2024/3/14

【渋谷ユーザー必見】デジタル起点のコミュニティで、街とビジネスはどう変わるか

NewsPicks / Brand Design Senior Editor
 新しい商業施設、オフィスビルなど大規模な再開発が続く渋谷だが、まちづくりは、人々の営みがあってこそ。いまやその「営み」の場は、リアルな街並みにとどまらず、オンラインを介したバーチャル空間を含むものとなっている。
 東急不動産がリリースし、今年4月に本格ローンチする「SHIBUYA MABLs」は、渋谷エリアを活性化するさまざまな便益を提供するアプリだ。
 とくにワーカーを中心とするコミュニティ機能は、多様な働き方や交流などの可能性を広げ、渋谷に「新しい繋がり」を生み出すことが目指されている。
 デジタル起点のコミュニティによって渋谷はどう変わるのか。渋谷にオフィスをかまえるYOUTRUSTの代表CEOの岩崎由夏氏と、渋谷PARCOを擁するJ.フロント リテイリングデジタル推進部の洞本宗和氏をお迎えし、スタートアップ、大企業などそれぞれの立場から語り合ってもらった。

渋谷は「口コミ」と相性がいい

──岩崎さんが渋谷で起業した理由から伺えますか。
岩崎 渋谷は、ビジネスにおけるステークホルダーと非常に会いやすい街なんですね。スタートアップが渋谷に多い理由のひとつも、そこにある気がします。
 ITベンチャーは小さなコミュニティからビジネスを始めることが多くて、「御社も渋谷ですよね? 一度ランチしませんか」みたいなことがよくあるんです。そういった気軽な声がけをしやすい雰囲気が渋谷にはありますし、実際カジュアルに話せるお店も多いですよね。
 社会人スタートとなった前職もオフィスが渋谷ヒカリエにあったので、私にとっては、もはや渋谷はホームタウンですね(笑)。
洞本 スタートアップもそうですが、渋谷には新しいものを受け入れて根づかせる土壌がありますよね。
 独特な街だと思いますよ。渋谷駅を中心に700メートルほどのエリアに雑多なカルチャーが詰まっている。それも一方向ではなくて、ほぼ360度に広がっている。世界的に見ても珍しい都市なんじゃないでしょうか。
──PARCOはそんな渋谷カルチャーの歴史を象徴する場所でもありますね。
洞本 私たちは商業施設を経営していくにあたり、「その商圏にはどんな人が集まっているのか」を常に考えます。普通の街ですと、ターゲットの中心にくるのは、周囲に住んでいる人や働きに来ている人です。
 ですが、渋谷の場合は、観光客など遊びに来る人が圧倒的に多い。渋谷の商圏は、東京や関東圏に閉じず、グローバルにまで広がっているのが特徴かもしれないですね。
──商圏という意味では、デジタル空間はどのように捉えていますか。
洞本 コロナ禍の期間、リアル店舗が身動きできなくなってしまったことは、私たちにとってショッキングな経験でしたし、反省点となりました。それを踏まえ、いまはデジタル上の接点強化に加えて、XRやWeb3といったテクノロジーの活用にも積極的に取り組んでいます。
 ただ、そうやってオンライン上のタッチポイントを作っていくのと同時に、リアル店舗をさらに磨き上げていく、ということも大事です。
 リアル店舗においては、セレンディピティ(偶然の出会い)が大切です。「お客さまが新たな発見をされた」「スタッフから適切なアドバイスを受けていただいた」……こういった購買に至るまでの情報をデータとしてどう把握するか、というのも課題になっています。
岩崎 最近よく思うのは、ショッピングなどでもそうですが、意外と「周囲の誰かから聞いた話」というのが情報源として強いな、という点です。
 私も休日に子供とお出かけするにあたって、たまたまSNSで見かけた投稿を参考にすることがけっこうあります。「いま渋谷PARCOに行けば、あのポケモンに会えるんだ」みたいな(笑)。
 とくに渋谷は視覚的にも「映える」スポットが多くて、SNSの口コミとも相性がいいと感じます。

気軽にランチに誘える距離感

──今回リリースされたMABLsは、さまざまな機能を使って、渋谷エリアのワーカーがつながることができるように設計されています。
 ──こういうアプリがあったときに、お二人でしたらどのようなコミュニケーションに使えそうですか。
岩崎 私たちYOUTRUSTは、いま週3日はオフライン出勤で全員が集まるようにしています。ただ、若い世代の社員は出勤日以外もオフィスにいることが多いんですね。きっと渋谷の街自体、好きなんだと思います(笑)。
 社内のSlackでも「今日は絶対カレーを食べに行く!」みたいにチャンネルで仲間を募集して、一緒にランチに行くみたいなことがよくありまして、そういうことがより便利になればいいですね。
洞本 たしかにそれはいいと思います。弊社はどちらかというとレガシーの会社なので、社内のチャットツールはあるんですが、「いまからランチ食べに行く人!」みたいなことができるチャンネルはほとんどないんです。
 ですから業務とは別に、気軽に社員同士でコミュニケーションがとれるツールがあるのは助かるかもしれない。とくにテレワークが普及して以降、別部署の人の顔が見えにくくなっているところもありますから。
──MABLsでは、出社中の気分が表示できて、社員同士で軽い声がけなどもできるそうです。
岩崎 その距離感で使える機能は重要ですね。前職時代は2000人規模の会社だったので、こういうアプリがほしかったなと思います。
 当時まだ独身で、晩ご飯を一人で食べたくないなと思うときがあっても、同僚たちの気分はわからないじゃないですか。よくオフィスの上から下までフロアをうろうろしながら、飲み仲間を探していました(笑)。
洞本 そういう社内の飲み文化も、コロナ禍を経て、いったん薄れてしまいましたよね。でも、仲間との飲食というのは、いまでも少なくない人が欲しているものじゃないかと思います。
 あと、先ほどのリアル店舗の話と同じで、飲食の場でのセレンディピティというのもありますよね。
 私の後輩が渋谷PARCOのそばでコーヒーショップをやっていまして、そこに行くと、彼がつながっているアーティストやファッションに関わる人など、さまざまな人が集まっているんですよね。
 クリエイターから事業をやっている人間まで、垣根なくコミュニケーションが生まれるきっかけとしても、飲食の場はとても重要だなと思います。

スタートアップと大企業の交流

──実際、職種や業種の異なる人たちとのつながりを求める声も多いようです。
洞本 それで言うと、これは偶然ですが、私の同僚で、最近までYOUTRUSTさんへ出向していた社員がいるんですよ。
 パルコには自身の業務の2割を別部署・別組織の業務に充てることができる出向制度がありまして、その拡大版としてスタートアップ企業へ出向して勉強させてもらうケースがあるんです。そこでYOUTRUSTさんにもお世話になったという。
岩崎 私たちにとっても非常にいい機会でした。IT経験の有無や業界を問わず、それぞれの職種で腕を振るってきた方々であればスタートアップでも大活躍してくれるんだということがよくわかりました。
 スタートアップ側としても、先輩たちが築いてきた偉大な会社のノウハウから学ばせてもらうことも多いですし、こういう人材の交流はもっと必要ですよね。
 同じ渋谷にいても業界が違うとあまり交流はない、というのが現状なので、もっと混じり合っていくといいなと思います。
──MABLsではイベントを起点に渋谷に活発で面白いコミュニティを醸成していくようなことも目指しています。どういったイベントだと、それが可能になると思いますか。
洞本 イベントはニッチであればあるほど、コミットが高くなる傾向がありますよね。渋谷ワーカー向けであれば、たとえば「カレーが好きな人」「サウナが好きな人」みたいに絞って、小規模でもユニークなイベントを提供すると面白そうですね。
岩崎 私もそう思います。一度、YOUTRUSTで高円寺にある「小杉湯」という銭湯を貸し切ってイベントさせてもらったことがあるんですよ。そのときは、「銭湯やサウナ好きだから集まった」にとどまらない、「銭湯を貸し切った仲間」という縁だからこそのつながりが生まれたように感じました。
洞本 縁って、大事ですよね。あと、コミュニティの質も重要だなと思います。
 渋谷はマイナーなものを許容してきた街で、その小さな渦が広がって多様なカルチャーを生んできた。異なる文化を遠ざけるのではなく、いい化学反応が起こるようにつながるためには、心理的な安全なども必要でしょう。
岩崎 本当にそうですね。その上で、コミュニティが続くためには、循環させることも必要だなと。とても狭い池なのに、どんどん色合いを変えていくのが渋谷の面白いところでもあると思います。
 渋谷で働く人間としても、これからが楽しみです。

開発担当者が語る、MABLsでできること

 渋谷に集うおよそ50万人のワーカーに向けたコミュニティアプリ「SHIBUYA MABLs」。
 誕生の背景には、実際に渋谷で働く人たちへの綿密なリサーチがあったと東急不動産・都市事業ユニット渋谷開発本部の大西里菜氏は言う。
「東急グループは、渋谷駅を中心とした2.5キロ圏内を『広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)』と設定し、ハードアセットの開発をしてきました。
 私たち東急不動産は、これからは新規開発だけではなく、いまある街の魅力や渋谷にいる人々と向き合いながら街づくりをしていきたい、そんな想いから約2年の歳月をかけてアプリ開発を推進してきました。
 まず、このプロダクト自体がユーザーの潜在的なニーズと向き合ったものでなければならないと思いますので、実際に渋谷ワーカーの皆さまにもインタビューを重ねてきました。
 結果、多くの方が、渋谷について、予想したイメージと実際のワークライフとでギャップを感じていることがわかりました。
 とくに多かったのが、出会いやきっかけなどコミュニケーションに関することです。
 そこで、このイメージと現実とのギャップをできるかぎり解消し、渋谷のコミュニティ醸成につながるアプリとして開発設計したのが、MABLsなんです」
 東急不動産とともに開発を担当した永田篤広氏は、MABLsの大きな特徴として、「渋谷という『歩けば会える』くらいの中距離のコミュニケーションに特化した点」を挙げる。
「アプリ上では、本名や会社名が公開されますので、お互いにどんな人なのかリスクの少ない状態で利用していただけます。その上で、セキュリティやガバナンスについては、厳しい基準を設けて運用をしていきます。
 また、渋谷に出社すると自動でポイントが貯まり、厳選された100以上の魅力的な飲食店で使うこともできます。その使用履歴から別店舗をリコメンドするなど、同じ趣向を持つフレンドとのマッチング機能もありますので、新たな人や街との出会いをMABLsから受け取ることも可能です。
 MABLsはコミュニティアプリですから、ローンチしてからが始まりでもあります。
 コンテンツを提供していくことはもちろん、コミュニケーションがしやすいようにユーザーさまの声や感情の機微を大切にしながら機能を改善していく予定です」