(ブルームバーグ): 年収は激減、かつての部下が上司に-。60歳を超えてそれまで勤めた企業で働き続ける場合、収入や役職などの待遇面が悪化することが多かった。今年の春季労使交渉(春闘)で大手企業を中心に記録的な水準の賃上げ回答が相次ぐ中、シニア社員に対する処遇の改善も進んでおり、ネガティブなイメージは過去のものとなるかもしれない。

自動車総連は13日、春闘での主要加盟組合の会社側回答状況を公表。賃上げの平均回答額は1993年以降で最も高い水準となったほか、人材の確保や定着に向けて自動車産業の魅力を向上させる必要性について労使で考えを共有できたと述べ、主要メーカーの賃上げ以外の要求に対する回答内容を明らかにした。

シニア社員の処遇に関して、スズキは持続的な成長を目指すための施策の一つとして60歳を過ぎても体力や環境などに問題がなければ60歳時点の業務と給与を維持することを掲げた。日産自動車や日野自動車などは高齢の従業員に対しても一般組合員に準じたレベルの賃上げを実施する。

少子高齢化などで今後人手不足の深刻化が見込まれる中、政府は高年齢者雇用安定法の改正を含め、企業に対して高年齢者が活躍できる環境整備を促してきた。自動車部品や販売店など裾野が広く国内で約550万人の雇用を抱える自動車業界で待遇改善が進めば、シニア社員の定着が進んで労働力人口の底上げにつながる可能性が高まる。

日本労働組合総連合会が19年に行った調査によると、60歳以降も働くシニアの「働き方満足度」は70%だったのに対し、「賃金満足度」は44%にとどまった。こうした状況の中、業界最大手のトヨタ自動車も再雇用の従業員の処遇改善に向け議論していくとした。職場のニーズに基づいて65歳以上の雇用も視野に入れる。

トヨタの東崇徳総務・人事本部長は、世の中のサービス業全般の処遇向上や地方での半導体工場の新設などもあり、「魅力を訴求していかないと、採用競争力は徐々にボディーブローのように失われていくのではないかという危機感がある」と話す。

社員の6分の1が60歳以上

今年の春闘では、自動車業界以外では味の素も再雇用のシニアなどの非正規雇用者に対して物価上昇分を反映した賃上げに踏み切っている。パナソニックホールディングス傘下で電子部品などを手掛けるパナソニックインダストリーは8日、定年年齢を引き上げ、65歳まで正社員としての賃金体系・福利厚生を含めた労働条件を継続すると発表した。

シニア社員の待遇改善については、これまでも一部の企業で取り組みが進められてきた。

住友化学は昨年3月、65歳定年制へ移行する計画を公表。今後10年以内に同社の従業員の約6分の1が60歳以上になる見込みという。村田製作所も今年4月以降、定年を65歳に引き上げる予定だ。

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--取材協力:稲島剛史.

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