2024/3/29

【ベネッセ】女性が多い企業は「役職の壁」をどう越えるか?

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 創業時より女性活躍に注力してきたベネッセホールディングス。2022年4月にダイバーシティ推進部を設置し、グループ内の女性をはじめ多様な人材の活躍推進にドライブをかけている。
 なかでも注目されるのが、女性の意欲を高めるメンタリングの活用や、専門性を評価に反映する「マジ神制度」など、独自性のある施策だ。
 そんなベネッセグループの創業時からのカルチャーと現在のDE&I施策について、ダイバーシティ推進部の服部奈美子氏、藤本隆司氏にインタビューした。

創業時から根づく女性活躍のカルチャー

──ベネッセホールディングスでは1955年の創業期から、女性の力を活用し事業を成長させてきたそうですね。
服部 男女雇用機会均等法が施行される前の1981年、創業者の福武哲彦が社内の朝礼で「(当時の)事業が伸びたのは女性社員の力によるところが大きい。これからも女性社員を重要視していくし、戦力として採用していこうと思っている」というメッセージを残しています。
このトップの強い意思が企業カルチャーとして根づいているのがベネッセグループです。
 ですので、企業体としては性別関係なく活躍するのは当たり前で、多様なロールモデルが存在しています。
 各レイヤーにおける女性リーダーの比率も、課長と部長は3割を超えています。
 ただ、本部長や役員クラスになるとその割合は下がります。よく「部長の壁」と言われますが、ベネッセでは部長のその先が課題となっています。
──どの企業でも課題とされる「役員や管理職の壁」ですね。御社の場合は具体的にどういった課題感で、どのような対策を講じているのでしょう。
服部 主な課題は2つあると感じています。事業によって女性管理職の人数や割合に凸凹があるということ。もうひとつが、女性自身の管理職に対するマインドセットです。
 これらの解決策のひとつになり得るのが、社外メンターとの出会いを生むメンタリングサービスです。
 企業という枠組みを超えて、他会社の女性リーダーとのマッチングを提供することで、多くの先輩のキャリアストーリーに触れ、メンティ(メンタリングを受ける人)の少しだけ先のキャリアを歩む人と出会い、その考えを学ぶ機会をつくります。
 こういった仕組みを活用すると、会社側としては、社外の人間とつながることによる「退職リスク」に不安を感じるかもしれません。
 しかし、実はその逆で、メンタリングを行うことによって優秀な人材を社内にとどめることにつながるデータが出ています。
 転職につながるというより、自分を見つめ直し、強みをどう生かすかを考える場になっているんです。
 女性活躍推進においては、上の世代の女性の働き方を見て「自分はあのようにはなれない」という声を多く聞きます。
 しかし、他会社の複数の先輩のキャリアストーリーに触れることで「それであれば、自分もできるかもしれない」という点が見えてきて、自己効力感が醸成され、管理職になる意欲が高まっていくのだと思います。
㈱ベネッセコーポレーションのメンタリングサービス「withbatons(2024年6月リリース予定)」
https://mentoring.benesse.co.jp/withbatons/

「パーツモデル」で女性の世代間ギャップを埋める

藤本 このようなメンタリングのサービスは、いずれ性別関係なく利用できるものになればと思います。管理職になることへの不安や戸惑いは、女性だけではないですから。
 もちろん、女性には同じ不安に加え、出産・育児などのライフイベントが絡む場合があるので、さらに難しい部分があります。
 ワークライフバランス全体を通じた多面的な不安も、このようなサービスを活用することで、同じような悩みと向き合った経験がある社外の人たちと話してもらい、心強さを感じてもらえたらと思っています。
──御社は女性社員が多いですが、同じジェンダーであってもジェネレーションのギャップが課題になることも往々にしてあります。御社における「女性の世代間ギャップ」の現状についてお伺いできますか。
藤本 若い世代からは「仕事を優先して働いてきた世代と同じようには働きたくない」だったり、そういった負担感を察し「管理職にはなりたくない」という声が多く聞かれます。
 しかしこれは、女性だけに限りません。若い世代になるほど、男女共にワークライフバランスを重視するという価値観が顕著に現れています。
服部 そういった世代間ギャップを解決する際に重要なのが「パーツモデル」という考え方です。
 誰かひとりのロールモデルではなく、いろいろな先輩のパーツを組み合わせることで自分にとってのありたい姿が見いだされますし、世代ごとの画一的なイメージを分解できます。
 また、ひとりの人間にもいろいろな面があることを発信して共有したり、交流できる場を増やすのも大切ですね。
 例えば、育休を取るイメージがなかった男性の営業リーダーが育休をとったりすると、「育休取得していいんだ」「じゃあ、自分も」と後に続く人が出てきます。
 意識の隙間を埋めるには、制度だけではなく、情報流通や交流によるコミュニケーションを充実させることも必要だと感じています。

世代間ギャップを事業成長の阻害要因にしない

── 世代間ギャップの課題が表出されるのが「育休」です。ある調査*によると、男性の育休取得に関して、上司と部下世代で理想とする育休取得期間に大きな差がありました。
 上司世代は、男性育休取得は「1週間」を理想とする回答が最も多かったのですが、育休取得希望の部下世代は「1ヵ月」と回答する人が33.8%と最も多い回答でした。
 御社においては、こうした育休取得における世代の差を感じることはありますか。また、育休取得推進に対してどういった施策を展開していますか。
服部 グループ内で教育と介護というコアとなる事業をおこなっているベネッセコーポレーションとベネッセスタイルケアで集計した育休取得率が約56%で、これも部門によってばらつきがあるのが現状です。
 これまで以上に男性育休取得を増やして当たり前とすること、上司や上の世代の理解を深めること。これらが世代間ギャップを埋めるのには必要になります。
藤本 今回、多くの男性社員にもヒアリングをしたんですが、20〜30代の男性社員の育児参加への意識の高さには驚かされました。
 おっしゃったようなデータと同じく、私を含む40代以上の世代と、20~30代の男性社員との世代間ギャップが大きくあるように感じています。
 このギャップを埋めていくのも、我々のミッションです。
 これまで男性同士でキャリアや子育ての話をする機会もほとんどなかったので、そういう交流の場をつくってほしいという声にも応えていきたいですね。
──世代間ギャップを埋めるために、上の世代に対してはどのようなアプローチをしていくのでしょうか。
服部 まず、ギャップがあること自体は、自然なことです。そのギャップが事業成長の阻害要因になるのであれば、課題として認識する必要があります。
 ギャップを埋める施策は、現状、具体に落とし込めていませんが、自らのアンコンシャスバイアスに気づいてもらうことがキーポイントになると考えています。
 例えば、従来の弱みを克服するマネジメントではなく、もっと個々の強みを伸ばし成長させることにフォーカスするマネジメントの方が、いい結果につながると考えます。
 若い世代は、個人としての成長意欲が強く、会社のためなら何でも「Yes」というわけではありません。その感覚は一見すると上の世代と異なる部分かもしれませんが、個人の成長は会社の成長の源でもあるため、ベクトルがずれているというわけでもない。
 これは、ベネッセのグループパーパスに含まれている「誰もが、一生成長できる。」という言葉にも通じています。
 会社の中の仕組みとその運用において、整合性をとっていくことで「ネガティブなギャップ」にしないことが大切だと考えます。
 個々の強みを伸ばし、ジェンダーに関わらず力を発揮してもらうためには、男性の育休取得促進も、重要な施策のひとつだと思います。

男性視点に偏らない組織づくりの重要性

──たしかに配慮や現場任せにしていると、「できる人がやる」から抜け出せませんよね。
服部 男性のマネージャーがメインの部門では、「子育てが大変そうだから」という男性の良かれと思っての「行き過ぎた配慮」が、女性の役割を小さくしてしまう現象に陥りがちです。
 ダイバーシティには、「必要な配慮」と「取り除くべき配慮」が存在します。
 LGBTQや障がい者への配慮など、これまで足りていなかった「必要な配慮」はあります。
一方で女性には「小さい子どもがいるから責任のある仕事を任せないほうがいいのでは」というような、本人に確認せずに外から見たわかりやすい情報だけで判断されてしまう「行き過ぎた配慮」を取り除いていくことが重要です。
──そういったさまざまなギャップを事業成長の阻害要因にしない。そのための成長ドライブとしてのダイバーシティ推進部ですね。
藤本 「ダイバーシティ推進部がある」という、その存在そのものが、経営トップのメッセージであり、会社の意思表明でもあると捉えています。
 それを具現化していくために、さまざまな取り組みを加速させていきます。
 まず2024年は多様なキャリアや価値観を生かし、今まで以上に互いを認め合えるようなインナーコミュニケーションの充実を図っていきたいと思っています。
 また、現場の社員が、ダイバーシティインクルージョンが進んでいることをより実感できる1年にしていきたいと考えています。

管理職だけが答えではない。「マジ神」制度

──ダイバーシティ推進部としてさまざまな施策を進めるなかで、優先順位やKPIをどう考えていくかも難しい点だと思います。
服部 女性の活躍推進は引き続き優先度高く進めていきます。
 すでにいくつものグループ会社で女性管理職比率3割を超えていますが、組織によって凸凹があります。
 まずは低いところの底上げをし、グループ全体で組織間のギャップ解消を重点的に取り組み、グループ内のどの会社、どの部門でも性別や社会的属性に関係なく活躍できる状態を作っていきたいですね。
 グループ会社の社長や役員の女性比率も高めていきたい部分です。
 今はまだグループ会社によってばらつきがありますが、経営の意思決定に女性が参画できているか、多様な価値観の中で経営がなされているかが、今後、より重要になってくるポイントです。
 また、一般社員から管理職をいきなり目指すやり方だけでなく、ひとりひとりがキャリアオーナーシップを発揮するなかで、現状と別の選択肢からマネジメント職につながっていくこともあります。
 すでにその事例として、介護事業のベネッセスタイルケアでは、「マジ神(マジカミ)制度」というのがあります。
──「マジ神」ですか?
服部 「マジ神制度」とは、専門性をわかりやすく言語化し社内資格にした制度です。「認知症ケア」「安全管理と再発防止」「介護技術」「医療連携&ACP」の4つがあり、その専門資格を取得すると資格手当も支給されます。
ベネッセスタイルケアの能力開発・研修体制より加工して作成
https://benesse-hd.disclosure.site/ja/themes/155
 管理職ではなくプロフェッショナルを目指すルートとなりますが、その資格を取得し、意思決定のマネジメントにつながっていく可能性もあると考えています。
 管理職だけが「目指すべき働き方」ではないです。プロフェッショナルとして活躍できたあかつきには、違う世界が広がりますし、結果は給与にも反映される。そんなルートがあることも、ベネッセらしさかなと思います。
 こういった事例を含め、まずは女性をキーワードにしていきますが、その後は国内のグループ会社のみならず、グローバルに多様性の領域をもっと広めた取り組みを進めていきたいと思っています。