(ブルームバーグ): 大企業中心に満額回答が相次ぐ中、2024年春闘の賃上げ率は5%を超え、33年ぶりの高水準となった。政策正常化に向けて春闘の動向を注視している日本銀行を後押しする内容で、来週の金融政策決定会合で17年ぶりの利上げに踏み切る環境が整ったとの見方が出ている。

連合が15日発表した春闘の第1回回答集計は、平均賃上げ率が5.28%となった。ブルームバーグが月初に集計したエコノミスト予想中央値(4.1%)を上回り、最終集計との比較では1991年(5.66%)以来の高水準となる。中小企業は4.42%で、92年(5.10%)以来の高い水準。連合は賃上げ目標を昨年の「5%程度」から「5%以上」に引き上げて今春闘に臨んでいる。

毎月の基本給を引き上げるベースアップは3.70%で、予想中央値は2.5%だった。中小では2.98%となっている。

日銀の植田和男総裁は、大企業中心に賃上げに前向きな姿勢が示されていることに着目している。13日には、大規模緩和策の修正を判断する上で賃金と物価の好循環を確認する必要があり、春闘の動向が「大きなポイントになる」との考えを改めて示した。今回の結果を受け、18-19日の決定会合でのマイナス金利解除の観測が一層強まりそうだ。

日銀の3月マイナス金利解除予想が急増、4月とほぼ二分-サーベイ

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、「出足としては想定を大幅に超える強い数字だ」と指摘。政労使が一体となって賃上げに取り組む姿勢を示し、強い数字になると市場でも予想されていたが、「突拍子もなく高かった。来週の日銀会合でのマイナス金利解除の可能性がさらに高まった」と語った。

春闘の集計発表後、外国為替市場では円が対ドルで一時148円04銭まで上昇したが、その後は円売りが優勢となり、148円台半ばまで反落している。

りそなホールディングス市場企画部の井口慶一シニアストラテジストは、集計発表後の為替市場の動きについて、「要求ベースも高かったことから、ある程度は織り込まれていたという反応」と指摘。ただ、「日銀決定会合については次の動きについて焦点が高くなるとみられ、為替相場においてはまだ追加の利上げについては過小評価している部分がある」との見方を示した。 

中小への波及が鍵

連合の芳野知子会長は15日の集計発表後の記者会見で、「2024闘争は経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換を図る正念場」と強調。その上で、「これからが本当の正念場。中小企業や組合のない職場で働く人を含むみんなの賃上げを実現しなければならない」と述べた。 

人手不足や物価高が続く中、4日時点の平均賃金方式の賃上げ要求(3102組合)は5.85%と30年ぶりに5%を上回った。13日の集中回答日にはトヨタ自動車や日産自動車など労働組合側の要求に満額回答する企業が相次ぎ、自動車総連の平均賃上げ率は5%を超えた。日本製鉄(14.2%)や三菱重工業(8.3%)など、さらに高い水準で妥結した企業もある。

連合を構成する47の産業別労組のうち、自動車や電機のメーカーなど五つの産別労組が加盟する全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)の13日の集計によると、平均賃上げ額は1万4877円、率にして5%相当と、確認可能な14年以降で最も高い水準となっている。中小企業を含む約2000の労組が加盟するものづくり産業労働組合(JAM)は、12日までに妥結した60組合の平均賃上げ率が5.32%と発表した。

集中回答日の夕方には、政府と経済界、労働団体の3者による政労使会議が開かれ、大手の賃上げの動きを中小に広げる取り組みについて意見交換が行われた。岸田文雄首相は、相次ぐ高水準の回答について「30年続いたコストカット型経済から、いよいよ次のステージに移行していくために良い動きを確認できた」と指摘。こうした傾向が中小企業でも継続できるよう、あらゆる手を尽くすと語った。

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--取材協力:山中英典、氏兼敬子、酒井大輔、青木勝.

(連合会長や市場関係者のコメントを追加して更新しました)

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