2024/3/12

【洋上風力】なぜ、再エネの“希望”に商船三井が必要なのか?

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 カーボンニュートラルの切り札として今、「洋上風力発電」が盛り上がりを見せている。
 文字通り、海上に発電機能を備えた風車を設け、それを風の力で回す発電方式だ。
 洋上風力発電の一番の特徴はクリーンであることはもちろん、大量の導入が可能であり、また夜間も稼働できるため再エネの主力電源化において“切り札”と考えられている。
近年は大型化が進み、全長が300mに匹敵するサイズも登場。1基あたりの発電量も増え、日本では2030年までに1000万kW(キロワット)、2040年までには3000万~4500万kWの導入量(※1)を目指すなど、国の後押しもある。
※1 実際に発電された電力量(Wh)ではなく、発電できる最大量(W)を指す。
しかし、ここまで大きなサイズの風車を、しかも海の上に建てるなど、簡単にできるものなのか?
そのためには、発電機メーカーだけではなく、風車の設置や作業員が滞在する船を持つ海運会社、組み立てる建設会社など、さまざまなプレーヤーが一致団結する必要がある
各国に洋上風力の発電機を供給するGEの洋上風力日本代表の大西英之氏、そして洋上風力関連事業を将来のコア事業に位置づける商船三井の風力発電事業担当の杉山正幸氏に、そのリアルを聞いた。
INDEX
  • 風車を建てられる海域面積で日本は世界6位
  • 極限の“叡智”が必要になってきた
  • 商船三井が洋上風力発電に注力する理由

風車を建てられる海域面積で日本は世界6位

──数ある再生エネルギーの中でも、洋上風力発電の強みとは?
大西 なんといっても「サイズ」です。地上の風車と違い、大型化しても洋上であれば運搬・設置が可能で、景観や騒音等への心配も少ない。だから今はどんどん大型化が進んでいる。
そして、サイズが大きくなれば電力量(※2)は上がり、事業性も向上します。
※2 電力と時間をかけたもので、Wh(ワット時またはワットアワー)で表す。
──発電できる電力量は、どのくらいですか。
大西 欧米だと、ひとつの発電所のサイズは1GW(ギガワット)以上になることが多いです。
一方で風車単体のサイズでいうと、全長は250mを超えてきます。弊社の「Haliade(ハリエデ)-X」は、ブレードの直径が220m、 水面から測定すると260mに達します。
 今、日本で建設されている最も大きな洋上風力発電の風車は全長で150mほどです。
 日本における洋上風力発電所は300~600MW(メガワット)が主流ですが、日本でも欧米サイズのものを作っていく流れになりつつあります。
杉山 1GWは、一般的な原発1基分の発電量に相当します。
これだけの発電力を持つ施設を一気にドンと作るのは、太陽光や地熱、水力でも難しい。その点が洋上風力発電の魅力です。
 また島国の日本にとっては、海に設置できる点も非常に魅力的。
 日本の国土は大きくありませんが、実はEEZ(排他的経済水域)と領海を合わせた面積は、世界第6位。
 ルールの整備は必要ですが、洋上風力発電が可能な海域の広さに関しては、日本は世界でも屈指なんです。
──じゃあ、建て放題ですね。
杉山 いえ、実は洋上風力発電の主流である「着床式」が設置できるのは浅い海域に限られます。洋上風力発電で世界を引っ張るイギリスは北海周辺に建てられていますが、いずれも水深が浅い。
 一方で、日本は離岸するとすぐに深くなってしまうので、海域は広くても着床式は難しい。なので、「浮体式」のほうがマッチしています。
大西 杉山さんのおっしゃるとおり、日本では今後「浮体式」の比率が大きくなると考えています。
 日本の場合は水深が大きなハードルでしたが、浮体式になり事業地が沖に移行すると、風況もかなり改善されます。
 たとえば風速が7mから8mになるだけで、発電量は50%上がります。もし風速が2倍になれば、発電量はその3乗にもなる。
 洋上風力発電は、風の強さが重要なファクターとなることをふまえると、水深を問わず沖にも設置できる浮体式が増えていくはず。
 ただ、開発はまだ道半ばです。係留といわれる海底との繋ぎ込みの技術や、風車と浮体の揺れをどう制御するかは、これからもっと研究の必要があります。

極限の“叡智”が必要になってきた

──今後、洋上風力発電の風車は、全長で300mにも迫るほど進化すると言われます。超巨大風車を建てていくとなると、より一層の高いレベルの技術が必要となってきそうです。
杉山 やはり、これだけのサイズの構造物ですから、運んだり設置したりするだけでも、かなり難易度は上がっています。
 たとえば、風車設置のための海上作業に使う「SEP船(洋上風力発電設備設置船)」という船がありますが、現在の最大クラスの風車を運べるのは、ごく一部の船に限られます。
 そもそも、風車がここまで大きくなると想定していないので、合うものがなかなかない。新たにSEP船を作るにも3年くらいかかり、費用も数百億円にのぼってしまう。
 このように、極限サイズの風車を作るには、あらゆるサプライチェーンも同様のレベルに合わせなければならない難しさがあります。
 我々も、2017年にSEP船の保有や運航をする企業へ出資したのを皮切りに、「SOV(洋上風力の発電施設を保守管理するための大型作業支援船)」と呼ばれる、技術者のための宿泊設備を持つ支援船の建設も進めていますが、まだまだ我々にできることは沢山あると考えています。
商船三井は、2022年竣工のアジア初新造SOV「TSS PIONEER」に次ぐ2隻目の台湾籍SOVを手掛ける(写真:商船三井)
大西 現在の洋上風力発電は“人類が作った最大の回転構造物”。だから建設・運用・メンテナンスなど、絶対的なお手本があるわけではない。
 つまり、それぞれに新しいやり方が必要になる。しかも、多くが海の上での作業です。その分、複雑さも難易度も、一層上がっていく。
 そうした難題を乗り越えるには、我々のような発電機メーカーだけでなく、商船三井さんのような洋上風力発電のステークホルダーが協力し合うことが不可欠です。
 まさに、関わる人すべてが、同じボートに乗っているようなイメージ。計画をみっちり立ててその通りに進めるよりは、不測の事態が起きると想定しておき、柔軟に対応していく。
 完全な計画を作り上げることにエネルギーを使うより、何か起こった時に対応できる体制を作っておく。それが重要だと考えています。

商船三井が洋上風力発電に注力する理由

──商船三井の主業は「海運業」です。なぜ、洋上風力発電に注力しているのでしょうか?
杉山 背景には「危機感」があります。
 私たちは大型の貨物船を世界中で運航していますが、ほとんどが化石燃料で動いている。
 かつ、その中でも少なくない船が化石燃料そのものを運んでいる実態があります。
 地球全体でカーボンニュートラルを目指す中、そうしたビジネスモデルをずっと続けられるはずがありませんよね。だから、「トランスフォームが必要である」という危機感がありました。
 では、何にトランスフォームすればいいのか。そうした議論の中で浮かび上がったのが、これまでの海上輸送事業から「海洋インフラ事業」に転換するビジョンです。
 私たちの強みは、なんといっても海にある。長年海で仕事してきた技術や経験をいかせるフィールドへ、新たに踏み出そうと。まさにそれに沿うものが、洋上風力発電でした。
 そこで、2021年に「風力エネルギー事業部」を立ち上げました。将来的には洋上風力発電事業を、商船三井のコア事業に育てていきたいと考えています。
──商船三井の強みはなんですか?
杉山 我々は創業140年が経ちましたが、総合海運企業として“海”と“船”と“浮体構造物”に関わってきました。
 たとえば、「FPSO」という洋上でオイルを生産する船や、「FSRU」という洋上でLNGを受け入れる設備など、さまざまな大型浮体物のオペレーションに長年携わっている。
 それこそ、20年間ずっと海上にあり続けられる構造物の知見もあります。
 そうした経験とノウハウは、洋上風力発電においてお役に立てるはず。これから、日本では浮体式も増えていく可能性は高いですし、当社も存在感を出していきたいですね。
大西 たとえば、将来的に大規模な浮体式の洋上風力発電施設を運営するにあたって、巨大な海上プラットフォームを作り、作業員が定住しながらそこを陸地のように使ってサービスを行う。
 そんなプラットフォームが、日本海側と太平洋側に1基ずつあったらいいんじゃないか、という意見もあります。
 商船三井さんとは、そんな未来志向の話もできそうです。今まで夢物語だったことが、洋上風力発電の世界では、どんどん実現する可能性があります。
 我々も風力だけでなく、ガス、原子力、石炭、水力といった各電力の発電機を、グリッド(送配電網)も含めて提供してきた経験があります。
 また、ガスタービンから飛行機のエンジンまで担い、“回転体のスペシャリスト”として、その要素技術や今後どんな技術が必要になるかなどの知見を持ち合わせています。
 我々が電力マーケット全般に関わっていて幅広いソリューションを持つ点は、一つの大きな強みになると思います。
──今後、商船三井は洋上風力発電において、どんなプレーヤーとして存在感を示しますか?
杉山 当社は、海上での輸送や物流を担うのはもちろん、不動産、海事コンサルティング、CVC、洋上風力発電など事業を広げてきましたが、海を起点とする会社です。
 風車のパーツを運んだり、発電設備のコンポーネントを輸送したりといった、重量物の輸送インフラは国内にまだほとんどないので、その構築に貢献したいですね。
 先ほどお話しした、SEPやSOVだけでなく、CTV(洋上風力発電施設の設置工事や保守管理をする作業員および資材を輸送する小型の高速船)の供給なども始めています。
 商船三井が掲げる海上風力発電事業のポートフォリオをしっかり拡大していくために、今後も浮体式に必要な船舶に投資したいと考えています。
 最終的には、洋上風力発電のサプライチェーンにおいて必要不可欠な存在になりたい。
 この産業が発展するには、サプライチェーン全体の成長が不可欠なので、総合海運会社としてのリソースをいかして、その一翼を担わせていただければと考えています。