2024/3/11

【疑問解明】世界的なカーブランドはなぜNTTデータと共創したがるのか

NewsPicks Brand Design シニアエディター
「CASE」(※)シフトによる大きな変革が進む自動車業界。価値創造の手法も変わり、新規プレイヤーの参入も相次いでいる。
※モビリティの変革を示す造語。「Connected(コネクテッド)」「Automated/Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリング)」「Electrification(電動化)」という四つの領域の頭文字をつなげている。
 それを象徴するかのように、2024年1月末に開かれたクルマの先端技術展「オートモーティブ ワールド」には、コンサルティングやSI・ソフトウェア開発事業を行うNTTデータの姿もあった。
 車体に組み込むソフトウェアの開発から新たなモビリティサービスの社会実装まで、広範囲に事業を手掛けるNTTデータは、世界的なカーブランドのパートナーを務めるなどグローバルでも存在感を示している。
「オートモーティブ ワールド」における同社の展示や、会場で開かれたBMWとのパネルディスカッションの内容から、自動車業界におけるNTTデータの強みを読み解く。

モビリティ市場を拡大させる「クロス・インダストリー」とは

 日本の基幹産業とも言える自動車業界は今「100年に一度の大変革の時代」を迎えている。その変革は大きく以下の三つに分けられる。
 近年、クルマには多様なソフトウェアが組み込まれるようになり、製品の競争力がソフトウェアの質で左右されるようになってきている。 
 それに加え、自動運転技術の進化や、所有より体験を重視する価値観の台頭なども重なり、移動を軸とした新たな「モビリティ市場」がこの先拡大していくと考えられている。
 NTTデータのブースに展示されていた自動運転1人乗りミニカー「CV-1 Auto」も、社会課題の解決という観点で開発された新たなモビリティサービスと言えるだろう。
自動運転1人乗りミニカー「CV-1 Auto」。沖縄のモビリティメーカー「イメイド」が開発した車両に、NTTデータが自動運転のセンサーや各種ソフトウェアを組み込んでいる。離島や山間部に住む高齢者や身体にハンデキャップを持つ人は、自治体などが運営するバス停までアクセスするのが難しい。この社会課題を解消するべく、住居環境や身体的な状況により移動が困難な人たちに対し、免許不要の移動手段として提供する。
 クルマの存在意義が変わる中、従来にはない価値を生み出す上で重要なキーワードとなっているのが「クロス・インダストリー」(異業種連携)だ。
 NTTデータグループでグローバルマーケティングを担う吉永真介氏は次のように話す。
「近年クルマによる顧客体験の価値は、純粋な車内体験のみならず、クルマと社会がつながることによる車外からも生み出されるようになっています。省庁、金融機関、小売、製造業などの顧客を持つNTTデータは、多様な社会とのつながりを活かしたクロス・インダストリーの価値提供に強みを持っています」
 同社が取り組むクロス・インダストリーの事例の一つが、「kmタクシー」を運営する国際自動車との実証実験だ。
 GPS機器とゼンリン社が提供する地図データを基にドライバーの速度・加減速状況等の走行データを計測し、製薬企業エーザイが提供する脳の健康度のセルフチェックツールデータを組み合わせて分析。
 その結果をもとに脳の健康状態を推定するAIを構築し、ドライバーの認知機能低下を早期に検知する試みである。

SDVの進化で価値が高まる「他業種連携」

 近年、クルマの構造が大きく変化し、性能や機能を制御するソフトウェア主体の「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」へと進化している。
 このSDVもモビリティ市場の拡大を語る上で欠かせない。
 SDVが車内外と通信し、さまざまなデータの取得が容易になることで、自動車と他業界のデータ連携が加速し、新たなモビリティサービスが生まれやすくなるからだ。
 ユーザーのモビリティ体験が車外にも広がる中、カーブランドも業際的な視点で新たな顧客体験を描く必要性に迫られている。
 例えば、特定の充電スポットでEVを充電するとポイントが貯まる仕組みを設けるといったことだ。
 ところが多くのカーブランドはこれまでクルマの製造・販売で自己完結していたため、業界外でのビジネスには明るくない。
 そんな課題に対し、クロス・インダストリーに強みを持つNTTデータは、自動車業界の外に存在するであろう顧客接点を提示し、カーブランドに新たなサービス設計に必要な示唆を与えている。
 NTTデータのブースに掲げられていたカスタマー・ジャーニー・マップは、そのような目的で作られたビジネスデザインツールだ。
NTTグループがグローバルでのオートモーティブ事業を通じて開発したカスタマー・ジャーニー。クルマのソフトウェア化などが進み、自動車業界の外にも顧客体験を描ける可能性が広がる中、カーブランド各社はクルマを売り切って終わりというビジネスモデルから脱し、他業界と連携しながら新たな顧客体験をデザインしていくことが求められている。このカスタマー・ジャーニー・マップは、購買後にも起きうる顧客体験や、その場で促せる顧客の行動変容などをマップ化してある。自動車メーカーは各ポイントで顧客体験を向上させる施策をNTTデータと考え、具体的なサービス開発に落とし込む。
 モビリティ領域におけるクロス・インダストリーの価値が増す中、業際的なデータ基盤を構築してきたNTTデータはグローバルで存在感を高め、主要なカーブランドのパートナーを務めている。
「データ基盤、コネクティビティ、ソフトウェア、アイデアなど一連の要素を踏まえたコンサルティング力が評価されていると感じます」と吉永氏はその理由を分析する。
 そんなNTTデータとカーブランドの協業事例として、本会場では、2008年以来タッグを組むBMWとNTTデータのパネルディスカッションが開かれた。
 その模様をダイジェストでお届けする。

クルマと社会をシームレスに

吉永 オートモーティブの世界ではソフトウェア化とコネクティビティを軸に変革が進んでいます。
 我々NTTデータは、CX(Customer Experience)、MX(Mobility Experience)、EX(Energy Experience)という三つのキーワードが、新たなモビリティ市場を成長させるカギとなると考えています。
 そんな変革の只中にある自動車業界において、どのような動きが出てきていて、未来にはどんなことが実現するのか。
 本日はBMWの御舘康成さんと、北米でモビリティ事業に携わる当社グループのクレメンス・コンラッドに聞いてまいります。
 まずはクレメンスさんに北米の現状をうかがいましょうか。
クレメンス 北米でもSDVがオートモーティブの未来をつくる一つのカギと見なされていて、ソフトウェアに求められる要件も時々刻々と変化しています。
 ユーザーがリモートでクルマをコントロールできるようになり、スマートフォンをデジタルキーやエンジン駆動に活用することはもちろん、遠隔での充電や個人間のクルマのレンタルなどもリモートで可能になっています。
 今後、SDVはモビリティ領域のあらゆる物事とシームレスにつながっていき、その豊かな顧客体験を通じてカスタマーエンゲージメントを高めていくことになるでしょう。
 そういった世界観が重要性を増しており、北米では大手自動車メーカー各社を中心に車載ソフトウェアの標準化が進んでいます。
吉永 御舘さん、いまクレメンスさんが話したような現状をどう受け止めていますか。
御舘 BMWは長らくドイツ語の「FREUDE」、日本語では「駆けぬける歓び」、人を主役にテクノロジーが快適で楽しいドライビング体験をブーストさせることをブランド・スローガンとして掲げています。
「クルマによる移動体験×デジタルテクノロジー」というSDVへの進化は、この「歓び」をブーストさせる可能性を秘めており、大きな期待を寄せています。
 我々の目下の目標は屋内からクルマまでをシームレスにつなぐこと。慣れ親しんだデジタル技術を車内で使うことで新たな価値を生むサービスを実現したいと考えています。
吉永 その実現に向けて取り組まれていることはありますか?
御舘 現在「BMWコネクテッド・ドライブ」という一連のサービスを提供しています。その核は高速で安定した通信です。
 その一つとしてNTTグループとの協業でドコモのワンナンバーサービスを使ったDual-SIMサービス「パーソナルeSIM」をはじめ、車内で5G通信を実現しました。 
 また、BMWではワンストップ型アプリケーション「My BMW」で、デジタルキーやリモートコントロール、エアコンなどクルマに関する全てのデジタルサービスを提供しています。
 最近導入した新型BMW 5シリーズでは、「My BMW」をインストールしたモバイル端末を持ってクルマに近づくと自動解錠が作動しますし、盗難アラーム作動時に車両内外の画像をモバイル端末に送信する機能も装備しています。
 停車時には、このモバイル端末をコントローラーにするかたちで対戦型ゲームも楽しめます。
クレメンス 私はゲーム好きなので、そこについ反応していますが(笑)、ゲームにも利用される米Unity Technologies社や米Epic Games社の3Dエンジンなどを活用して、AR・VRによるクルマでのCXシミュレーションができるようになっていますよね。
 バーチャルを活用したCXデザインをはじめ、当社もさまざまな形でCXデザインに力を入れています。
吉永 いまのクレメンスの話はバーチャルで車内のCXデザインが行われ、実装前からユーザーに提供できる時代になっているということですね。
 そうしたことが可能になる中で、BMWはどのようなサービスを提供していくのでしょうか?
御舘 当社がCES2024で披露したサービスの中から、代表的なものを三つ紹介させてください。一つ目は拡張現実(AR)ドライブです。
 BMWはドライバーが走りを楽しむことを何より大切にしており、ドライバーの手はハンドルに、視線は路面に常に向けられていることを重視します。
 そこで、ドライバーがドライビング姿勢を崩さずに必要な情報を得られるようにするのがこの機能です。例えば「ここで曲がります」などとガイダンスしながら、路面に行先を映したりします。
 二つ目はクルマの遠隔操作システムです。これを「バレーパーキング」(※)のような用途に活かせないかと考えています。
※建物エントランスの車寄せで係員にクルマを預けて駐車を代行してもらうサービス
 日本にも高層マンションが増えましたが、地下駐車場まで移動して外に出るまで10分以上かかる、といった不便さも生じています。
 そんな課題に対し、遠隔操作システムを使ってクルマを玄関前に呼び出すなど、空港やホテルのようなプレミアムな体験を提供したいと考えています。
 三つ目はボイスコマンドの進化です。
 シートに座っただけでドライバーの脈拍を感知して「お疲れですね。森に行きませんか」と話しかけてくれる。あるいは「お腹が空いた」と呟けば「ラーメンが好きでしたね」と反応してくれる。
 そんなドライバーに寄り添った対話型コミュニケーションの実現を目指しています。
クレメンス なるほど、どれも面白いですね。御舘さんが紹介してくださったサービスにも含まれていましたが、今年のCESではARが非常に人気を博していたのが印象的でした。
 さまざまなモデルやブランドが登場して、ディスプレイも小型の製品からウインドシールド、ARグラスに至るまで多様なものが実現しています。
 このように新たなソフトウェアやそれを活用したサービスが続々と登場してきたことで、多様なソフトウェアのスタック(※)が非常に重要になってきています。当社もいまそこに力を入れています。
※特定の機能やサービスを実現するために必要な要素をまとめること

共創を通じてCXの進化を目指す

吉永 こういった多様なソフトウェアが切り開くオートモーティブの未来に対し、BMWがどう向き合おうとしているのか。こちらを最後にお聞かせください。
御舘 我々BMWが語る未来のキーワードは「イーズ(Ease)&ブースト(Boost)」です。
「イーズ」は、家族とのリラックスした空間やビジネスパーソンが仕事に集中できる環境など、クルマという空間の中で状況に応じた快適さを生み出すことを指します。
 もう一方の「ブースト」は、心から運転を楽しみたい顧客に向けた究極のドライビング体験のことです。
 この二つをこれからも提供し続けていきたいという当社の思いが、先ほどのキーワードに込められています。
 いずれ自動運転が浸透する未来が訪れるでしょうが、それでも我々はブーストも大事にしたい。
 自動運転のためのドライブ・バイ・ワイヤ(電子制御で自動車の基本的な操作を補助する装置)の実装が進むと、物理的な人間の操作はなくなり、路面との接触も感じられなくなります。 
 ですが、サスペンション・マネジメントなどあらゆるデジタル技術を駆使し、あたかも自分とクルマが一体になって世界を走っているような体験をドライバーに提供したい。
 そんな理想をNTTグループの力もお借りしながら実現できればと考えています。
クレメンス 素晴らしいですね。
 クルマのソフトウェア化を支える立場として私が描くゴールは、あらゆるステークホルダーと協力し、オープンかつAPI(ソフトウェアの一部機能を共有する仕組み)が有効な基盤を構築することで、より快適なCXを生み出すことです。
 その結果として、自動運転車でも安全性と快適性、そして走る楽しさを感じられる顧客体験を提供できると思いますし、さまざまな交通手段とつながるモビリティサービスの実現にもつながると確信しています。
ーパネルディスカッション終了

時代を切り拓くNTTデータの「つなぐ力」

 自動車業界では「100年に一度の大変革」により異業種参入が加速し、新たな体験を求める市場のニーズに応じたモビリティサービスが続々と生まれている。
 クレメンス氏のクロージングコメントにある「あらゆるステークホルダーとの協力」がその動きに拍車をかけることになるだろう。
 公共・金融・法人全ての分野において多くの事業領域を熟知するNTTデータは、業界を超えて「つなぐ力」と高度なデジタル技術力を武器に、モビリティ社会の発展に貢献する未来を描く。
 それを後押しするのが、各国のオートモーティブ事業で得られた豊かな知見だ。
 それらが全社的に共有され、グローバルオペレーションとして昇華されることでNTTデータは自らのソリューションの強度をさらに高め、自動車業界の変革をリードしていく。