(ブルームバーグ): ニューヨークに本店を置く米銀シティグループの行員らは2018年5月のある夜、マンハッタンのダウンタウンにある人気レストラン「キャッチ」で顧客とパーティーをしていた。

そのうちの一人は大卒の新入行員で、2年間のローテーションプログラムで株式部門に配属され、ルームメートを連れてパーティーに参加していた。夜がふけてくると、上司の1人がルームメイトの背後に近づき、股間をこすり付けて彼女を驚かせたと、その上司を見たという2人が証言している。

数カ月後、その新入行員は男性トレーダーからスカートを短くして高いヒールを履いて出勤するように言われ、彼女の恋愛について何度も尋ねられたという。

シティのニューヨーク株式部門は、一流のヘッジファンドなどウォール街の顧客に助言し、取引を執行している。だが同部門で働いていた、あるいは同部門と近い関係にあった22人へのインタビューによると、この出来事は決して特異なことではない。根強いハラスメント(嫌がらせ)と差別があったことを示唆している。

この証言は、このような行為が22年まで続いていたと主張するマネジングディレクターが昨年起こした訴訟での主張と呼応している。この訴訟の後、同行のトレーディング責任者は、不正行為を発見した場合は報告するよう行員に注意を促した。

報復を懸念して匿名を条件にインタビューに応じた行員によれば、行内では少なくとも10年以上にわたって、行員らが公然と同僚の女性を見つめ、外見で評価し、性的征服について自慢していた。

同部門では、オフィス内でコカインを使用するなどの行為もあったという。上層部や人事部への苦情は改善につながらず、孤立した内部集団というイメージを助長し、何人かの行員を辞めさせたが、加害者とされる一部の行員はまだ残っているという。

シティでは3年前、ジェーン・フレイザー氏が米主要銀行初の女性最高経営責任者(CEO)に就任。同行は歴史に名を刻み、より公平な企業文化という多くの指標でライバルをリードした。

しかし、女性が歓迎されないと感じるような行為を抑制するために何十年も奮闘してきた金融業界の中でさえ、同行の株式トレーディング部門内での振る舞いは際立っていた。

シティの広報担当マーク・コスティリオ氏は、職場で差別やハラスメントがあってはならないと指摘。「包摂的で公平な職場のカルチャーを醸成する努力は決して止まることはなく、シティの基準を全行員に十分に理解され順守されるようにすることは、継続的かつ積極的なプロセスだ」と述べた。

シティは行員が行内の「懸念を内々に提起する手段を数多く提供しており、立証された場合には、解雇を含む適切な措置を講じている。個々の問題についてのコメントは差し控えるが、簡単に言えば、正当な理由がある場合、敬意を持って接するというわれわれの高い基準を満たさない行員を辞めさせる」と同氏は説明した。

報復を懸念

シティは債券の強さで知られているが、株式トレーディング収入でウォール街の大手5行中で最下位となって久しい。シティは株式部門の規模を公表していないが、24万人規模のグローバル業務の中では、同部門は稼げるとはいえ小規模な部類に入るだろう。

株式部門の首脳陣は約12年の間に5回も入れ替わり、この間、同部門は度重なる不祥事に見舞われた。

デリバディブ(金融派生商品)を担当するある女性トレーダーは、10年に本店近くのレストラン「ロカンダヴェルデ」で行われた顧客との夕食会で、同僚がテーブルの下に手を入れ、彼女の足に手を置いたことを思い出した。またその頃、リサーチアナリストの1人から「なぜもっとセクシーな靴を履かないのか」と聞かれたという。

彼女は人事部や上級管理職にその両方について話し、醜いカルチャーがまん延していることを説明した。コスティリオ氏は「疑惑の事件の幾つかは明らかにシティの行動規範に違反するものだが、そのうちの幾つかについては苦情の提出を確認していない。他のものは10年余り前のもので、幾つかの疑惑は根拠がないか、曖昧過ぎるか、シティを辞めた人物が関与している」と述べた。

他の2人の女性は、慎重さと忠誠心を重んじるこの業界で、報復を恐れて同僚からセクハラを受けたことを黙っていたという。デリバティブトレーダーでない6人は、職場の不正行為と思われる行為を同僚や人事部に訴えたが、シティが十分な措置を取らなかったと感じ、その結果に失望したと語った。

3人は北米全域でシティのトレーディング業務を統括していたダン・キーガン氏に別々の出来事を説明したという。そのうちの1人によると、上級行員が若い男性バンカーに彼が寝たと思われる女性の下着を見せるようけしかけられたとキーガン氏は聞かされた。22年にシティを去った同氏は、メッセージに応じなかった。その若いバンカーは解雇された。

コスティリオ氏は「その事件に関与した人物は調査の結果解雇され、問題をエスカレートさせなかった直属マネジャーは懲戒処分を受けた」と語った。

「性の対象」

18年頃に新しい若い同僚らが入行する前、行員らは入行予定者の写真を含む書類を回覧。それを見た1人と、当時そのことを聞いた他の2人によると、行員らは新人たちの魅力を見定め、お気に入りについて公然と話し合っていた。昨年11月にマネジングディレクターのアーディス・リンゼイ氏が起こした訴訟にも同様の記述があった。

ウォール街の女性幹部でもセクハラ被害か、語られ始めた業界の暗部

株式部門が業績不振に対応し続ける中、ファテル・ベルバシール氏が同部門のチーフとして20年に採用された。それでも問題は続いた。21年は好調だったが、22年になるとロンドン支店での入力ミスが欧州株のフラッシュクラッシュを引き起こし、フレイザーCEOとベルバシール氏は打撃を受けた。

リンゼイ氏は訴訟で、ベルバシール氏は女性を無視し、性的な征服について話し合うことで絆を深めていた男性管理職グループの中にいたと主張した。コスティリオ氏は「ベルバシール氏に関する言及は、シティが強く争っている訴訟における根拠のない主張に基づいている」と述べた。

リンゼイ氏にはそうした男性管理職の1人がマニ・シン氏であり、リンゼイ氏に交際を強要し、彼女と彼女の子供たちを脅した幹部であったと訴えている。

コスティリオ氏は「数年前、2人の間の大きな金銭取引について質問されたとき、リンゼイ氏はシン氏のことをただの友人だと言っていた」と説明。リンゼイ氏の弁護士によれば、2人の間には権限の差があったため、そのような関係はあり得なかったという。

コスティリオ氏によると、リンゼイ氏が正式に訴えを申し立てた後、「われわれは直ちにシン氏を休職とし、調査を開始した。シン氏は調査が完了する数日前に辞任した」という。シン氏はコメント要請に応じなかった。

リンゼイ氏の訴状には、男性がどの女性と関係を持ちたいかを語り、女性を 「性の対象」として扱う環境が指摘されていた。

同氏の訴えが提出された後、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、同部門で働いたことのある5人の女性が、19年にトレーディングフロアを歩いているときに男性からジロジロ見られたという同じような経験を語っている。

3人は、自分たちに対するシン氏の行動にも動揺したと述べた。 また、ある若手の男性行員は1人の女性の前にクレジットカードを落とし、食べ物を調達してくるよう要求してきたという。

コカイン

暗いエピソードが、株式部門が内輪を守っているという感覚を助長した。ある男性トップトレーダーが子どもを車に乗せて飲酒運転した罪を認めたとき、シティがこの男性の資格を無効にしないよう規制当局に要請したことが、業界の記録に残っている。

資産家スティーブ・コーエン氏のヘッジファンドを含むトップ顧客の担当から、現在もシティで働くこのトレーダーが外れることはなかったと、5人の同僚が語った。

ウォール街でバンカーやトレーダーが薬物を使用することは以前からあったが、このグループにおける薬物の広がりは、他行で働いたことのある行員にとっては目に余るものだった。マンハッタン本店で、またシティ以外で同僚や顧客とバンカーがコカインをやっているのを見たことがあると3人が証言している。

このチームの女性メンバーの1人は、16年頃にトレーディングフロアに鼻と唇の間に白い残留物がある同僚がいたため、それを拭き取るよう勧めたと打ち明けた。

シティは最近、不適切な行動を取り締まる措置を講じている。先月、投資銀行のディールメーカーに対し、顧客イベントでの飲酒を控えるよう指示した。株式資本市場グループのシニアディールメーカーの1人は、口論となった若手バンカーへの言葉遣いを調査され、今年に入り休職に追い込まれた。

シティ、NYのディールメーカーを休職処分-若手への言葉遣いを調査

新人時代にキャッチでのパーティーに参加し、スカートを短くするように言われた女性行員は、サリマ・ハビブ氏のもとに行き、マネジャーに伝えないといけないと同氏から言われたことを思い出した。

ハビブ氏はまた、人事に直接報告することも選択肢の一つだが、それは多大な努力を要することであること、あるいはその男性と直接対峙(たいじ)してみることも可能だとのアドバイスもしてくれたという。

シティの広報担当は「匿名の情報筋が言うところのハビブ氏が語ったとされるコメントは誤って表現されたものであり、キャリアを通じて女性を支援し、女性に力を与えてきた彼女の実績とは一致しない」と述べた。

この女性行員は、米国での株式部門営業担当として最近昇進したハビブ氏が、瞑想(めいそう)してはどうかと彼女に勧めたことも覚えている。

原題:Harassment and Drugs Plagued a Citigroup Division for Years (1) (抜粋)

--取材協力:Stephanie Davidson、Jennifer Surane、Todd Gillespie.

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