2024/4/3

【森永卓郎】脱・資本主義の奴隷。人生後半戦、豊かに“生ききる”には

NewsPicks+d コンテンツプロデューサー
2023年11月にすい臓がんステージ4の告知を受け(その後「原発不明がん」と診断)、「もう桜は見られないだろう」と医師から余命宣告を受けた、経済アナリストの森永卓郎さん

告知の瞬間に頭をよぎったのは、当時執筆中だった書籍のこと。抗がん剤が合わず一時期は生死の境をさまよいながら、命懸けで完成させたのが『書いてはいけない──日本経済墜落の真相』(三五館シンシャ)です。

なぜ日本経済は低迷してしまったのか。増税路線が続くなか、人生を豊かにするにはどうすればいいのか。そして、日本の転落を復活に転じさせるにはどうすればいいのか。

森永さんから、人生後半戦を生き抜くビジネスパーソンへのメッセージをお届けします。
INDEX
  • 日本経済を失墜させているもの
  • 日本の借金は実質的にない
  • 日本がアメリカに全面服従した理由
  • ビジネスパーソンは“お金中毒”になっている
  • 経済が転落した国で「お金がなくても豊か」は成り立たない

日本経済を失墜させているもの

経済転落で貧しい国になるか、それとも経済復活を遂げて豊かな国になるか。日本は今、そんな分岐点にあります。
このままいくと、10年以内に日本のGDPは世界ベスト10から外れ、最終的にはミャンマーやカンボジアのような経済状況になってしまうでしょう。加えて、財務省は増税・税負担を続けていますから、稼いだお金の7〜8割を持っていかれる社会が目前にきています。
じゃあ、日本が大復活するにはどうすればいいのか。その鍵は「財務省の問題」と「日航123便の墜落」という2つのタブーにあります。なぜならば、これらが日本経済の失墜に大きな影響を与えていると考えるからです。
その理由を説明しましょう。
1980年代半ば、日本経済はピークを迎え、世界GDPに占める日本の割合は18%に達しました。ところが今は4%と、日本経済は30年あまりで4分の1以下に墜落してしまった。世界を見ても、そんなことが起きているのは日本だけです。
ここには2つの原因があると考えられます。一つは、財務省が必要以上の財政緊縮、国民負担増をやったこと。もう一つは、1980年代を契機に、日本がアメリカに全面服従したことです。40年間経済の研究をしてきて、これはもう間違いないと思っています。
Ralf Hahn / GettyImges

日本の借金は実質的にない

なぜそんなことが起きたのでしょうか。
まず、1つ目の原因である財政緊縮、国民負担増。これは1980年代に当時の大蔵省が「財政再建元年」と言い出し、財政支出をカットし始めたことが起点となっています。
特に社会保障の削減は半端じゃありません。来年度予算でも、とんでもない額がカットされようとしています。
同時に、財務省は国民負担増を押し付けていきました。私が社会に出た1980年、国民所得全体に占める税・社会保障負担の比率は3割でしたが、今や48%台です。稼いだ額の約5割が国に持っていかれる社会に変わってしまった。
本来、経済が成長すれば税収は増えます。それなのに財務省は消費税の引き上げをはじめとした増税策ばかりを示している。その理由を財務省はこう説明してきました。
「日本の財政は世界最悪の借金を抱え、首が回らない状態にある。これ以上赤字が出たらハイパーインフレが起き、国債と円は暴落し、日本経済は大転落を起こしてしまう。だから増税が必要である」
ところが、2020年度に基礎的財政収支の赤字を80兆円も出したにもかかわらず、財務省が言うようなことは全く起こらなかった。
それに日本の借金は確かに多いですが、実は借金をすべて預金しているような構造になっています。詳しい説明は『書いてはいけない』をご覧いただければと思いますが、実は日本の財政は世界でもトップクラスの健全性であり、実質的に借金なんてないのです。
hamzaturkkol / GettyImges
そういう状態にもかかわらず増税をする理由は、財務省の体制にあります。財務省では増税を「勝ち」、減税を「負け」と表現し、増税や社会保険料の引き上げが評価のポイントになる。
それによって財務官僚は出世し、良い天下りポストを与えられる仕組みです。つまり国民を苦しめるほど、出世する組織になっている。
こうした実態は多くの人が知るところですが、大きな声で言うと税務調査が入り、とてつもない追徴金を取られます。その額は人によっては数千万円にもなり、下手をすれば破産。あらゆる経路を通じて仕事を干される可能性もあるのが現実です。

日本がアメリカに全面服従した理由

続いて、日本経済が失墜した2つ目の原因であるアメリカへの全面服従。ここにはもう一つのタブーである「日航123便撃墜事件」(なぜ事故ではなく事件なのかは『書いてはいけない』にて)が絡んでいると考えています。
1985年8月12日に起きた日航123便の事件では、当初から数々の不審な点が指摘されてきました。
数々の資料や証言を調べた結果、日本は日航123便の事件の“隠された真実”をめぐってアメリカに借りをつくり、いいなりになってしまったのではないか──という考えに至りました。
そう考えると、その後の日本とアメリカの間に起きた数々のあり得ない政策決定に説明がつくのです。
当時を振り返ると、この事件を機に日本経済の潮目は大きく変わったといえます。
41日後のプラザ合意により急激な円高が起き、約2年後には1ドル240円から120円台になりました。
これはすべての輸出商品に100%の関税をかけるのと同じ効果を持ちますから、自動車メーカーをはじめ日本の製造業は一気に転落します。
magnez2 / GettyImges
プラザ合意の翌年には日米半導体協定が結ばれ、5割あった日本の半導体の世界シェアは今や1割まで下がりました。
その後の日米構造問題協議では、当時シンクタンクで門前の小僧として資料作成や運搬をしていた私に、アメリカ側の小僧はこう言いました。「日米交渉のはずなのに、なぜ日本は全部アメリカの言いなりになっているの?」と。実際、全面服従でした。
小泉内閣が行った郵政民営化も、実は年次改革要望書でのアメリカの要求から始まっています。この年次改革要望書は“デスノート”のようなもので、アメリカが日本に望むことは、ここに書くだけでなぜかすべて実現してしまう。
こうしてどんどん日本は対米完全服従隷属になっていきました。これらはすべて、この事件の処理をめぐるツケなのではないでしょうか。

ビジネスパーソンは“お金中毒”になっている

今の日本は独立国ではなく、アメリカの植民地への道を真っすぐに進んでいる。その結果、経済がどんどん転落しているのは、冒頭でお話しした通りです。
私は増税が続く今の日本で、定年後に豊かな生活を送るベストな方法は、住民税非課税世帯になることではないかと思っています。
どれだけ税率が上がっても税金を取られることはなく、さまざまな給付を得られ、社会保険料は大幅に減り、社会保障を使うときの自己負担は小さくなりますから。
家族構成など条件はさておき、住民税非課税世帯の年収は100万円台です。
私はコロナを機に所沢のはずれの自宅で社会実験をしましたが、30坪の農地があれば家族が食べるくらいの野菜は十分作れ、太陽光パネルでの発電も併用すれば、月10万円もあれば十分暮らせます。
実際、都心を離れ、自然の中で暮らす豊かさもあるんですよ。
田舎すぎると人間関係の濃密さが負担になることもありますが、都会と田舎の中間「トカイナカ」であれば、ちょうどよい人との距離感を保ちながら、近所の人から野菜のお裾分けをもらうなど程よく交流もできます。
それに、やりたくもない仕事を歯を食いしばってやるよりも、お金にならない楽しい仕事で年100万円くらい稼いで暮らしたほうが幸せじゃないですか。
私は博物館、童話作家、歌手、おもちゃ評論家、ミニカーの連載など、これまで好きなことをたくさんやってきました。会社の肩書は退職すればなくなるけれど、趣味の承認欲求は死ぬまで続きます。お金持ちになりたいとも思いませんから、とても満足しています。
こういった生活スタイルに抵抗を感じる人は、お金中毒になっているのだと思いますよ。他人と比較し、収入や肩書でしか自分の価値をはかれなくなっているのではないでしょうか。
そんなビジネスパーソンには、リハビリが必要です。そのためには、定年を迎える前、会社で窓際になったあたりで、都会の生活と田舎の生活の両方を並行して走らせるのがいいでしょうね。
maroke / GettyImges
田舎に行くほど人間関係が濃くなり、定年になってから溶け込むのもしんどいですから。

経済が転落した国で「お金がなくても豊か」は成り立たない

ただ、私は決して貧乏が好きなわけではありません。
およそ30年前、調査のためベトナムに長期滞在した際、予算の都合もあり道端のお店でごはんを買っていました。
おかずが入った洗面器が並んでいて、そこにはハエが山のようにたかっていた。それを毎日食べながら、「こういう生活は嫌だな」と思ったのを覚えています。
冗談抜きに、このままでは日本もそのような経済状況になりかねません。私が推奨している「トカイナカ」の生活も、ある程度国が豊かでなければ趣味を楽しむ余裕もなくなり、ただの貧困生活になってしまいます。
そのような未来を回避し、日本の経済を復活させるには、財務省の問題と日航123便の墜落事故の真相を明らかにすることです。
だから私は『書いてはいけない』を世に出さずに死ぬわけにはいかなかった。月100万円以上を費やし、保険適用外の高額な治療費を支払ってでも生きながらえようとしたのは、どうしてもこれらの問題を世に問わなければいけないと思ったからです。
どうせ近い将来死んでしまうのであれば、本当のことを言って死のう。病気のおかげでそんな覚悟もできました。
繰り返しますが、今は日本の分岐点です。資本主義の奴隷から脱し、自分の価値観で豊かに人生を終えるには、国もまた豊かでなければならない。そのためにも、今こそ日本の大きなタブーを清算する時です。