収益10億ドルへ。Viceはメディアの“救世主”になるか
2015/05/13, The New York Times
今年の収益予想は10億ドル
5月1日に開かれたメディア企業「バイス・メディア(Vice Media)」のパーティーでは、ライブ音楽が会場に響き渡っていた。同社の最高経営責任者(CEO)シェーン・スミスは、酒を片手にズボンは腰までずり下げ、肌のタトゥーを見せながらステージ脇に立ち、ラッパー兼シェフのアクション・ブロンソンがピザをつくるのを眺めていた。
このパーティーは、「デジタル・コンテンツ・ニューフロント」という業界イベントの一環でバイスが広告主や代理店向けに毎年行うプレゼンテーションの後に開催された。何百人という招待客が大騒ぎをしていた。
バイスは昨年、5億ドルの資金を調達し、バイスの若者視聴者を取り込みたいHBOなど複数の大手メディア企業と数億ドル規模の契約を締結した。
同社によれば少なくとも40億ドル相当に達し、2015年の収益は10億ドルに迫ると予想されている。1994年にフリーマガジンとしてささやかにスタートしてから大躍進を果たした。
資金がふんだんに集まるようになっても、バイスはそのエッジーで反権力的なイメージを維持しようとしている。冒頭のパーティーでは、出席者にビールとカクテルを浴びせるほど提供し、リハーサルはしていなそうな広告主へのプレゼンも卑猥(ひわい)な言葉が盛りだくさんだった。
長年バイスと共同制作をしている映画監督のスパイク・リーは、ステージに上がった際、スミスは酔っぱらっているのかと尋ねた。
「アシスタントが飲むのをやめさせようとしたんだ」とスミスは答えた。「いい気分だよ」
「ワルい男性向け新興企業」からの転換
バイスは今、独自のケーブルテレビチャンネルの設立を目前に控えている。順調にいけば、ハースト・コーポレーションとウォルト・ディズニーが所有するA&Eネットワークスが、同社のヒストリーチャンネルのスピンオフ「H2」をバイスに売却する。
契約は先ごろ合意に達する予定だったが、A&Eネットワークスのチャンネルを放映するケーブルテレビ会社や衛星テレビ会社の一部がいまだ承認していないと、情報が非公開であることを理由に関係者が匿名を条件に明らかにした。
ケーブルテレビチャンネルの設立はバイスにとって、「ワルい男性向けデジタル新興企業」から「メインストリームのメディア企業」へと転換する重要な一歩だ。
昨年は21世紀フォックスやタイム・ワーナー、ディズニーなど、バイスの若い男性視聴者を獲得したい大手メディア企業が同社に関心を寄せた。最終的にバイスはA&Eネットワークスと、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでフェイスブックやネットフリックスにも投資するテクノロジー・クロスオーバー・ベンチャーズから5億ドルの資金調達を確保した。
こうした投資において、バイスの企業価値は25億ドル以上と評価された(2013年にフォックスはバイスの株式の5%を7000万ドルで取得している)。
「カネは十分ある」
3月にはHBOが、バイスの30分間のデイリーニュース番組を放送する複数年契約を結んだ。HBOではすでにバイスの週刊ニュースマガジン番組を放送しており、この番組も年間14本から35本に増え、2018年まで契約が延長された。
HBOの番組編成責任者マイケル・ロンバルドは、契約合意を発表した際、同社にとって「最大の投資のひとつ」と語っている。
ブルックリンに本拠を置くバイスは、カナダのメディアコングロマリット、ロジャーズ・コミュニケーションズとも最近1億ドル規模の複数年契約を締結し、テレビやスマートフォン、PC向けのオリジナルコンテンツの制作を決めている。
バイスは非公開企業だが、ニューヨーク・タイムズが独自に入手し、バイスの財務に詳しい関係者が確認した内部資料によると、バイスの今年の収益はおよそ9億1500万ドルに達すると見られる。
第1四半期から好調で、HBOとロジャーズとの新規契約を含み、5億4500万ドルの収益を得た。1年前はブランデッド・コンテンツ契約が収益のほとんどを占めていたのに対し、現在はこうしたコンテンツ提携によるものが増えていると、同社は説明している。
企業価値がさらに高くなれば、株式公開も検討するとCEOのスミスは言う。
「カネのことは気にしていない。十分ある」と、バイスの筆頭株主であるスミスはプレゼン後のインタビューで語った。「私が気にするのは戦略的な取引だ」
コムスコアの調査では、アメリカ国内のバイス・メディア全サイトの3月のユニークビジター数は3520万に上った。ホライゾン・メディアのリサーチ部門ディレクター、ブラッド・アドゲイトによれば、現在第3シーズンに入ったHBOの週刊ニュース番組は4月12日までの放送分で、再放送も含め各回の平均視聴者数が180万人という(再放送とオンライン放送、オンデマンド放送も含めれば、週間視聴者数は300万人に達するとバイスは言う)。
3年間の全広告枠を販売済み
スミスは長年、従来のテレビはスピードが遅く、若い視聴者を引き付けられないと批判してきた。しかし、バイスが提携したすべての契約がスタートすれば、スミスは従来のメディアのルールにもっと従わなければならなくなるだろう。
先日のプレゼンテーションには、ルパート・マードックの息子でバイスの取締役でもあるジェームズ・マードックなど、メディア界の重鎮たちも顔を見せていた。
「彼らは、私のように彼らの力になれる人物が必要だとわかっている。でも、彼らは自分たちのやり方から抜け出すことができない」と、スミスは語った。「私が抱える唯一のフラストレーションは、われわれはとてつもなくダイナミックであり続けてきたのに、彼らはとてつもなくダイナミックじゃないことだ」
バイスの新しいチャンネルは、ニュース以外の番組で編成する予定だ。スポーツ、ファッション、フードに関する番組や、(同性愛者であることをカミングアウトした)エレン・ペイジの旅番組「Gaycation」などだ。カニエ・ウエストとも別の番組について話し合いを重ねている。
バイスの視聴者が従来のケーブルテレビチャンネルを観るかどうかはまだわからない。それでもスミスいわく、すでにスタートから3年間の全広告枠を二大広告エージェンシーに販売済みだ。
スミスはさしあたり、従来のメディア企業の救世主というバイスの新しい役割を満喫している。
「私はコンテンツ会社のCEOなんだ」と、ボクシングのメイウェザー対パッキャオの試合観戦のためラスベガス行の飛行機に乗り込む直前にスミスは語った。「面白くなくなったら、やる意味なんてないよ」(文中敬称略)
(執筆:SYDNEY EMBER記者、ANDREW ROSS SORKIN記者、翻訳:前田雅子、撮影:Jesse Dittmar/The New York Times)
プレミアム会員限定の記事です
今すぐ無料トライアルで続きを読もう。
オリジナル記事 7,500本以上が読み放題
オリジナル動画 350本以上が見放題
The Wall Street Journal 日本版が読み放題
JobPicks すべての職業経験談が読み放題