(ブルームバーグ): 19日の金融・証券市場では、円相場が対ドルで下げ幅を拡大、1ドル=150円台まで下落した。日本銀行はマイナス金利解除を決定すると同時に当面緩和的な金融環境が継続するとし、一段の金利上昇観測が後退した。長期金利は低下、株は高値引けで日経平均株価は4万円を回復した。

日銀が17年ぶり利上げ決定、世界最後のマイナス金利に幕-YCC廃止

日銀は19日、金融政策決定会合で金融機関の日銀当座預金の一部にマイナス0.1%を適用している政策の廃止を決めた。政策金利として無担保コール翌日物レートを0-0.1%に誘導する。同時に4-6月はこれまでとおおむね同程度額で長期国債の買い入れを継続するとした。これを受けて円が売られて、債券と株が買われた。日銀の決定は相次いだ事前報道の通りで、市場もほぼ織り込んでいたが、政策の全体像を見極めたいとの声が出ていた。

日本経済はデフレを脱却してインフレの状態との認識を日銀の植田和男総裁は示し、約17年ぶりの利上げという政策大転換に踏み切った。世界で唯一のマイナス金利が解除され、金融・証券市場は落ち着きどころを探る。米連邦公開市場委員会(FOMC)は逆に年内に複数回の利下げが見込まれており、市場はボラティリティー拡大のリスクをはらむ。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、「日銀が千載一遇の好機を逃さず金融政策の正常化に動いたと認識している」とリポートで指摘した。資源高やドル高・円安、人手不足、賃上げがほぼ同時に起きるという異例の幸運に恵まれたとしている。先行きは物価の実力不足露呈など逆風が徐々に増え「日銀は追加利上げに動けないだろう」と予想した。

日銀本店で記者会見した植田日銀総裁は、緩和環境が経済・物価を支えるとして、今後の金融政策について「緩和環境を維持することが大事」と述べた。短期金利の上昇ペースについては、経済物価見通し次第と語った。また物価見通しが上振れる、上振れリスク高まる場合は政策変更するとも話した。会見中に円相場は一時下げ幅を拡大して、1ドル=150円48銭まで下落した。

植田日銀総裁「緩和的な環境の維持が大事」-マイナス金利解除決定

為替

円相場は下げ幅を拡大した。日銀がマイナス金利政策の解除を発表した後に円はいったん買われたが、すぐに売り優勢に転じた。

SBIリクイディティ・マーケットの上田真理人金融市場調査部長は、日銀の決定は想定通りの内容だったが、予想外に150円台まで一気に円安が進んだと指摘。声明文で「当面は緩和的な金融環境を継続するとの文言がフォワードガイダンスとして受け取られた可能性がある」と述べた。

債券

債券相場は上昇。日銀はマイナス金利解除やイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)撤廃を決定したものの、これまでと同程度の国債購入継続も決めたことで買いが優勢となった。

新発国債利回り(午後3時時点)

りそなアセットマネジメントの藤原貴志債券運用部長兼チーフファンドマネジャーは、会合結果を受けて先物やスワップのヘッジの巻き戻しが出たと指摘。もっとも、「日銀が金利ターゲットから量に変えてくる形となる中、10年債は今までの0.7%台からもう少し違う位置に誘導したいと思われ、こうしたことが徐々に織り込まれてくるだろう」との見方も示した。

株式

日銀会合の結果を受け、日本株は上昇。不動産がけん引して日経平均は4万円台を回復した。保険株も高く、円安進行を材料に輸送用機器株も上昇した。対照的にTOPIX銀行業指数は下落した。

ピクテ・ジャパンの松元浩シニア・フェローは、金融市場調節方針について2人の委員が反対したことから「緩和的スタンスを継続すべきとの考えがあると見受けられ、日銀は追加利上げに対してかなり慎重であるという印象」と述べ、総じて市場が好感する内容だったとの見方を示した。

東海東京インテリジェンス・ラボの中村貴司シニアストラテジストは、マイナス金利解除を受けて不動産株は銀行株との比較で資金再分配(アロケーション)が入ったのだろうとした上で「緩和的環境の継続とデフレからインフレへの転換という受け止め」も不動産株や不動産投資信託(REIT)の買いにつながっていると指摘した。

関連記事:

  • 【日銀リアクト】植田日銀、政策の新たな道筋示す-黒田時代に決別
  • 日銀17年ぶり利上げは日本株高を妨げず、市場は冷静とストラテジスト
  • 日銀利上げに備え万全、ビジネス機会狙い証券各社が体制整備

--取材協力:エディ・ダン、山中英典、船曳三郎、日向貴彦、院去信太郎.

More stories like this are available on bloomberg.com

©2024 Bloomberg L.P.