2024/3/7

【斬新】リスク対策の新発想。「贈る」セキュリティとは

NewsPicks Brand Design Editor
 個人情報の流出、クレジットカードの不正利用、SNSでのアカウント乗っ取り──。
 デジタルであらゆるサービスを享受できる時代だからこそ、巧妙かつ悪質なインターネット詐欺の手口が増え、知らぬ間に被害に遭う危険性も高まっている。
 一方、「何をすれば防げるかわからない」「対策が面倒」と、その対策意識は低い。
 2023年10月、こうした状況を打開すべく、セキュリティソフトを提供するトレンドマイクロを中心として、共創コミュニティ「あんしん共創プロジェクト」が発足。
 デジタル社会のリスク対策意識向上と行動変容を、新たな角度から促そうとしている。
 その第1弾が、大切な人へ安心を“贈る”という「ギフト」プロジェクトだ。
 なぜ「ギフト」なのか。リスク対策商品はギフトになり得るのか。
 同プロジェクトを推進するトレンドマイクロ社の鎌田晃氏と、共創パートナーとして参画し防災ギフトサービスを手掛けるKOKUA代表の疋田裕二氏との対談で、“ギフトとしてのセキュリティ”の可能性に迫る。
INDEX
  • デジタル社会のセキュリティリスク対策
  • セキュリティを「贈る」
  • リスク対策は「ギフト」になり得るか

デジタル社会のセキュリティリスク対策

──誰もがデジタルサービスを活用する現代には、どのようなセキュリティリスクが潜んでいるのでしょうか。
鎌田 最近では個人情報を狙う攻撃が増えています。
 個人情報が流出し、不正利用やなりすましの被害に遭うリスクが代表的なものとして挙げられます。
 名前、住所、電話番号、メールアドレス、パスワード、クレジットカード番号、銀行口座番号などの情報が盗まれて悪用され、金銭被害やプライバシーの侵害を受ける人たちが多いのです。
疋田 特にいまは、誰もが複数のメールアドレスやSNSのアカウントを作れる時代。その分、個人情報がどこかから漏れてしまう懸念も高まっています。
 企業から漏れた情報が、知らぬ間に個人情報の売買を行うダークウェブに流れ、その結果として、迷惑メールが届くケースも考えられます。
──個人が情報流出を防止するには何が重要なのでしょうか。
鎌田 まず情報流出の要因には大きく2つあります。
 1つは、偽サイト(実在する企業やサービスなどを装ったサイト)で自ら個人情報を入力してしまうケース。実在のサイトをコピーして作られることもあり、見分けるのは非常に困難です。
 偽サイトに誘導する代表的な手口としては、実在する企業やサービスになりすました偽のメールやSMSを送り付けることが挙げられます。
 これを避けるには、怪しいメールやSMSに記載されているURLに不用意にアクセスせず、ブックマークに登録した正しいURLや、検索サイトで調べた公式サイト、あるいは正式なアプリなどからアクセスすることが重要です。
 もしメールに記載されたURLをクリックしてしまったとしても、個人情報やクレジットカード情報を入力しないようにしましょう。
 2つ目に、サービスや企業からの個人情報の流出。
 これは企業が保持している顧客データベースへの攻撃、不正アクセスなどにより起こるものなので、自分自身だけでは、どんなに気を付けていても防ぐことはできません。
ただ、被害を最小限に抑えるためには、「簡単なパスワードを使いまわさない」ことが重要です。
 もしパスワードを使いまわしていた場合、1つのパスワードが流出してしまうと芋づる式に他のサービスでも不正アクセスされる可能性が高くなります。
──しかし、まだ起きていない問題に対して「対策意識」を持つのは難しいようにも思います。
鎌田 まさしくそこが、リスク対策を訴える我々のような企業が抱える大きな課題です。
 多くの人は、いまの話をどこかで見聞きしていて気になっていても、仕方ないこと、対策は面倒なことだと考えて、何も行動しないのではないでしょうか。
 その結果、実際にそのリスクが現実になり、クレジットカードが不正利用されたり、SNSのアカウントを乗っ取られたりしたときに慌てるのです。
 そこで我々は、リスク対策に対して意識が低い人も、自分以外の誰かのためであれば行動に移すのではないか、と考えました。
 これまでの人生を振り返ったときに、「自分のため」よりも「大切な人のため」なら行動できた──。
 そんな経験がある人は、意外と多いと思うんです。
 防災を例にすると、自分のためだけであれば何も準備しないかもしれませんが、家族のためと思えば、防災グッズを用意しようと考えるのではないでしょうか。
疋田 私は防災事業を行うためKOKUAを立ち上げましたが、「防災意識を持ってほしい」と発信していても、情報感度の高い人にしか届かないという現実がありました。
 社会を変えるなら、情報が届きにくい人たちに向けた取り組みが必要。つまり災害が起こるリスクを想定していない人々に、情報を届けなければなりません。
 そうした壁に突き当たっていたときに着想したのが、防災を「ギフト」にすることでした。
 1つ私の経験を挙げると、以前、身の回りの人たちに「笛」を渡していたことがあったんです。
 というのも、普段の生活では笛をプレゼントすることなんてあまりないでしょう。しかし被災した場合、家屋が倒壊し、サイレンや風、車の音などが響くなか、救助を求めるために大声を発し続けなければならない状況も発生します。
 そこに笛が1つあれば、大事な体力を消耗せずに「自分はここにいるよ」とアピールできる。
 これも自分の「大切な人」を守りたいと思うがゆえの行動でした。
鎌田 セキュリティのリスク対策も同じように、「自分が危険に晒されるのを防ぎたい」より、家族やパートナーなど「大切な人を危険に晒したくない」という意識に立った方が気持ちが動くはず。
 そこで我々の運営する共創コミュニティでは、セキュリティを贈ることができる、ギフトプロジェクトを始めたんです。

セキュリティを「贈る」

──大切な人に贈るセキュリティ。具体的には何を贈ることになるのでしょうか。
鎌田 「トレンドマイクロ ID プロテクション(以下、IDプロテクション)」という、お客さまの個人情報やプライバシーを守るアプリです。
 お客さまのメールアドレス、クレジットカード番号などの個人情報が流出していないかを監視して、流出を確認した場合は対処方法とともに、通知します。
 情報流出や不正利用が疑われる場合には、ID プロテクションのサポート窓口へご連絡いただくことで、電話やメールで対処の支援も受けることができます。
 その他にも、パスワード管理やSNSの乗っ取りを検知する機能も搭載されています。
 IDプロテクションで「個人情報の流出チェック」を行うと、「いつ、どのサイトで、どのような情報が流出したか」を確認できます。
 今回、IDプロテクションの一部機能をお試しいただけるよう、簡易的にメールアドレスの流出チェックを体験できるページを用意しました。
メールアドレスの流出状況を確認できる実際のページ。メールアドレスを入力して「調べる」を押すと即座に流出の有無をチェックしてくれる。ちなみに筆者の個人メールアドレスを入れると「注意(流出あり)」の文言とともに「個人情報が流出しています。3個のWebサイトで流出を確認。ユーザ名:3、メールアドレス:3、氏名:2、パスワード:2、住所:1」と流出が検出されてしまった。
 私も母に試してもらったのですが、普段使用しているメールアドレスが複数のサービスから流出していて、急いでパスワードを変更してもらいました。
 まずは、この機能を体験し、個人情報やプライバシーを守ることに関心を持っていただけたら、IDプロテクションのプレゼントキャンペーンに応募いただきたいと思っています。
──防災グッズと違い、セキュリティアプリは無形商品ですが、メールやメッセージアプリなどで送付するのでしょうか。
鎌田 アプリのシリアル番号をメールやLINEで贈ることも考えましたが、一緒に議論してきた多くのコミュニティメンバーから「ギフト感がない」という声がありました。
 そこで今回は、相手を想う気持ちが伝わるよう「ギフトカード」の形にしたんです。
 今回のギフトプロジェクトでは、抽選で100名(1名につき2ライセンス)をプレゼントします。
 1名につき2ライセンスにしたのは、ギフトと贈る方と一緒にアプリを使用いただき、個人情報やプライバシーの保護について会話するきっかけにしていただきたいからです。

リスク対策は「ギフト」になり得るか

──具体的な利用シーンや利用者は、どのように想定していますか。
鎌田 たとえば父の日や母の日のギフトにしたり、社会人になる子どもに贈ったりしてもいいかもしれません。
疋田 実際、防災グッズのギフトサービスを提供する我々の経験からしても、ギフトは家族や親戚など、親密な方に贈る方が大半です。
 ちょっと心配だなと思ったタイミングで何気なくプレゼントするのもいいですし、何かの節目のタイミングで贈るのも、より想いが伝わっていいと思います。
──今後、リスク対策を「ギフト」として贈る行為は定着するでしょうか。
疋田 時間をかけて定着すると期待しています。我々のやってきた実績から言えるのは、一定のニーズと共感が間違いなく存在するということです。
 やはり自分のことだと、「なんとかなる」と思えたり、我慢できたりしてしまうものです。しかしそれでは、状況は改善しない。
 だからこそ「贈る」という選択肢を大切にしてほしい。
 防犯も防災も、自分の身を守るだけでなく、「周りの人も含めて守る」ことが自分たちの幸せと健康に繋がります。
 守るという定義は人それぞれですが、今回のギフトを通じて、人々がより安全安心に暮らせる社会が実現できればいいと思っています。
鎌田 このプロジェクトは「誰かのためのセキュリティ」をコンセプトとして始まりました。
 ギフトを受け取った人は、物と同時に「あなたが大切です」というメッセージを受け取る。贈る側は、メッセージを“伝える側”になるので、自分自身の個人情報やプライバシーについて考えるきっかけになればいいなと思っています。
 なかなか浸透しないセキュリティ対策を、我々が「ギフト」という形で、良い意味で周りを巻き込んで喚起すれば、社会全体の意識変容が進んでいくと期待しています。
 今回のギフトプロジェクトが、人々に温かい感情を生みながら、誰もが安心してデジタルライフを快適に楽しめる社会をつくる一助になっていけば嬉しいです。