テスラのレイオフについて元従業員からみた視点
トピックスオーナーの前田謙一郎です。
先日のテスラの10%人員削減について多くの報道がなされていますね。特にアメリカのMSMからのこのトピックに関連したニュースはとても多く流れています。
Q1のテスラ出荷台数の低下やライバルBYDも台数を落としていることなどから、タイミング的に良くないことも重なり、ネガティブなナラティブによってテスラやEVシフトが危機的状況のような風潮でストーリーが作られています。
また、日本のメディアもMSMのニュースを額面通りに翻訳しているので、日本での受け止め方もEV減速、テスラ低迷、株価暴落など、同じようなトーンで憶測がされています。
しかしながら、今回のように数年に一度、組織をスリム化し生産性を上げることはテスラの通常の組織効率化の一環であり、私の在籍時も数度、グローバルでレイオフが行われていました。これらはテスラのようなダイナミックかつ常に変化するテック企業において、成長を加速しイノベーションを継続するために必要な組織再編でもあります。
これらの点を含めて、テスラ視点また元従業員の経験も含めて記事にしました。多くの報道にあるのとはまた違った視点ということで読んでいただければと思います。
次の成長フェーズに備えるために
今回のように数年に一度、組織をスリム化し生産性を上げることはテスラの通常の組織効率化の一環です。イーロンもXで述べているように、テスラは大規模なリストラクチャリング(組織再構築という意味)を進めていることは間違いありません。
イーロンもツイートで5年毎には会社の次の成長フェーズへ向けて再組織をしなければならないとポストしていますし、以前のトピックスでもまとめたようにテスラは、単なる自動車会社から、FSDによる完全自動運転やオプティマス、AIへの取り組みを強化し、AI・ロボティクス会社へと移行しています。
xにおいて@pilolyが作成しているチャートに従業員の数の増加とジョブカットのグラフがあり分かりやすいので載せておきます。私が在籍していた時よりも従業員はかなり多くなっているので、見直さないといけない部分は多くあるのだと思います。(2024年には15万人近くになっている)
歴史的にみて、今回の10%の削減は大きな数値です。会社をスリムにしながら、新しいプライオリティーへの注力や市場環境に適応していく。2万5000ドルのコンパクトEVの生産からロボタクシーやAIへの移行という成長曲線、このアジャイルな組織のあり方や適応力が成長を継続する秘訣であるとも言えます。
レイオフは全てがポジティブではない事は確かですが、これまでも最適化を進め継続的な成長をしていることは以下のStatistaのテスラ収益グラフからも理解できます。
レイオフとテスラで働くということ
企業の効率化と成長のためとはいえ、テスラが好きで働いていていながら、レイオフ対象になることは良いことではありません。
私も2019年のレイオフ時のことはよく覚えており、ちょうどサンフランシスコの本社マーケティングチームと定例のような打ち合わせをしていた前後に対象になる人に通知があったようで、残念だけど去らなければいけないという会話や短いフェアウェルの言葉を打ち合わせ内で交わした記憶があります。
対象になった人も特にパフォーマンスが悪いわけではなく、非常に優秀な人たちでした。その光景を見てアメリカならではのドライな組織の効率化、そしてそれ以上にテスラのようなアメリカのダイナミックなテック企業で働く上では、このようなことが常に起きる事を理解しておかないといけないということでした。
ちなみに私が経験した範囲ではテスラには「引き継ぎ」のようなものはありません。ポストがなくなれば必要がなかったということですし、必要であれば周りの誰かがカバーする。
もしリプレースメントがあった場合には新しい人がその人のやり方でやるということでした。私も最初は抵抗がありましたが、多くの場合はそれで事足りており、より重要なのは新しい血ややり方を入れることのようでした。
ちなみにレイオフの最中、幹部社員も退社をしています。エンジニアリングの幹部であったドリューと公共政策を担当していたローハンです。優秀な人材の損失は常に痛手になりますが、彼らも自身のXの中でテスラで働けたことは良かった、次は家族との時間を楽しむ、というようなポストをしています。
テスラは素晴らしい職場ですが、会社からの要求も高く、パフォーマンスを出し続けなければなりません。そのため多くの時間を会社で費やし犠牲も覚悟しないといけない。しかし、イーロンやテスラのミッションに賛同する同僚と働くことや仕事の達成感は他では味わえない経験なのではないでしょうか。
今後のテスラの動向に注目
簡単ではありましたが、元従業員から見た今回のレイオフについてまとめてみました。同時に今回の組織効率化によりテスラが今後の成長分野とプライオリティがクリアに見えてきたということだと思います。
昨晩もイーロンは今後は自動運転の方にフォーカスし、それ以外は馬車のバリエーションを増やしているようなものだ、、というポストをしています。
引き続き株価やEVの将来など、多くのメディアや投資家から注目を浴びているのも確かであり、そういった意味では来週のQ1の決算発表はとても興味深いものになるはずです。今の状況をテスラの次の成長への始まりでチャンスとみるか、危機的状況とみるか。
また次回のトピックでお会いしましょう。
TOP画像:Getty Images
トピックスオーナー:前田謙一郎
マーケティングコンサルタント&自動車業界アドバイザリー。テスラ・ポルシェなどの外資系自動車メーカーで執行役員等を経験後、2023年Undertones Consultingを設立。
コメント
注目のコメント
先日のテスラのレイオフについてテスラや元従業員としての視点から考察しています。今回のような組織をスリム化し生産性を上げることはテスラの通常の組織効率化の一環であり、私の在籍時も数度、グローバルで行われていました。
これらはテスラのようなダイナミックかつ常に変化するテック企業において、成長を加速しイノベーションを継続するために必要な組織再編でもあります。
ただ、成長曲線の間にいるテスラにとって、大手メディアの報道は逆風感に溢れています。来週のQ1 Eraning callと合わせて今後の動向に注目です。Teslaに限らず、欧米企業でのレイオフについても同様。
ただ、当然ながらレイオフをしないで済む経営状態であればしない。採用コストもかかっているわけだし、レイオフのコストもかかる。なので、元々の計画通りに進捗していない、ということも当然示唆される。
一般論として、その計画通りかという部分へのチェックがされ、その通りでない時にオプションとしても意思決定としても、レイオフをしやすい。オプションとしても、というのは労働慣行としてのしやすさ、意思決定としても、というのは労働慣行でのしやすさも影響するがそれでも計画通りではないといった点を認めて経営としてハードな意思決定をしている。
日本の場合、オプションとしてしにくく、そのためやるときのハードさが上がり、結果として意思決定もしにくくなる構造にあると思っている。
レイオフは、トップダウンで人件費何割とか、この拠点・機能は閉鎖などが決まる。だから自分のコントロール外が多く、能力関係なく発生する部分がかなりある(人件費が高い人はパフォーマー)。
レイオフが当たり前の労働慣習として受け入れられている場合は、そういった前提も概ね浸透している。それでも、レイオフされる当事者はもちろん、レイオフが発生した職場は、不安含めて雰囲気が悪くなる。----"ちなみに私が経験した範囲ではテスラには「引き継ぎ」のようなものはありません。ポストがなくなれば必要がなかったということですし、必要であれば周りの誰かがカバーする。
もしリプレースメントがあった場合には新しい人がその人のやり方でやるということでした。私も最初は抵抗がありましたが、多くの場合はそれで事足りており、より重要なのは新しい血ややり方を入れることのようでした。"