2024/4/7

【新発見】カマキリを操る寄生虫。その驚きの戦略とは

フリー 科学記者・編集者
寄生虫と言えば、「病気を引き起こすもの」といったイメージをもっている人が多いかもしれない。しかし自然界には、病気を引き起こすどころか、宿主の体を乗っ取って行動を操る、とんでもない寄生生物もたくさんいる。
その一つが今回の主役、ハリガネムシだ。
針金のように表面が硬く、ミミズのように細長い生き物で、カマキリなどの昆虫の体内に寄生し、その行動を操って川や池に飛び込ませる。そうすることで、自らの繁殖場所である水の中への移動をまんまと成功させるのである。
こうした巧みな宿主の操作は、いったいどんな仕組みで成り立っているのだろうか。近年、その謎が徐々に解き明かされつつある。
ハリガネムシの宿主操作について研究している京都大学生態学研究センターの佐藤拓哉・准教授に、驚きの生態と宿主操作に関する最新の研究成果について話を聞いた。
INDEX
  • 宿主を乗り換えて水中と陸を行き来
  • カマキリはなぜ水に引き寄せられる?
  • 行動操作の謎に迫る
  • 遺伝子が種をこえて伝わった!
  • 寄生生物の「乗っ取り」は謎だらけ

宿主を乗り換えて水中と陸を行き来

佐藤 私は元々、渓流などの生態系の研究をしていました。その研究の中で、本州の川では、お盆を過ぎるとほとんどの渓流魚がカマドウマという大きなバッタの仲間をバクバク食べていることが分かりました。

何でこんなことが起きるんだろうと思って論文を調べたら、昆虫に寄生したハリガネムシが宿主を操作して、水に飛び込ませているということを知ったんです。
ハリガネムシ(写真:佐藤拓哉准教授提供)
佐藤氏らの研究の話に入る前に、まずはハリガネムシがどのような一生を過ごすのかを見ておこう。