2024/3/27

【直感型キャリア論】「越境体験」が、あなたの仕事と社会を面白くする理由

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
緊迫化する世界情勢やAIの進化、価値観の多様化など、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化している。このような先が見えない時代において、企業の目指すべき道を示し、変革を牽引するリーダーの重要性はますます高まるばかりだ。
では、複雑化する時代を生きるこれからのリーダーには、どのような視点や考え方が求められるのか。
「業界を横断する“越境力”」の重要性を語るのが、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)の戦略コンサルティングサービスを担うStrategy&のパートナーの森 祐治氏だ。
研究職、米国でのベンチャー起業家、大学教授といった経歴のほか、外資系IT企業やコンサルティングファーム、投資ファンドでの勤務経験を有し、自身もキャリアの越境を体現してきた。森氏が語る、次世代リーダーに求められる視点やこれからのコンサルタントの条件とは──。

好奇心を追求してきた「越境キャリア」

──森さんは、国内企業での勤務を経て大学院での研究、米国での起業、その後も外資系企業での勤務や投資ファンドの設立、大学教授などさまざまな経験を積まれてきました。まずはこれまでのキャリアをどのように振り返りますか。
 そうですね。私は決して明確なキャリアプランを立てていたタイプではなく、自分の「好奇心」を追求した結果、たまたまいまに辿り着いていたというイメージの方が近いかもしれません。
「この人と一緒に働いたら楽しそうだと思ったから」「アイデアを伝えたら、『面白そうだからやってみたら』と言ってくれたから」。このように人との出会いや好奇心を通じて、直感に従ってキャリアを歩んできたように思います。
「自らの成長のために、次はこの企業に入ろう」など計画的に考えるというよりは、自分の心が惹かれる場所を素直に選んでいるうちに、気がついたら結果的にキャリアの越境を繰り返していたわけです。
──キャリアにおける転機のようなものはあったのでしょうか。
20代半ば頃に米国にいたことは、いま振り返れば一つの転機だったように思います。
当時、1990~2000年頃の米国は、インターネット関連の新興企業が次々と生まれていた頃です。昨日まで大学生だった人たちが立ち上げた会社が、あっという間に大企業を買収するような、スケールの大きい動きがあちこちで起きていました。
毎日何かが起きていて、激しく揺れ動く時代の波に揉まれた時間は、とても貴重な経験だったと思います。そして、その頃に出会った仲間とインターネットメディアの会社を立ち上げました。
当時の米国では、周りに挑戦に貪欲な人たちが沢山いました。そんな環境では、アイデアを話したら「すぐにやった方がいい」と誰もが挑戦を後押ししてくれます。
あの経験があったからこそ、いまも変わらず好奇心の赴くままに新しい挑戦を楽しむことができているのだと思います。
ただ当時、正直なところ「起業家として成功したい」といった野心が、そこまで強かったわけではありませんでした。
どちらかというと、新しいサービスがどのように生まれ、どう広がり、どう社会を変えるのか。そんな「新しいことをしたい」「社会が変わる瞬間を見たい」といった単純な欲求にいつも突き動かされながら、偶然の出会いを楽しんできた感覚があります。

業界を横断する「越境力」が必要だ

──何か新しいことに挑みたいと思っても、過去の事例や成功体験にとらわれてしまうこともあると思います。森さんは、どのようにご自身の価値観をアップデートし続けてきたのですか。
大切にしているのは、過去の失敗や成功の要因を「観察」することです。十分に観察することができれば、そこから共通点を見つけ、次の挑戦の成功率を上げることができます。
成功、失敗に関わらず、人間は過去の体験をそれなりに軌道修正しながら日々生きているはずです。その際に「どういう観点で軌道修正しているか」がわかれば、無理にアンラーンする必要もないのでは、というのが私の持論です。
アンラーンの定義にもよりますが、越境するたびにゼロから学び直すというよりは、これまでに学んだ知識や経験を振り返り、その共通点や差異を知るプロセスが重要だと思います。
自身の学び直しに闇雲にリソースを費やすよりも、これまでの失敗や成功体験をしっかりとモニタリングすることが、過去の体験を無駄にしないためにも大切ではないでしょうか。
──多様な経験を積まれてきた森さんが、現在戦略コンサルタントという仕事を選んでいる理由にはどのような考えがあるのでしょうか。
「コンサルタント」の仕事では、さまざまな産業の課題解決に携わることができます。産業ごとの課題の違いが興味深いのはもちろんですが、クライアントの目指すべき方向性の設定や、それに向けた体制変更など、経営を根幹から考えることにも関わることができる。
とても知的興奮を覚える仕事ですし、クライアントが社会に大きな変化を生み出す瞬間に立ち会うこともできます。自分のように好奇心を追求したり、短期間で密度濃く考えたりすることが好きな人には向いている職業だと考えています。
──若手ビジネスパーソンのなかには、コンサルタント職を志す人も少なくありません。複雑化する時代において、コンサルタントにはどのような役割や視点が求められているのでしょうか。
現在のように過去の事例に答えがない時代において、「正解が見えないなかで模索するしかない」というのが、いま多くの経営者が抱える悩みです。
そうした悩みや課題の解決に寄り添うためには、ロジカルさだけでは不十分。過去の事例や海外事例を提示するだけでなく、むしろ彼らから答えを引き出すことが求められています。
なぜなら戦略の差別化が難しいいま、その実行を成し遂げるためにも組織全体の“腹落ち感”が必要になるからです。その行動にどんな意味やインパクトがあるかなどを腹落ちできるまで追求しなければ、実感を伴った戦略は描けません。
「自分自身のなかから答えが湧き出るような感覚」を掴んでいただくためにも、コンサルタントには多様な視点から問いを立てることが求められる。
そのためには一つの業界に対する知見だけでなく、「業界を横断する越境力」を通じて、多様な視点を提供できるような存在になる必要があると考えています。

多様な人材が活躍するチーム

──業界を横断した多様な視点の提供が求められるいま、森さんが所属するStrategy&ではどのような支援を行っているのでしょうか。
Strategy&は、PwCコンサルティングのなかでも戦略コンサルティングサービスに特化したチームです。
過去の事例が通用せず、領域を超えた視点が求められる現代において、Strategy&では社内外問わず、知や経験のコラボレーションを軸に戦略立案から具体的なイノベーションの実行支援まで行うのが特徴です。
PwCコンサルティングには、私たちのような戦略チームのほか、デザインシンキングを得意とする「Future Design Lab」や先端技術に対する造詣が深い「Technology Laboratory」など、ユニークな専門組織が数多く存在します。
業界を横断し、各分野のユニークなメンバーがコラボレーションすることで、組織としての「先を見る力」を育み、たしかな実行支援へとつなげることができるのです。
他のファームでも同様の考え方を取り入れていると思いますが、私たちの場合は内部の連携が非常にスムーズです。これは多様なバックグラウンドを持つ人材が多いため、異なる視点を受け入れる土壌が整っているからだと思います。
実際、私が担当するエンタメやメディア領域でも、広告代理店やテレビ局出身のコンサルタントが数多く在籍しています。
加えて、グローバルネットワークも抱えているため、国境や業界を越えた越境体験を社内で繰り返しできる環境が整っていますし、その環境を生かして多様なクライアントの支援に携わることができます。私のように興味関心の範囲が広い人間には恵まれた環境と言えるのではないでしょうか。
──最後に、次世代リーダーを目指す読者に向けて、メッセージをお願いします。
いまは考え方もキャリアも多様化し、もはや、王道ルートや成功モデルもない時代です。でも、正解がないからこそ、キャリア形成に迷う人も増えているのだとも思います。
あくまで私なりの考えですが、こうした価値観が多様化する時代において大切なのは、自分自身の興味・関心への認識を深めること。要するに、自分の「好奇心」にもっと素直になるということです。
自分の興味の矛先については、必ずしも明確である必要はありません。「AorBなら、どちらかといえばAかな」といったレベルでもいいのです。
そういう自分の探究心を無理に抑え込む必要はありません。むしろ自分の心に素直に従うことで、それが個性となり、ユニークなキャリア形成にもつながるはずです。
PwCコンサルティングをはじめ、そういう人材を求める企業も増えていますし、副業など働き方も多様化しているので、自分の好奇心の芽を摘まないことも大切だと思います。型にはめないキャリアを歩むことが、いずれ自分自身の個性を育むことにつながるはず。
Strategy&も、そうした多様な個性を育む場でありたいと考えると同時に、いまこの記事を読んでいる読者のみなさまが何か新しいことをしたいと思ったときに、私たちをパートナーとして選んでいただけるような存在になれたらうれしく思います。