2024/3/27

【必見】AI時代のリーダーが持つべき4つのスキルセット

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 生成AIをはじめ、急激な物価上昇や株価の歴史的な変動、戦争やパンデミックなど、かつては10年に1度レベルで起こっていた劇的な社会の変化が、今や毎年のように起こっている。

 ビジネスの現場でも、かつては効率化の手段だったテクノロジーが思考や創造性までを代替するようになり、従来のマネジメント手法では通用しない場面がみられるようになってきた。

 こうした変化に対応し、多様化する人材を束ねていくべきAI時代のビジネスリーダーには、どのようなスキルセットが求められるのか。

 新時代のリーダーの要諦について、日本最大のビジネススクールを運営するGLOBISの動画学習「GLOBIS 学び放題」事業リーダー鳥潟幸志氏と、グロービス経営大学院 経営研究科研究科長の廣瀬聡氏に聞いた。
グロービス経営大学院 経営研究科研究科長の廣瀬聡氏(左)とGLOBISの動画学習「GLOBIS 学び放題」事業リーダーの鳥潟幸志氏

過去の成功体験を過信してはいけない

──ビジネス環境が大きく変わる中で、従来型のマネジメントにはどのような問題が生じているのでしょうか。
鳥潟 少し前までは十分機能していた従来型のマネジメントが、通用しない場面が増えてきています。
 問題点は、主に3つ挙げられます。
 1つ目は過去の成功体験をベースに、戦略構築やチーム運営を行ってしまうことです。経験は重要ではありますが、環境が激変する中で固執するのは大きなリスクをはらみます。
 過去の成功体験には必ず前提があるので、その前提が変わっていないかは常に確認しなければなりません。
 そのためには、謙虚に市場や現場の声に耳を傾ける必要があるのに、過去の経験を重視しすぎるリーダーの下では、経験の少ないメンバーほど声をあげられなくなります。
 そしてメンバーのモチベーションは低下し、本来リーダーとして知っておくべき情報がますます集まりにくくなる。
新卒でサイバーエージェントに入社後、23歳でPR会社ビルコムの創業に参画。取締役COOとして、新規事業開発、海外支社マネジメント、営業、人事、オペレーションなど経営全般に10年携わる。GLOBISに参画後、EdTechとしての新規事業「GLOBIS 学び放題」を立ち上げ、プロダクトリーダーとして事業をリードする。グロービス経営大学院や企業研修で思考系・ベンチャー系プログラムの講師も務める。グロービス経営大学院経営学修士課程(英語MBA Program)修了。2024年4月2日に初の著作となる『AIが答えを出せない 問いの設定力 AFTER AI時代の必須スキルを身に付ける』を出版。
──過去の成功体験を疑うのは言葉にする以上に難しいことですが、それを疎かにするのは危険である、と。
鳥潟 そう考えます。歴史上の為政者の多くが似たような事態に陥り、政権崩壊を招いてきたことからも、組織運営の典型的な失敗パターンであることは明らかです。
 2つ目の問題点は単一的な価値観にしばられてしまうことです。
 組織が重視する価値観をメンバーに浸透させ、時に強要しながらリードしていくスタイルは、組織が望む行動を促し効率性を上げる効果はあるものの、今それをそのまま押し付けてしまうと多様性の排除につながってしまいます。
 組織のビジョンや文化については本質的な理解をしたうえで、メンバーに応じた受け止め方や行動のあり方についての丁寧なコミュニケーションが必要です。
 そうでなければ多様性豊かなメンバーから生まれるはずの価値をふさいでしまうばかりか、離職にもつながりかねません。
 そして第3の問題点は、企業トップや幹部が定めた方針や戦略をそのまま部下に落としていくカスケードダウン型の組織運営です。
 トップにしか見えない情報や景色はある一方で、現場にしか見えていない現実もあります。
 トップの指示を受けたミドルリーダーは、上に対し「方針は理解したけれど、今の現場や顧客状況を踏まえて、実行方法を一部変更させていただきたい」といった建設的な議論や提案ができなければ、メンバーに最適とは言えない行動を課してしまいます。
 今は大企業であっても経営トップが意思を発信するツールはたくさんあるので、トップの代弁者になるだけのミドルリーダーに価値はありません。
 トップが示す方針の本質を理解したうえで、そのためにどうすべきかを自分の言葉で語れるか、時にはトップに現場や顧客の真実を伝え建設的な議論をリードする姿勢も持っているか、メンバーは常に見ています。
──こうした問題を克服するため、現代のリーダーにはどのようなスキルが求められていますか。
鳥潟 さまざまありますが、代表的なものを4つ挙げます。
 第1に必要なのは、汎用型マネジメントスキルです。
 マネジメントには特定の業界や領域で役立つものの陳腐化も早い「特化型スキル」と、幅広いシーンに対応する「汎用型スキル」があります。
 たとえば問題が発生したとき、高い特化型スキルを持つ人ほど現場の問題を解決しようとしますが、実は別のところに原因があるケースはよくあります。
 多面的なレンズで問題の全体像をとらえ、発生原因を構造的につかむ力があれば、根本的な対処ができて問題を繰り返すことがなくなります。
 多様性を受け入れる力も、汎用性のあるマネジメントスキルです。単一の価値観でしか判断できないと、メンバーに対して「こいつは使えない」と安直な評価をしてしまいがちです。
 しかし、リーダーシップやそれに必要な心理学などを学んでいればタイプの違いであることがわかり、特性を生かしたマネジメントやチーム組成ができるはずです。
 第2のスキルは、テクノロジーの知識と知恵です。
 テクノロジーの進化はビジネス環境の変化の中でも大きな割合を占めており、どんな業種・業界であってもその全体像の理解は不可欠です。
 テクノロジーの基礎的な要素、データ処理のプロセス、サイバーセキュリティなどの最低限の「知識」は、あらゆる業界のリーダーに必須と言えます。
 加えて、テクノロジーを前提とした事業戦略や組織運営をハンドリングしていく「知恵」も必要です。
 そして第3のスキルは、決める力です。
 これまでは重要な意思決定は現場が選択肢を提示して経営幹部が判断してきましたが、今後はAIが選択肢を示し、ミドルリーダーが決断を担う局面が増えてくるでしょう。
 どんなに優れた選択肢が示されても最終的に判断するのは人であり、その際には対象を多面的かつ長期的に見る視点に加え、そもそもこの意思決定はなぜ必要なのかを問う根源的な視点も必要です。
 そうは言っても、唯一の正解があるわけではないので、その決定が各方面でどう受け止められるかを想像する力と、最後には胆力も求められます。
 頭で考え、心で感じ、腹で決断するのです。
 第4のスキルは、自らの価値観、哲学、志に沿って生きる力です。信頼されるリーダーであるには、ブレない「ものさし」を持っていることが不可欠です。
 意思決定をしてから結果が出るまでの間は批判にさらされることもあるので、明確な価値基準に沿った決断でなければ、途中で心が折れてしまいます。
 自分自身の価値基準を明確化し、それに沿って生き、考え、判断する姿勢がビジネスにおいても求められています。

米国では前任者と違うやり方が求められる

──海外企業での勤務経験が豊富で、「GLOBIS 学び放題」の英語版サービスである「GLOBIS Unlimited」にも関わる廣瀬さんにお尋ねします。鳥潟さんが説明してくださったリーダーに求められるスキルは、海外でも同様なのでしょうか?
廣瀬 本質は同じですが、大きく異なる点は、米国を中心とするグローバル企業では前任者を踏襲しないということです。
 組織内にローテーションという概念がなく、必要な人が必要なポストに必要な時に就くのが原則です。リーダーも前任者と違うことが求められていると認識してチーム運営をしていく必要があります。
日本長期信用銀行にてデリバティブ・リスク管理業務に従事後、米系戦略コンサル:ATカーニーにて、全社/事業戦略立案、提携戦略支援、M&A推進プロジェクト等多数のプロジェクトに参画。その後AIG/AIU保険会社執行役員、ベルシステム24常務執行役員・共同COOを経て、2016年よりGLOBISに参画。既存事業の変革、新規事業の立ち上げ経験多数。また、危機管理対応面での経験も豊富。
 こうした環境では、目指すべきゴールを定める力と、チームをその方向へ進めるためのコミュニケーション、ファシリテーション、モニタリング、レポーティング能力が求められます。
 必要があれば、今の組織を果断に変えていく力も欠かせません。
 日本企業は前任者のやり方を尊重しながらその動きを加速させ、他部門と連携し全体としての目標達成が求められます。
 こうした環境では、会社の方向性に対する理解とチーム全体で目標達成に向けて動くための連携力、調整力、コミュニケーション力が重要になってきます。
 どちらが正しいというわけではありませんし、ステレオ化すべきでもなく、それぞれの組織文化を理解した振る舞いが求められるでしょう。
鳥潟 日本のビジネスパーソンは、リーダーは完璧でなければならないと思い込んでいる人が多いように感じます。
 どんなリーダーにも弱みはあるのが当然で、正しく自己認識をしてメンバーに補完してもらう意識も必要です。
 特に多様性が前提のチームでは異なる専門人材をリードしなければならず、詳細は任せる勇気も求められます。
 また、マネジメントは専門スキルの延長線上にあると考える人もいますが、両者は本質的に異なります。
 プレーヤーとして評価された人がその延長線上でマネジメントしようとすると、ただのプレイング・マネジャーになってしまい組織は成長しません。
 新入社員のときに現場に必要なスキルをゼロから学んだように、リーダー初心者もマネジメントを学ぶべきなのです。
──必要なスキルを学び、磨いていくには、どうすればいいのでしょうか。
鳥潟 バッターボックスに立ち続けることです。
 たとえば決める力を養うなら、リスクを取って自分の意見を表明し、決断する経験を愚直に積み上げます。
 こうしたケースでよく見られるのは「実況中継型」で、意見を求められても状況説明に終始する人がいます。
 一見頭が良さそうに映りますが、まったく答えになっておらず、そこに成長はありません。
 そのぐらいなら「決め打ち型」でいいので、とにかく自分の意見を言ってください。
 指摘やツッコミは入るでしょうが、それが学びになります。これを繰り返すことで、主張と根拠をセットにして的確に意見表明し、決断ができるようになります。
 それでも、実践だけでは汎用性のあるスキルに昇華させづらいので、並行して理論を学ぶことも重要です。
 特に汎用型マネジメントスキルは若いリーダーが苦戦しがちな領域で、経験をカバーするためにも学びは不可欠な投資です。
 忙しいのは皆同じですから、使える時間を可視化して必要な時間を配分する必要があります。
廣瀬 ただ、学んだことをそのまま組織で生かせるほど現場は単純ではないので、理論と実践を両輪で回していくことが重要です。
 最初から成功すると期待せず、なぜ学んだことが実践で反映されないかを考える中で、知識と実践の間にある段差や、自身が属する組織の特性や文化にも気づき、より実践力を高められるはずです。
 そのうえで、周囲の声に真摯に耳を傾けましょう。組織ではさまざまな立場の人たちがいろんなことを言ってくるものですが、その背景には必ず何らかの事情があるので、そこに思いを巡らせてください。
 その際に力を発揮するのが、鳥潟さんがその重要性を発信している「問いの設定力」。あらゆるビジネスパーソンに身に着けてほしいスキルのひとつです。
──「問いの設定力」とは?
鳥潟 従来のように解くべき課題が明確な状況では、正解の発見力が重要でした。
 しかし課題そのものが不明瞭な状況では、何を問題ととらえ、何に向き合うのか、理想をどう定義するかといった「問いの設定力」が求められます。
 特にAIが答えられない領域での問いの設定力は、リーダーに求められる重要な能力です。
 適切な問いを設定できれば、悩んだり不安に感じたりすることがなくなり、構造的な思考ができるようになります。
 そして、闇雲ではなく適切な仮説を伴った行動ができるようになり、それが次の問いを促します。
 問いの設定力を磨くには、学びを通じて問いの引き出しを増やし、自分で問いを設定して考え、答えるクセをつけましょう。
 思考し尽くすと「やってみないとわからない」という壁にぶつかるので、そこで実践し検証するのです。
 これを日常的に繰り返すことで、リーダーとしてのスキルも磨かれていくはずです。
──リーダーに必要なスキルや知識を効率的に学ぶにはどのような方法があるでしょうか。
鳥潟 スキマ時間を活用しながら体系的な汎用型マネジメントスキルを学ぶツールとして、GLOBISが持つビジネスナレッジを基礎から実践まで学べる動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」があります。
 学び始めの人ほど特定領域を専門的に学ぶより、ヒト・モノ・カネ・思考・テクノベートなどの全体像をつかむことが重要なので、体系的に整理された動画教材が効率的な学びにつながります。
廣瀬 読者のみなさんには「GLOBIS 学び放題」を活用いただきながら学びを進めることと並行して、自分は何歳でどうなっていたいかというキャリアビジョンをぜひ具体的に描いてほしいですね。
 仕事で大きな成果を出し、優秀で人柄も良い人が、自身のキャリアを描いていなかったために昇進の機会を逃すケースはたくさんあります。
 これは能力ではなく準備の問題。チャンスをつかむにはそれを受け入れるための土壌が必要です。
 今からでも遅くないので、自分らしいキャリアビジョンをしっかり描いてみてください。
▼書籍情報
「GLOBIS 学び放題」事業リーダー鳥潟幸志さんの初の著作が今春発売!

タイトル:『AIが答えを出せない 問いの設定力 AFTER AI時代の必須スキルを身に付ける』
出版社:クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
発売日:2024年4月2日
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