2024/3/19

【及川美紀×森春菜】「人との違いは自分らしさ」「正解を探さない」。働く女性たちへ伝えたいこと

Newspicks Studios Senior Editor/NewsPicks for WE編集長
 3月8日の「国際女性デー」に際し、「私らしく働く」をテーマに、ポーラ代表取締役の及川美紀氏、ANNA DIAMOND代表の森春菜氏、そしてNewsPicks for WE編集長の川口あいが議論。
「自分らしくあることと現実のギャップ」「私らしい状態とは?」など、誰もが感じているトピックについて、本音で語り合った。

正解に縛られて低くなる「自己肯定感」

川口   「国際女性デー」に際し、「これからの女性に必要な、私らしく働く」をテーマに、お話を進めていきたいと思います。
 まず、こちらの「自己肯定感について」のデータを見ていきたいのですが、海外に比べて日本人は自己肯定感が低い傾向があることがわかります。
及川  みんな「何が正解」かを探している感じがしますよね。
  就職活動で「何をアピールすれば正解ですか?」とか、「子どもを産むなら、いつが正解ですか?」とか。
  誰かのつくった正解に向けて「こうあらねばならない」と思ってしまっているのかも。
 妻たるもの、ビジネスパーソンたるもの、起業家たるもの......という、他人が求める理想に自分を当てはめて、がんじがらめになって苦しんでいる。
 それが自己肯定感の低さにつながっているような気がします。
そういう感覚は、若い世代にもあると思います。
 以前、何かの記事で「人生は高速道路のようだ。まわりがアクセル全開だから、自分自身も、目的地が分からないまま、とりあえずアクセルを踏み続ける。結局、自分の目的地は分からないまま。」という文章を読みました。
 そういう同調圧力は、日本のほうが海外より強いように感じます。

やりたいこと探しは日々の訓練

川口 「やりたいこと」について調査したデータを見てみると、「やりたいことがわからない人」が全体の42.2%。
出典URL:https://sirabee.com/2020/03/14/20162245094/
 さらにすべての年代で、男性に比べて女性のほうが「やりたいことがわからない」と回答した割合が多くなっています。
   実際、やりたいことを見つけるのって難しいですよね。日頃から「やりたいことを見つける訓練」をしていないと、すぐには見つからないのでは。
及川   確かに、いろいろな経験を積んだり、人と出会うことで、「自分はこれが好き」「これが得意」というのが見えてきて、だんだんやりたいことが見えてくるものですからね。
   人との出会いや、その人と自分が違うことを発見するなかで「自分らしさの輪郭」が見えてくる。ときには失敗もして、そこから「自分らしさ」を学ぶことも多いです。
及川 見方を変えると、それは失敗というより「違う経験」と言うのかもしれません。
 例えば、一度やってみた仕事がちょっと違うな、と思ったりすることもありますよね。それも「自分らしさ」に気づく貴重な経験ですよね。
  その通りです。私も新卒で大企業に就職して、「なんか違う」と半年で退職しました(笑)。
 その環境に置かれてみないとわからないこともありますしね。
及川   私は30年以上同じ会社で働いていますが、それは会社の何かが自分に合っているからだと思います。そこでやってきた経験が、また次の新しいやりたいことにもつながっていく。
 そういう意味で、答えはひとつではありません。転職してもいいし、働き続けてもいい。とにかく経験を積んでいけば、やりたいことが見えてきます。
川口   確かに、何事も「経験してみる」ことは、ひとつのポイントですよね。
出典URL:https://sirabee.com/2020/03/14/20162245094/

自分への問いかけで「私らしさ」を見つける

川口  お二人にとっての「働くうえでの自分らしさ」や、それを見つけた「ターニングポイント」についても教えていただけますか。
及川   私は「自分らしさ探し」をもう何十年とやっていますね(笑)。
 これまでを振り返ると、自分らしさに気づかされるときって、今までと違う環境に身を置いたときだったり、何かがうまくいかなったときなんです。
  直近では5年前、諮問委員会で社長に任命されたとき。
  私がイメージする社長は、天才的だったり、カリスマ性があって威厳があったり。「私は、そんな社長にはなれない」というのが最初にありました。
  でもそこから「じゃあ、私がやりたい社長、なれる社長像って、どういうものだろう?」と考えたんです。
  そこで改めて自分という人間を掘り下げてみたら、「元気でいつも笑っている」「困ったときは人に頼れる」そういう姿が浮かんできました。
  世の中の社長像とは違うかもしれないけれど、自分だからこそできる社長像を探していこうと強く思いました。
川口   他人とは比較しない、ということですね。
及川   でももちろん、突然、社長に指名されて、「社長らしく」ってどういうことかすごく悩みました。
  ただ、私を指名してくれた時点で、私の何かがいいと思ってしてくれているわけですから、ムリに自分を変える必要はないんだ、と。
  ですから、55歳の今になっても「自分とは?」をずっと問い続けています。
川口  そういう問いかけの中で、どんなふうに「自分らしさ」を見つけていったんですか。
及川   頭の中で自問自答したり、書き出したりすることもありますね。
「こういうとき、私は本心ではどうしたいんだろう」「今までの私だったら、どうやってきたんだろう」と。
「社長だから、こうしなければならない」よりも、「私はどうしたいのか」を考えていくうちに答えが見えてくるんです。
森 「自分らしさ」って、年齢によっても変化していくものですよね?
及川  そうですね。経験によってできることもどんどん増えていくので、変わっていって当然だと思います。
 昔なら落ち込むようなことでも、今なら立ち向かえたり、そういうこともあるなと受け止められたりしますから。
 そういう意味で50代はすごく楽しい。30代でくよくよしていたようなことも、今なら笑い飛ばせますから。

人から背中を押されたら、とにかく挑戦してみる

   私は自分の心の声に素直に従い、すぐに行動に移せるところが、私らしさだと思っています。
  もちろんリスクヘッジはするんですが、気づいたら行動しているというタイプなんです。そのほうが、自分にとってはすごく健康的なんですよね。
  私はコピーライターとエシカルジュエリーブランドのデザイナーの仕事をしています。
  コピーライターとして多くのクライアントの方々と関わるなかで、本気で社会を良くしようとする人々やブランドと出会って、私も自分でそういうことをやってみたいと触発されるかたちで、ジュエリーブランドのANNA DIAMONDを立ち上げました。
  ブランドを立ち上げてからも「即行動」するシーンは多かったですね。
 例えば真珠って、みなさん真ん丸のものを想像されると思うんですが、実は、8割方は形がユニークなものばかり。
  ただそれは宝飾品の対象ではなく、日の目を見ないんですよね。でも、せっかく色や形が個性的でかわいいのにもったいないと思って、その話を聞いた日すぐに真珠の養殖業者さんを調べて、翌週には愛媛に飛んでいって、ジュエリーにすることを決めて、翌月にはデザインも決定していました(笑)。
及川   森さんは人に何を言われても、とにかく行動することのほうが居心地がいいんですね。
   そうなんです。気づくとご飯を食べるのも忘れて動いています。
 逆に行動しないといつまでもモヤモヤしてしまって、夜も眠れなくなってしまうくらい(笑)。
川口   そうした、自分の思いに忠実であることも大事だと思う一方、周囲から期待される役割と自分がやりたいことのバランスに悩む人や、自分のやりたいことがよくわからない人も多くいらっしゃいますよね。
及川   それは結構難しい部分ですよね。なかには「今のままのほうが楽」だから、それが「やりたいこと」だと勘違いしてしまうケースというのもあります。
 そういう逃げに走っていないかは、振り返ったほうがいいかもしれません。
 もし「やりたいことがよくわからない」なら、なおさらまわりの人のアドバイスに耳を傾けてみたほうがいいですね。
 まわりはその人のことを思っている以上によく見ているものです。それで「そろそろ、次のステップへ」と言ってくれたりしますから。そういう声に背中を押してもらうことも大切です。
 新しい挑戦や抜てき、試験の挑戦などを持ちかけられて、「いやいや、私なんか」と尻込みするのはすごくもったいない。
 挑戦してみたら、自分らしさややりたいことが見つかるかもしれないし、向いてなかったら次に行けばいいんですから。
森   私は自分で会社を経営しているので、背中を押してくれる上司がいません。ですから、そういう環境がすごくうらやましいですね。
及川   社内に限らず社外の人でもいいんです。真面目にやり続けていたら、必ずそういう人が出てきます。
  そのときは、自分の身の丈よりちょっと上のことを要求されるから、大変は大変なんです。でも、それでもやっていくうちに、自分にとって次の何かが現れてきます。
森   確かに言われてみると、自分にとってターニングポイントになる人との出会いが、これまでにもありました。

自分らしさを見つけるアクション、ヒントは?

川口    お二人が働くうえで自分らしさを見つける具体的なヒントやアクションがあれば、ぜひ聞かせてください。
    私は等身大の自分らしさを大切にしているので、ムリにキラキラのロールモデルを追いかけないようにしています。自分の心に正直になることが、まずは最優先ですね。
  もし、今すぐにでも自分らしさを見つけたいなら、1カ月くらい海外へ行くのもおすすめです。
  誰も自分のことを知らない環境にいると、自分の心の声がクリアに聞こえてきますよ。
及川   具体的なアクションということでは、私の場合、自分は過去にどんなふうに困難を乗り越えてきたのかを思い返すことが多いです。
 それは好きな本の言葉だったり、音楽だったりもします。そういう自分の乗り越え方をもう一回自分の中で確認していくうちに、その先に自分らしさが見えてくるんですよね。
    自分と誰かをひとつのもの差しで比べないことも、大切にしてほしいなと思います。
  自分なりのもの差しをいろいろ持っていれば、人との違いを優劣ではなく、多様性として受け入れられるようになります。
及川   そもそも、みんな自分の好きなところを探すことをあまりしていないですよね。 逆に自分の嫌なところって結構言えたりする。
そうではなくて、まずは自分でいいと思えるところから探してみてください。
 思いつかないなら、どうして友だちや夫が自分と一緒にいてくれるのか、考えてみるといいですよ。そこから自分のよさや強みのようなものが浮かび上がってくると思います。
  朝起きてごはんを作った、子どもを保育園に送った。それだけでも私はすごいんだ、と考えられる訓練をもっとしてみてください。
   私は、一人でいるときに無意識に、そうやって自分のいいところ探しだったり自分をほめたりしている気がします。
  私の中には、私は私、あなたはあなた、という明確な区別があるので、ムリに自分らしさを意識しすぎることも、ないのかもしれません。
川口   そういう多様性を認める価値観が自分の中に浸透してくれば、「自分らしさ探し」の迷子になることもなくなるのかもしれませんね。