2024/4/10

もう「資金調達」は“1本足打法”の時代ではない

NewsPicks Brand Design Creative Editor
 家具と家電のレンタル・サブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を運営し、これまで総額約40億円(INITIALより)の資金調達を実施してきた株式会社クラス。
 2018年の創業から事業成長にアクセルを踏み続けられたのは、同社代表の久保裕丈氏の“深謀遠慮”の経営戦略、そしてフレキシブルなファイナンススキームの構築にあった。
 特に同社のファイナンスでは、金融機関からの融資(デット)や、ベンチャーキャピタルなどからの投資(エクイティ)だけでなく、マネーフォワードケッサイ株式会社の「債権譲渡」による資金調達サービスを駆使しており、そのプロセスは慧眼だ。
 本記事では久保氏と、数々のスタートアップのファイナンスに向き合ってきたマネーフォワード ケッサイ中野綾乃氏の対談から「XaaS(SaaS、PaaSなどインターネットを通じて提供されている「as a Service」を総称したもの)」の企業が取るべき財務戦略を明らかにしていく。
INDEX
  • 好調の「クラス」の循環型サブスクシステム
  • 「XaaS」企業が考えるべき資金調達
  • 「YES」でも「NO」でも回答は早い方がいい
  • スタートアップは“1本足打法”から脱却せよ

好調の「クラス」の循環型サブスクシステム

──2018年の創業から株式会社クラスは家具や家電のレンタル・サブスク「CLAS」を運営しています。改めて事業内容を教えてください。
久保 当社は「“暮らす”を自由に、軽やかに」をビジョンに掲げ、所有によって人生の自由度を阻害してしまう「大きくて重たい物」を気軽にレンタルできるサブスクを個人と法人で提供しています。
 2023年12月の時点で、家具と家電を中心に取り扱っている商品は個人向け約2,000品目、法人向け約4,000品目。
 月額制で、1点から必要な期間だけ利用できるため、「所有しない利用」を促進し、循環型経済と脱炭素社会に貢献できることが大きな特徴です。
──近年は、物価高騰で在庫獲得も難しくなっていると推察しますが、好調を維持できている理由とは?
久保 まず、我々のビジネスは原材料費が高騰してもあまり影響を受けません。
 資産として獲得した在庫は専属の職人がリペアし、再度使い続けられるので、原価が上がっても商品の値段を上げるわけではないからです。
 むしろ、在庫が増えても稼働率が維持できれば、貸出価格を下げられる。今年1月に約19億4000万円の資金調達を実施したのも、この循環型のシステムを強固にするのが主な目的です。
 今後、取り扱う商品は新品での仕入れを減らし、半分を中古に置き換えて、順次値下げを実現していきます。
 このシステムを支える修理職人も3倍に増やし、廃棄ロス削減などのサステナビリティと低価格を両立して、利用者の裾野をさらに広げていきたいですね。
──成長とサステナブルの双方を追っていくのですね。
久保 そうですね。当社では創業以来、利益率の改善と事業成長の両立に注力しており、持続可能な成長=サステナブル・グロースに取り組んできました。
 それを実現するために、商品の仕入れ、修理、清掃、ECサイトでの販促・配送などの事業インフラを全て自社で構築しています。
 全ての情報の一元管理と連携を行い、蓄積したデータを利益率や事業効率の向上に活かしています。
 その結果、2022年から2023年の1年間で個人・法人ともに累計利用が1.5倍に増加しながらも、商品の修繕費用を63%削減、同じく配送や保管のコストを40%削減できています。

「XaaS」企業が考えるべき資金調達

──個人向け・法人向けあわせて約6,000品目の豊富な商品数が「CLAS」の魅力ですが、それだけの在庫資産を獲得するには相当な先行投資が必要だったのでは?
久保 おっしゃる通りで、一般的なXaaSの企業と同様、最初のシステム開発にコストがかかるだけでなく、CLASの場合は在庫資産を増やすための投資が必要でした。
 さらに体積や重量があるプロダクトを扱っているため、商品の管理やメンテナンスといったオペレーションにも負荷がかかります。
 ただ、先行投資の負担が大きい点が逆に競合の参入障壁になっていて、私自身も「相当な度胸がいるビジネスだな……」と思いながら会社を立ち上げました。
──当初から資金調達は予定通りに進んだのでしょうか?
久保 最初にマーケットや競合、ユーザーの分析を行ったうえで事業計画を立てた結果、大きなポテンシャルがあるビジネスだと分かりました。
 ただ、安定して黒字になるまでには数十億の先行投資が必要。それが「言うは易し、行うは難し」で。
 今でこそ大企業も、我々のような「PaaS(Product as a Service)」に参入していますが、当時はそんなサービスはなく、資金調達は想像以上に苦労しました。
 一方で、我々の事業計画や市場の可能性を信じてくださるベンチャーキャピタルもいたので、創業時は何とか投資を受けてWebサイトや在庫を準備してサービスを開始できました。
 しかし、ウクライナの紛争を機にインフレが起きて、米国の金利が一気に上昇。
 グロース株に対しての投資が一気に冷え込み、実際にエクイティファイナンスを用いた資金調達が難しくなりました。スタートアップの「冬の時代」に突入したんです。
──実際に2023年の国内スタートアップの資金調達額は、過去最高だった2022年を下回り、2021年より低い水準となりました。
久保 我々のようなスタートアップの経営者にとって、ダウンラウンドによるIPO(新規上場)はできれば避けたい。これは最終手段です。
 それを回避するためにも、エクイティファイナンス、デットファイナンス、アセットファイナンスなど、やれることを全方位で模索しました。
 ただそんな状況下でも、ポジティブな側面もあったんです。
 その1つ目が「スタートアップのファイナンススキームの多様化」。
 近年は、スタートアップ向けの資金調達を伴走してくれるプレイヤーが増えています。我々が活用したマネーフォワードケッサイの「債権譲渡」による「マネーフォワード トランザクションファイナンス for Startups」もそう。
 2つ目が、マーケットが「量よりも質」を重視しはじめたこと。かつては、最初に赤字を掘り続けて短期間で急成長を目指す「Jカーブ」が基本的な戦い方でしたが、通用しなくなってきた。
 一方で我々は「サステナブル・グロース」を目指して事業運営を重視してきたので、ROIの低いコストはどんどん抑えられた。
 つまり、資金調達の手段を増やすことと、不要不急のコストを抑えることの2軸でランウェイ(キャッシュ不足に陥るまでの残存期間)を延ばしてきたわけです。
──久保さんは今年1月の資金調達において、マネーフォワードケッサイの「債権譲渡」による「マネーフォワード トランザクションファイナンス for Startups」を実行しましたよね。
久保 私は、エクイティファイナンスだけでなく、メジャーな資金調達の手法であるデットファイナンスも実はハードルが高いと考えています。
 エクイティファイナンスは、調達コストや時間がどうしてもかかる。
 デットファイナンスは一定の黒字が出ていることが大前提ですし、仮に借り入れの枠をいただけても財務制限条項があったりする。
 そう考えると、今後はアセットファイナンスの規模をもっと増やしていく必要がありますよね。
 必要な時に、必要な額が借りられる機動性の高さが魅力で、過剰な資金の調達によって発生する資本コストを抑えられますし。
 特に、我々のような継続収益が得られるXaaSの企業であれば、将来的な売上を資産として審査してもらうアセットファイナンスは理想的な手法です。
 マネーフォワードケッサイの「マネーフォワード トランザクションファイナンス for Startups」はまさに、それに適合したものでした。
 しかし、将来の売上に不透明な部分があるのもXaaS系の弱点。ユーザーを長期的な契約で縛っているサービスは少ないと思いますし、解約や返品を自由にできるケースだと会員数が減るときもある。
 それが実際の審査でハードルのひとつになる可能性もあります。

「YES」でも「NO」でも回答は早い方がいい

──改めて、スタートアップ向けのアセットファイナンスである「マネーフォワード トランザクションファイナンス for Startups」について教えていただけますか?
中野 我々のサービスは、スタートアップが持っている「売掛債権」を譲渡していただき、早期に資金化できるサービスです。
 手数料率は業界最低水準の0.5%/月からで、審査通過後は最短で翌営業日に資金化が可能。
 大型の資金調達を控えている“谷間”の時期に、事業成長スピードを落とさないための資金調達としてご利用いただくケースが多いです。
 決算期の前にバランスシートに負債が増えない形で資金が手もとに入ることも、スタートアップの経営者の方々にはメリットとして捉えていただいています。
 先ほど久保さんには、XaaS系企業の懸念点として「ユーザーが解約するリスク」について挙げていただいきましたが、実際の我々の審査では「0か1か」のような見方はしておりません。
 サービスにもよると思いますが、仮に会員が100名いた場合に、一気に100名全員が解約するというのは現実的には起こりえないと考えています。
 こちらを検証する際には、これまでの解約率の推移などの「定量面」の分析のほか、ユーザーからの評価や競合他社への優位性などの「定性面」も勘案した実態の解約率を試算したうえで、総合的に審査判断しております。
 むしろ、XaaS系のビジネスだとこのようなロジックで審査ができるので、我々も判断がしやすいんです。
久保 とはいえ、今までの実績をベースに資金化してくださるのは珍しい。ユーザーを年間契約で縛っていないと、将来の売上として認められないケースが多いので。
中野 私ももともと銀行員ですが、これまでの伝統的な資金調達方法の審査を行う場合には、そういった判断にならざるを得ないのかもしれません。
 それに対して、我々はスタートアップ企業の実態や事業性、将来性を総合的に判断し、ご支援させていただく体制が整っております。
久保 なるほど。個人的には、その圧倒的なスピードに驚いた印象があります。
 最初に相談をしてから、2週間ほどで資金を受け取れましたし、改めて活用させていただいたときの意思決定の早さも驚異的でした。
中野 エクイティやデットは、資金調達環境の変化や検討期間が長くなるトレンドがあるため、スタートアップの経営者には資金調達をする際に一番悩ましい部分かと思います。
 また、提出書類が多かったり、結論が出たりするまでのラリーも多く突発的な資金ニーズに対応しにくい側面がありました。
 また、金融機関からの調達は対面での説明やメールでのやりとりを重ねることが多いのですが、我々はいただいた審査書類に疑問があれば、フェイスブックのメッセンジャーなどでCFOに直接問い合わせを行うのでラリーが瞬時に進み、審査スピードが速まります。
 スタートアップにとっては手元にある資金が事業成長の命綱になるので、最短で3営業日で回答を出しています。
──とはいえ、意思決定が早くても審査が通りやすいわけではないですよね。
中野 もちろん難しいケースもあります。
 エクイティ調達までのブリッジで使っていただくケースが多いのですが、経営者の方がダウンラウンドを検討されている場合は実際に得られる資金が予測しにくい部分がありますから。
 ただ、そういった悩ましいケースでも素早く意思決定するため、担当者が日頃からお客様の事業を深く理解できるよう努めています。
 私も一人のユーザーとして「CLAS」を使わせてもらっていますし、商品のクオリティの高さやメンテナンスの技術に圧倒されました。中古品を使うという感覚ではなく、新品を常に使ってレンタルできるという感覚です。
 独自の強みや競合他社さんとの違いを知っているからこそ、財務諸表の数字に縛られない判断がしやすくなります。
久保 「YES」にせよ「NO」にせよ、回答のスピードが速いのは本当に助かります。
 一番辛いのは、あらゆる資料を提出しながら半年近くコミュニケーションを重ねても、最終的に「NO」が出るケース。
 実は、そんなケースが少なくないんです。その瞬間の徒労感たるや、半日ぐらい仕事ができなくなるくらいのダメージです(笑)
中野 当サービスの手数料に関してはどんな印象をお持ちになりましたか?
久保 スピードが速い分、融資よりは高いと思いますが、トゥーマッチではないと思っています。
 最近はベンチャーデットだと10%以上のケースもありますし、アップフロントフィーが発生するときもある。
 調達コストはどんどん上がっています。その中で「マネーフォワード トランザクションファイナンス for Startups」のスキームは、手間が省ける点を含めて考えると妥当と考えています。

スタートアップは“1本足打法”から脱却せよ

──今、資金調達に苦戦しているスタートアップに向けて、久保さんから伝えたいことはありますか?
久保 まず、ワーストケースは常に見据えておくべきですよね。
 今後も資金調達の環境が劇的に良くなることは、正直期待できない。私は想像を下回る現実を想定しておくのが、スタートアップ経営だと思っています。
 だからこそ、できる限り幅広い手段を模索しておきたい。マネーフォワードケッサイさんも頼れる存在ですが“駆け込み寺”ではないので、手遅れになる前に、早めの相談がベストだと思います。
中野 検討している段階でもお声がけいただくと、我々もサポートしやすいですね。
久保 早めに動いて資金調達の手段を広げながら、同時にコストを抑えてランウェイを確保する。
 そうすると、今まで考えもしなかったマネタイズのポイントみたいなのが見つかるときもある。
 ひと昔前は、VCの方々は“1本足打法”を推奨していました。つまり「ひとつの事業にフルベットして、IPOする」と。
 でも時代は変わっていて「稼げる手段」と「コストを抑える手段」を考慮すべきだと思います。
中野 我々も、今後はスタートアップエコシステムに寄与していきたいと思っています。
「数億円規模じゃないと使えないよね?」という問い合わせをいただきますが、そんなことはありません。
 もちろんレイターの企業様は数億円のご利用も少なくないのですが、創業期のお客様に数百万円をご支援するケースもあります。幅広いシリーズのスタートアップに貢献していくために、今後サービスを拡張させていく予定です。
久保 新サービスが登場したら、真っ先にお世話になるかもしれませんので、どうぞ宜しくお願いします(笑)