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「どうして自分がリーダーに?」でいい

リーダーは「ミッション」を最も大切にしなければならない

2015/5/20
スターバックスコーヒージャパンの元CEO・岩田松雄氏が「リーダーシップ論」を語る。リーダーとは無縁と考えている人にこそ、伝えたいメッセージとは。数々の著書を発表してきた岩田氏のエッセンスが込められた全2回。
第1回:誰でも頑張れば「リーダー」になれる

高校から始めた野球で裏方を務めた日々

「リーダー」と聞いて皆さんは、どんなイメージをお持ちになられますか。たとえば、過去には甲子園にも出場したこともある高校の野球部キャプテン、といえば、皆さんはどんな印象でしょうか。

小学校の頃から野球ができて、どこに行ってもいつもキャプテンを務めてきて、野球以外の場でもリーダーシップを期待される。そんなイメージではないでしょうか。

実は、私は高校時代、そんな高校のキャプテンを務めていたのでした。といっても、皆さんがお持ちのイメージとは、私のそれまでがずいぶん違っていたことに、驚かれると思います。

私が野球を本格的に始めたのは、高校からでした。かなり昔に甲子園の出場経験のある進学校だったのですが、たまたま有望な選手が一学年上に入学し、かつての甲子園優勝監督がもう一度、監督として戻って来ました。そこで待っていたのは、厳しい練習でした。

中学には野球部がなく、私は本格的な野球の未経験者です。同級生には、入学してすぐに上級生と一緒にプレーするような人間もいました。しかし、私はずっと球拾いをしたり、ブルペンキャッチャーを務めたりと、裏方ばかり。

2年生になっても、それは変わりませんでした。上級生のいない二軍の試合にも、私は出場できませんでした。それでも、私は練習を一生懸命にやっていました。野球が好きでたまらなかったし、それがやるべきことだと思っていたからです。

あの人を主将に──後輩たちが推してくれた

3年生になって、自分たちの代の新チームがつくられることになりました。まず行われたのが、キャプテン選びです。私は当然、1年の時から上級生に混じって活躍していたエースや中心選手がなるものだとばかり思っていました。

ところが、監督がキャプテンの名前を発表すると、本当に驚いてしまいました。いきなり私の名前が呼ばれたからです。同級生の誰もが、驚いていたと思います。思ってもみない人選でした。

野球は高校から本格的に始めて、目立った活躍もしていない。試合にも出ていない。二軍戦でさえも出させてもらえない。そんな私に、どうしてキャプテンが命じられたのか? 後でコーチに聞いてわかりました。下級生の新2年生が、「岩田先輩をキャプテンにしてほしい」と強く推薦したと言うのです。

リーダーシップのイメージを変えよ

小さい頃、私はやんちゃで、どちらかというとわがままで人に嫌われていた気がします。リーダーシップを発揮している友達に憧れる普通の子どもでした。

後に社会に出てからも、自らリーダーシップを発揮しようなどと意識したことはありません。みんなのために今、何をするべきか。それを考えて行動していたら、自然とリーダー的な役割をしていることが増えていったのです。

いつの間にか、組織のリーダーまで命じられるようになっていった。その繰り返しでした。子どもの頃の私を知る人は、私が3社で社長を経験したなど、信じられないだろうと思います。

だからこそ、私が皆さんに強調しておきたいのは、リーダーシップというのは生まれつきのものなどでは決してない、ということです。誰でもリーダーになれる素質を持っているのです。

私が強調しておきたいのは、リーダーシップのイメージを変えてほしい、ということです。リーダーシップといえば、多くの人がイメージするのが「オレについてこい」というカリスマ的な力で、グイグイ人を引っ張っていくというものではないでしょうか。強いリーダー、一歩前に出るリーダーでなければいけない、と。

実際、一国のリーダーにしても、企業のリーダーにしても、そうしたカリスマ的な輝きでリーダーシップを発揮する人も確かにいます。しかし、それだけがリーダーシップでは決してないということです。

岩田松雄(いわた・まつお) 日産自動車、外資系コンサルティング会社を経て、日本コカ・コーラ、タカラで役員を歴任。アトラス、イオンフォレスト、スターバックスのCEOとして業績回復。専門経営者としての確固たる実績をあげてきた。現在リーダーシップコンサルティングを立ち上げ、次世代リーダー育成に注力している。UCLAより卒業生100人に選ばれる。

岩田松雄(いわた・まつお)
日産自動車、外資系コンサルティング会社を経て、日本コカ・コーラ、タカラで役員を歴任。アトラス、イオンフォレスト、スターバックスのCEOとして業績回復。専門経営者としての確固たる実績をあげてきた。現在リーダーシップコンサルティングを立ち上げ、次世代リーダー育成に注力している。UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人から、「100 Inspirational Alumni」(日本人でわずか4名)に選出される

会社の目的は「ミッションの実現」

続いて、リーダーと会社のミッションとの関係についてお話したいと思います。

会社の目的は「利益を上げること」だといわれます。確かに利益は重要です。しかし、利益はその会社のミッションを実現するための手段にすぎないのです。会社が提供する商品やサービスを通じて、世の中を良くしていくこと(すなわちミッションの実現)が企業の目的です。

またそのミッションが世の中に支持されなければ、利益を上げることはできません。会社が世の中に認められ、存続していくために必要なのがミッションです。ミッションは経営理念、社是・社訓などとも呼ばれますが、その会社の「存在理由」のことです。

私がスタ−バックスのCEOを引き受けた大きな理由は、そのミッションに共感したからでした。ヘッドハンティング会社からお話があった時、スターバックスを世界的な企業に育て上げた経営者、ハワード・シュルツが書いた『スターバックス成功物語』(日経BP社)を読み、人を大切にする会社だと強く感じました。

人々の心を豊かで活力あるものにするために

ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから

これがスターバックスのミッションです。スターバックスでは、CEOからアルバイトまで、お互いを「パートナー」と呼び合います。各店のパートナーたちが、心を込めておいしいコーヒーをいれ、ゆったりとくつろげるサービスを提供することによって、ミッションを実現しようとし、結果として大きな売り上げを達成しているのです。

ミッションが行動を決める

スターバックスには、コーヒーのいれ方や掃除の仕方などのオペレーションマニュアルはありますが、細かなサービスマニュアルはありません。パートナーたちは、どうすればミッションを達成できるかを自分で考え、行動に移しています。

あるお店で、こんな出来事がありました。お店の前で交通事故が起きたのです。お店の窓越しに、ドライバーの女性が慌てふためいている様子が見て取れました。女性は警察に電話し、震えながら到着を待っていました。

それに気付いたアルバイトのパートナーがお店を飛び出し、事故を起こした女性に向かって、「どうぞこれを飲んで心を落ち着けてください」と、笑顔で一杯のコーヒーを差し出しました。後日、その女性からお礼状が届きました。

お店のお客さまでもない人に、無料でコーヒーを差し出したアルバイトの行動を知った私は、ミッションに沿ったスターバックスらしい行動だと感動しました。

こうした例は、いくつもあります。すべてのパートナーを教育し、ミッションを浸透させていることが、このように素晴らしい行動につながったのです。

なぜミッションが大切なのか。その理由は、次の4つに集約されます。

1:世の中は常に変化し、想定外のことが起こります。すべてのケースを事前に想定してマニュアルをつくることはできません。ミッションで原理原則を明確にしておけば、いつでも適切な対応ができます。

2:会社に集まっている人々はさまざまな価値観を持っています。一緒に働いている時だけでも、すべての人が同じ方向に向かって進む必要があり、その目印となる明確なゴールが必要です。

3:ミッションを高く掲げていれば、それに共鳴する人たち、つまり最初から目指す方向が同じ人たちが入社してくるようになります。

4:崇高なミッションを掲げ、それを目指していると、社員のモラルが高まり、離職率が減ります。

誰にでも役割やポジションに応じたミッションがあります。一人ひとりが日々の仕事を通じてミッションを行動に移していけば、仕事に対する愛社精神が生まれ、チーム力も高まっていくのです。

ミッションを伝えるのはリーダーの役目

リーダーには、「ミッション」「ビジョン」「パッション」が必要だとよくいわれます。チームが目指すべき方向性を示すビジョンとチームをけん引する熱いパッションももちろん欠かせませんが、一番大切なのはミッションだと思います。

繰り返しますが、ミッションとは、自分たちの存在理由です。会社は事業を通じて世の中を良くするために存在します。もしリーダーとしてチームを率いることになったら、真っ先に考えるべきことは、自分たちのミッションは何か、ということです。

間違っても売り上げを増やす、利益を最大化するといった短絡的なものにしてはいけません。利益を上げることはミッションではなく、ミッションを掲げて活動した結果としてついてくるものです。

リーダーは会社のミッションをしっかり把握し、メンバー一人ひとりに浸透させる役割を担っています。自分たちは何のために働くのか。そのために何をするのか。

メンバーの心に届く言葉や行動に翻訳して伝えることができれば、メンバーはやる気を出して頑張れます。

そして自分自身も、「仕事を通じて何を実現したいのか」を考えてみてください。そうして見つけた答えが、会社のミッション、チームのミッションと方向が同じであれば言うことはないのです。

(終わり)