を申し出た産業ロボット会社のアームや新型コーロボット(人と並んで作業する安全なロボット)を用いて、ソフトを自分たちで書き換えたり、ロボットのハードウェアを一部改造したりしたチームもある。

また、どうやって商品を認識させるか、どういった方法でつかむのかといった方法にもチームの数ほど違いが見られた。

先に棚を全部見渡して在処を把握しようとしたロボットもいれば、手当たり次第につかんで認識しようとしたロボットもいる。つかむのには、掃除機で使われる吸引を利用するチームが多かったが、工夫して作ったハンドを披露したチームもいた。

最も変わったところでは、棚の前に棚を置いて、そこからハンドを前面に付けた超小型ブルドーザーのような複数の小さなロボットが商品を取りに行くといった仕組みを考えたチームもあった。
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チャレンジとは単なるコンテストではない

APCは、ロボットの重要な学会のひとつであるICRAと並行して開催されていたので、観客も大喜びだ。研究者や学生らにとっても、ロボット技術の多角的な能力を試すこのチャレンジは、学習機会でもありエンターテインメントでもある。

ロボットが商品をうまく箱に入れるたびに歓声と拍手がおこり、間違ったものをつかむと笑いがおこり、商品を落としてしまうとがっかりした嘆きが一斉に聞かれる。ロボット研究のコミュニティーの躍動がひしひしと感じられた。

APCは、ここで開発したハードウェアやソフトウェアをオープンに共有できるようにするという。アマゾンが主催はしているが、ここでの成果を独り占めするわけではない。

このイベントに居合わせて、生でこのチャレンジを体験したすべての人々は、強豪チームが闘い合う現場からかなりの刺激を受けただろう。研究者ならば、他チームの方法論や暗黙の仕事の作法などから多くのものを学んだと思う。

アメリカでは今、この「チャレンジ」という方法が科学技術のさまざまな分野で出てきている。チャレンジとは、単なるコンテストではない。近未来的なテーマを与えて複数のチームに競わせ、そこで発明や開発が凝縮して起こるように仕向ける仕掛けと考えればいい。

参加する人々は、互いに競争相手という敵でありながら、同じ領域で研究や開発を行ってきた同士である。このチャレンジという方法から、最近では自律走行車や民間宇宙開発という新産業が起こり、その後開発が加速化している。

日本にも、こんな仕組みがもっと欲しいと思った。

※本連載は毎週月曜に掲載予定です。