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Chapter 2:エネルギーバランスと再生可能エネルギーの問題点

「原発依存度0%」の矛盾。原子力発電の代わりはあるのか

2015/5/25
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第四弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.4「迫り来る危機をいかに乗り越えるか」』(初版:2015年3月6日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
今回の連載では福島第一原発事故後の日本のエネルギー問題を取りあげ、原発へのyes/noだけではない持続可能なエネルギーミックスについて考える。
大前研一特別インタビュー:混乱の時代を生き抜くため、個人として何ができるのか(5/11)
本編第1回:Chapter 1「原発停止による電力不足、エネルギーコスト上昇の深刻化」(5/18)

本特集の基とする原稿は、2013年2月に大前氏が開催したセミナーのものであり、収録から経過した2年のうちに、いくつか古くなってしまった統計情報等が含まれることをご了承いただきたい。しかし、日本がエネルギー戦略においてかかえる課題はいまだ解決されておらず、当時の大前氏による分析は現在も有効なままである。

十分な情報を与えないまま、国民にエネルギー政策を問うのは間違い

エネルギー政策の立案には、高度な専門知識が要求され、かつ20年、30年という長期的な戦略が必要です。3.11以前、日本はこの長期戦略に成功して、素晴らしいエネルギーミックスの状態にありました。

福島第一原発事故の後、民主党政権が犯した最大の過ちは、国民に十分な情報を提供しないまま、原発依存度について三択を示したことです。「皆さん、原発依存度は20~25%がいいですか。それとも15%、0%ですか」と。あれほど大きな事故の直後、情報が与えられないままそのような質問をされれば、国民は0%を選ぶに決まっています。

これは非常に拙劣なやり方です。繰り返し言いますが、エネルギー政策は専門知識が要求される国家の重要課題なのです。正確な情報を隠したまま数字だけを選ばせるのはとんでもない。民主党に言いたいことはいろいろありますが、中でもこの件に関しては、政治の責任放棄に等しいと思います。

「再生可能エネルギー」は6割以上が水力発電

図-5を見ていただきたい。左は、民主党が提示した原発依存度3案における電源構成をグラフにしたものです。

2010年の実績は、原子力30%で再生可能エネルギーが11%。シナリオ3では、原発が20~25%、再生可能エネルギーは25~30%です。シナリオ2で原発が15%になると、再生可能エネルギーが30%。そして原発0%では再生可能エネルギーが35%になるという想定です。
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結論から言えば、これはまったくの嘘です。まず、2010年実績で再生可能エネルギーは11%となっていますが、このうち7%は水力発電です。「再生可能エネルギー」と言われて、水力を思い浮かべる国民は多くないでしょう。太陽光発電や風力発電をイメージする人が大半だと思います。

しかし、実は太陽光と風力の割合は4%しかない。理由は後述しますが日本の水力発電はほぼ頭打ちなので、原発依存度0%なら、太陽光と風力の4%を25~30%まで増やさなければならない。これは大変なことです。

右のグラフを見ていただきたい。2012年、エネルギー問題に関する「討論型世論調査(※3)」を実施した結果、討論後は半分近い人が「原発依存度0%」を支持するようになりました。

2013年2月の世論調査(朝日新聞)では、7割が将来的に原発を「やめるべき」と答えています。放置するとどんどん増えていきます。後述しますが(Chapter3参照)、今の原子力規制委員は活断層オタクですから、彼らの活断層に関する記者会見など見ていると、ますます「原発依存度0%」を支持する人が増えるのです。

※3:通常の世論調査と異なり、まず無作為に選んだ対象者に電話調査を行ったのち、その中の希望者が2日間の討論に参加。その後、再度調査を行って意見の変化を見るという調査方法。事前に郵送される資料や専門家との質疑などから、テーマに関する知識を得た上で自身の立場を決めることができるとされる。資料内容や討論参加者が偏る可能性、討論中声の大きい人物の意見に流されるおそれなど、問題点も指摘されている。

日本の水力発電は、ほぼ100%開発されている

原発依存度3案の矛盾を、さらに詳しく検証していきましょう。図-6、左側のグラフを見ていただきたい。

たとえば「原発依存度0%」のシナリオ1を採用した場合、地熱、風力、太陽光はそれぞれ発電量を2010年度の7倍、21倍、19倍にしなければ間に合いません。水力は、もうこれ以上発電量を増やせません。日本の水力発電は、ほぼ100%開発されたと考えて間違いないです。
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2009年の民主党政権下では、八ッ場ダム(群馬県吾妻郡長野原町)の建設事業継続の可否が問題になりました。八ッ場ダムは、もともと目的のないダムです。昔は「飲料水と灌漑に使う」と言っていましたが、そのニーズもなくなった。民主党が「無駄な公共事業を見直す。八ッ場ダム建設は中止」と公約を掲げて政権交代を実現させましたが、大臣が変わるたびに方針が二転三転し、結局、事業が復活することになりました。

目的を失ったダムの建設を継続するために、「ダム基本計画」を変更して、発電機能が後付けされました。ところが、実は肝心の水がないのです。どういうことかというと、吾妻川流域には既に複数の発電所があります。

八ッ場ダムとともに新設される発電所が発電するのに十分な水量を確保するためには、他のダムが水を融通しなければなりません。結果的に、他の発電所の発電量が減少してしまいます。八ッ場ダムがあってもなくても、プラスマイナスゼロ、何も変わらないのです。

この事実を明らかにせず、「発電機能を付けました。3.11の後は水力発電が必要ですね。ぜひ八ッ場ダムを造りましょう」と言っている。これは正しい発言とはいえません。

太陽光・風力発電は「ベースロード電源」にはならない

次に、コストの問題があります。図-6の右側のグラフは、再生可能エネルギーの設備利用率、すなわち稼働率を表しています。原子力は70%です。本当は100%フル稼働し続けられるのですが、13カ月に一度、定期検査のために止めなければならない。

地熱とバイオマスは80%、小水力が60%、洋上風力30%、陸上風力20%、太陽光が12%という利用率になっています。太陽光の12%という数字は、実は山梨県の実績です。山梨は日本で一番日照時間が長いところですから、日照時間の短い地域、たとえば冬の日本海側でデータをとれば、また違った数字になるでしょう。

原発は「ベースロード電源」、つまり季節や時間帯にかかわらず、常に一定量を供給し続ける電力供給源です。太陽光・風力発電は、時間帯や気象条件によって発電量が大きく変化しますから、「ベースロード」にはなり得ません。「原発の代わりに何がいいですか」という質問により、これらがベースロードになり得るような印象を国民に与えたというのは、技術的にナンセンスなことです。

太陽光・風力発電の余剰電力問題

太陽光・風力発電は、なぜ原発の代わりにならないか。図-7を見てください。原発をゼロにして、太陽光・風力で電源構成の16%を補うという案を実行するとしましょう。太陽光・風力発電の平均稼働率は16%ですから、実際には100%分の電力を作らないと、必要な電力量を安定確保できないという計算になります。

太陽光・風力の発電量は自然条件によって変動しますから、たとえば風が吹いて太陽が照りまくったときには、日本中が1日に使う電力100%分を、風力と太陽光だけで作り出してしまう。余った電力をどうするのかという問題が発生します。

では、石油火力やLNG(液化天然ガス)など、他の発電施設で電力の需給変動を吸収する方法はどうか。電力供給が多すぎるから止めましょうと言っても、大型火力発電所は、それほど簡単には止められません。大型火力発電はそれ自体がベースロード電源であり、ベースロード電源をフォローするというような使い方ができないのです。
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蓄電池には莫大なコストがかかる

学者たちは「供給側がNAS電池(※4)で蓄えたらいい」と主張していますが、コストを計算すると15兆円かかります。一方、需要側でLi-ion(リチウムイオン)蓄電池(※5)を設置して必要なときに使うための設備にかかる費用は、45兆円です。

15兆円と45兆円、合わせて60兆円分が需給両側になければ、太陽光・風力発電の稼働率「16%」のリスクを吸収できません。稼働率16%というのはあくまで「平均」ですから、0%ということもあります。そのときのために、余分に発電した電力をとっておかねばならないのです。

日本のフィードインタリフ(※Keyword!)の1キロワットあたり42円(編集部注・2015年3月時点で37円)には、蓄電池のコストが含まれていません。この費用をプラスすれば、おそらく倍では足りないでしょう。大きな設備ですから、物理的に置く場所もないと思います。

※4:ナトリウム・硫黄電池。日本ガイシと東京電力が共同開発した大規模電力貯蔵システム。体積・質量は従来の鉛蓄電池の3分の1程度であり、大容量、長寿命が特徴。長期にわたる安定した電力供給が可能である。

※5:リチウムイオンの電極間移動により、電力を供給する充電式の蓄電システム。太陽光発電と組み合わせた設置を促進するため、経済産業省が補助金交付事業を行っている。

作りすぎた電力を「捨てる」という無駄

蓄電が難しいとなると、作りすぎた電力は棄電、捨てるしかない。

フィードインタリフは、「太陽光と風力で作った電力は必ず買い取らなければならない」という制度ですから、太陽光・風力だけで必要な電力を100%作り出し、電力会社がこれを買い取ってしまったら、他の方法で作った余剰電力は捨てなければなりません。設備も無駄なら、発電の際に排出されたCO2も無駄になります。

つまり、原子力と太陽光・風力は代替関係にないのです。安定供給を維持するために莫大なコストがかかり、現実的ではありません。

【Keyword!:フィードインタリフ】

フィードインタリフ(Feed-in Tariff)とは、再生可能エネルギーの普及を促進するため、一定期間、エネルギーの買い取り価格(タリフ)を法律で固定する制度。固定価格買い取り制度とも呼ばれる。1990年、ドイツで導入され、再生可能エネルギーが急速に普及したことをきっかけに、世界各国で採用されるようになった。

日本では、2011年に「再生可能エネルギー特別措置法」が成立。太陽光に加え、風力・地熱・水力・バイオマス発電によって作られた電力の全量を買い取ることを、電気事業者に義務付けた。

事業者が電力を買い取るための費用は、「賦課金」として電気料金に上乗せされる。このため、再生可能エネルギーの普及と共に国民の負担が大きくなる可能性が指摘され、経済産業大臣の諮問機関が議論を始めていた矢先、太陽光発電の「送電」に関する問題が浮上した。

2014年、北海道、東北、四国、九州、沖縄の各電力会社は、太陽光発電の申請が急増し、受け入れを続けると電力の安定供給に支障をきたすおそれがあるとして、大規模な太陽光発電の新規受け入れを中止した。太陽光によって作られた電力が供給過剰に陥ると、現在整備されている送電線の限界を超え、大規模な停電が起こる危険性もあるためだ。

これを受けて資源エネルギー庁は、2015年1月、再生可能エネルギー特別措置法の一部を改正。電力の需給状況によって太陽光発電設備の出力を制御する必要が生じた場合、出力を制御できる発電設備の範囲・時間が広がった。

(大前研一向研会定例勉強会『日本のエネルギー問題(2013.2)』を基にgood.book編集部にて編集・収録)

次回、「Chapter 2:発電方式の特性を見きわめ、ベストミックスを見出す」に続く。

※本連載は毎週月曜日に掲載予定です。

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