2024/4/19

【三日坊主上等】田村淳が、大阪のビジネスパーソンに伝えたいこと

NewsPicks Brand Design / NewsPicks for WE Senior Editor
働き方もキャリアパスも多様化した昨今。どんな状況でも自らの仕事や人生を主体的に楽しんでいる人は、いったいどのような考え方で行動しているのか?

そんな“やりたいことを全部やる”を体現する1人が、田村淳氏だ。タレントとして活動しながら、バンドやコミュニティづくりなど、多方面に挑戦し続けている。

「働くを、面白くする!」をコンセプトに掲げる阪急阪神ワーカーズサービスと、法人向け学びとつながりのプラットフォームNewsPicks Enterpriseのコラボレーションで3月11日、田村氏を招いたトークイベントが開催された。

舞台は、西日本随一のビジネスエリアに位置するランドマークビル「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」内の梅田サウスホール。

330名超が参加したトークイベントを、ダイジェストでお届けする。
INDEX
  • やりたくないことをやる暇はない
  • 「よく考えてから」は呪いの言葉
  • 母の死で知った「遺書」の大切さ
  • 家と職場以外の「サードプレイス」を持とう
  • 夢を語って、夢に近づく
  • ハード面より、ソフト面での差別化を
  • 年間50件以上の交流イベントを実施

やりたくないことをやる暇はない

田村 僕は、自分ほどやりたいことを全部やっている人間にまだ出会ったことがないんです。
 だから今日は、どうすればやりたいことを全部やれるようになるかをお話しします。
 最初に“答え”を言いますね。それは「やりたくねえ事 やってる暇はねえ」です。
 これはTHE BLUE HEARTSの曲「ブルースをけとばせ」の一節です。
 高校のときにこの曲を聴いて、マジでそうだなと思って以来、やりたくないことは一切やらなくなりました。
 僕のこの性格の基礎をつくってくれたのは、母の久仁子です。
“三日坊主上等”──これは、数ある母ちゃんの言葉のなかで、一番印象に残っているものです。
 普通は習い事を始めたら、「すぐやめちゃダメ」って言われますよね。でも、母ちゃんは違った。
「やりたくなくなったら、すぐにやめていい。その代わり、理由を教えて。そして次にやりたいことを見つけて私に言いなさい」と言ってくれたんです。
 こう言われると、新しい一歩を踏み出しやすくないですか? だから僕は、やりたいことをすぐ行動に移す人間になれました。
 ソフトボールやバスケットボール、習字などの習い事もしたし、生徒会長、鼓笛隊の指揮者、学芸会の主役にも手を挙げました。
 高校には、バスケのスポーツ推薦で入学。バンドブームが到来すると、バスケ部を辞めてバンドを始めました。スポーツ推薦で入ったのに(笑)。
司会は2月に解散したお笑いトリオ・ニブンノゴ!から、新たにチキンナンバンとしてコンビを結成した森本秀樹氏が務めた。
 でも、僕が大好きなTHE BLUE HEARTSのボーカル・甲本ヒロトさんがラジオで「2番目に好きなことを仕事にしたほうがいい」と言っていたんです。
 すぐに友だちとコンビを組んで、高校生漫才師になります。
 地元の大会で優勝し、大学の文化祭のステージにも呼ばれた。そこでスカウトされて、高校卒業後は東京へ行き、芸能の世界に入るんです。

「よく考えてから」は呪いの言葉

 日本では、「よく考えてから行動しなさい」といわれます。
 確かにそのほうがいいこともある。でも一方で、この言葉は人間の行動をめちゃくちゃ抑制することにもつながる、“呪いの言葉”だと僕は思っています。
 だって、やりたいことをやるのによく考えていたら、ブレーキ材料しか出てこなくないですか? だからもう「迷ったらGO」ですよ。
 これが、僕の著書のタイトルでもある“即動力”です。
 最初に出合ったものに一生熱中できる運命的な出合いなんて、めったにありません。
 好きなものに出合うには、バットを振る回数が大事。だから即動力が大事なんです。
 芸能界に入ってからも、僕はいろんなことにチャレンジしてきました。
 DJにビジュアル系バンド、オンラインサロン、エンジェル投資家、タレントのサブスクサービス、全葬連アンバサダー、VTuber、アイドルプロデュース、AIアバターなど、いま挙げてないこともまだまだあるんですよ。

母の死で知った「遺書」の大切さ

 母ちゃんの病気をきっかけに、2017年に大学受験にも挑戦しました。
 僕が成人して以降、母ちゃんは必ず毎年「誕生日おめでとう。私、延命治療しないから」と言いました。だから自分の誕生日が来るたびに、「はいはい、延命治療ね」と思っていた。
 でも僕が46歳のとき、母ちゃんにがんが見つかりました。
 ここで初めて、毎年のメッセージが効いてくる。生きている間にメッセージを残すってすごく大事なことなんですよ。
 この経験をきっかけに、僕は遺書について研究したいと思い、大学受験にチャレンジします。受験は失敗しましたが、最終的には大学院に入って研究ができました。
 遺書って本当におもしろいんですよ。研究で2000人に遺書を書いてもらってわかりました。
 書きながら自分の大切なものや生き方、やりたいことについて自問自答できるんです。
 だから最初は遺書にネガティブな印象を持っていても、書き終えるとポジティブになれる。周りへの感謝の気持ちが湧き、自分のやりたいことが明確になるんです。
 遺書には、残された人を楽にしてくれる役割もあります。
 母ちゃんの死で遺書の大切さを知り、大学院在学中に、遺書動画サービス「ITAKOTO」で起業もしました。

家と職場以外の「サードプレイス」を持とう

 今日は阪急阪神ワーカーズサービスの登録者が集まっているそうですが、コミュニティって大事なんですよ。
 僕は昔から「複数のコミュニティを持つことが幸せにつながる」と言っています。
 アメリカの社会学者のレイ・オルデンバーグ氏も、人には家と職場のほかに、居心地の良い“サードプレイス”が必要だと言っています。
 僕はオンラインサロンをやっていて、多様なメンバーがいるからこそ、なかなかできないことを体験できるし、それによって絆が生まれるというメリットを実感しています。
 オンラインサロンでも僕はいろんなことをやるので、周りからは「お前、結局何やりたいの?」ってよく言われます。
 でも大事なのは、他人の評価軸じゃない。自分がどう生きたいかです。
 日本は、1つのことをやり通すのをよしとする社会です。
 でも僕は、いろんなことをやることが人間としての“幅”になると思っている。
 だから、「淳みたいにやりたいことをやっている人生って楽しそうじゃん」って思ってくれる人をこれからも増やしていきたいと思います。

夢を語って、夢に近づく

 熱量の高いトークに続く質問タイムでは、田村氏に触発された阪急阪神ワーカーズサービス会員たちが続々と手を挙げた。
田村 僕にとっては投資した経験、投資によって得られた人脈はもちろん、最終的に損をした経験も「リターン」へと変換するマインドで生きています。
「投資のリターン=お金」と考えると、自分が苦しくなりますから。
田村 遺書は、“履歴”で価値が決まります。何回書き直したかが大事なんです。
 うちの母ちゃんは26年間、「延命治療はしないでね」と言い続けた。だからこそ、母ちゃんが亡くなる間際でも、僕たち家族が迷うことはまったくありませんでした。
 最初からすごい遺書を書いてやろうと思わなくて大丈夫です。
 その代わり、日を決めて毎年書き続けてください。誕生日とか元日とか、決めておくと続けやすくなります。
田村 継続できないということは、つまり熱量がないということ。
 無理に熱中度を上げようとせず、「三日坊主上等」と思って取り組めば、いろんなことにトライできます。
 そのほうが結果的に、「熱中しすぎて寝られない!」というくらい熱量の高まるものに出合える確率が上がりますよ。
田村 実は10年ほど前、指揮者をやってみたくて「東京タワーの下で指揮者の格好で待っているので、楽器ができる人集まってもらえませんか?」って、Twitter(現X)で呼びかけたことがあります。
 そこに集まってくれた人たちと、即席オーケストラをやりました。
 僕の場合はたまたまフォロワーが数万人いたから実現できたけど、いきなりオーケストラを集めるよりも、まずは同じ熱量で動ける人を探してコミュニティをつくるほうが近道かもしれません。
 僕は人の夢を聞くのが好きだから、今日、あなたのことを覚えました。
 これから先、どこかで「オーケストラを持ちたいって人がいたな」って思い出して、誰かに紹介することがあるかもしれない。
 壮大な夢を持っている人は、この質問者さんのように、大勢に夢を語ることをオススメします
 バカにする人の話は聞かなくていいので、夢に近づけてくれる人に近づきましょう。
 今日、この場に集っている人たちも、あなたの熱量を伝播させるコミュニティになり得るかもしれません。
 絶対、いろんな人とつながって帰ってくださいね。

ハード面より、ソフト面での差別化を

大盛況で幕を閉じた本イベントを主催したのが、大阪梅田エリアに多数のオフィスビルを所有する阪急阪神不動産だ。

阪急阪神グループのオフィスビルで働くビジネスパーソンを対象に「阪急阪神ワーカーズサービス」を展開し、企業やオフィスビルの枠を超えたビジネスパーソン同士の交流の機会を生み出している。

サービス担当者の宮本大貴氏に、その狙いを聞いた。
──今回の田村淳さんのトークイベントに込めた思いを教えてください。
宮本 関西の人は、“おもろい”“おトク”なことが大好きです。
 今回のトークイベントは、そんな関西人のみならず、ビジネス感度の高い方々にも満足いただけるものを目指しました。
 田村さんのメッセージである「やりたいことは全部やる」は、阪急阪神ワーカーズサービスが掲げる「働くを、面白くする!」にも通ずるものだと考えています。
──なぜ阪急阪神グループのオフィスビル入居企業のビジネスパーソン向けに、イベントや学びの場を提供し始めたのでしょうか?
 従来のオフィスを選ぶ基準は、立地とスペック、コストが常識でしたが、ハードウェアはコモディティ化しています。
 ソフト面でのサポートが差別化につながり、企業に選ばれるビルになるのでは、と考えました。
 また、入居者へのヒアリングでの「社外の人とコミュニケーションを取りたい」「オフィスの近くで学びを得る場が欲しい」という声も、サービスを後押ししました。
 現在もリモートワークを続ける企業が多い東京とは違って、大阪は出社率が非常に高い。
 背景には、街がコンパクトで職住近接の傾向が強いこと。また、東京の企業が支社・支店として大阪に営業機能を置くケースが多いことがあります。
 そこで重視されるのは、ワーカーのウェルビーイングだと私たちは考えています。
 出社率が高いからこそ、オフィスとしてだけでなく、自分に刺激や癒やしを与える場としてもビルを活用いただきたいのです。
──企業ではなく、不動産デベロッパーがワーカーのウェルビーイングに取り組むメリットは何でしょうか?
“面”でのサービス展開だと考えています。
 今回のイベント会場「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」がある大阪・梅田エリアは、西日本ナンバーワンのオフィス街。
 阪急阪神グループが構えるオフィスビル21棟には、約500社、約3万5000人の方が働いています。
 東京の場合、金融なら大手町、ITなら渋谷……と、エリアごとに業種が分かれ、異業種が混じり合う機会は少ないように思いますが、コンパクトな大阪は、同じビルに多種多様な業種が集まっています。
 私たちが梅田という“面”でサービスを展開すれば、企業単位の取り組みよりも多様で、企業や業種の枠から解き放たれるサードプレイスが生まれる。
 結果としてウェルビーイングを実現しやすいと考えています。

年間50件以上の交流イベントを実施

──阪急阪神ワーカーズサービスでは、ほかにどのような活動を行っていますか?
「いきるチカラ」「はたらくチカラ」「たのしむチカラ」といったキーワードを軸に、年間50件以上の交流イベントを開催しているほか、テニスやボードゲーム、映画、写真、商談会などのサークル活動も活発です。
 実は、ここに至るまでには試行錯誤がありました。
 当初は会員専用アプリの中で、イベント告知や会員さん同士でのサークル立ち上げなどを想定していました。
 ところが、ダウンロード数がなかなか伸びず、コロナ禍もあって、一時は各種活動がすべて止まってしまう事態に。
 2022年4月からはLINE公式アカウントを活用し、登録者数が増加。年間延べ2000人以上の方が交流イベントやサークル活動に参加しています。
阪急阪神ワーカーズサービスのWeb登録者数は約1万6000人、LINE公式アカウントの登録者数は約6000人超だという(2024年3月現在)。
──コミュニティの活性化までに、トライアンドエラーがあったのですね。反響はいかがでしょうか?
 好意的なお声をたくさんいただいています。
 東京本社から大阪支社に異動したある会員さんは「他社との交流は自力では難しかったが、サービスのおかげでほどよい距離感でいろんな業種の人とつながれた」と。
 20代の方からは、「大企業では自分の考えを言葉にする機会は少ない。同世代と本気で議論し、アウトプットまでを経験できる場が会社のすぐそばにあるのは大きな価値」との感想もいただいています。
 デベロッパー側からの交流のきっかけづくりがワーカーの満足度向上につながると、改めて実感しましたね。
 今後さらにワーカーズサービスを充実させて、人生も仕事も、全力で楽しめる環境を提供していくつもりです。
 梅田のオフィスワーカーをもっと盛り上げていきたいですね。