2024/2/28

【yutori,雨風太陽】上場スタートアップがDAY1から行っていた広報戦略のタネ明かし

NewsPicks / Brand Design editor
 広報PRは本当に“コストセンター”なのか ── 。

 昨年末、2社の上場が話題となった。yutoriと雨風太陽だ。アパレルD2Cのyutoriは、2018年4月に創業、2020年にZOZOグループに参画。

 20以上のファッションブランドや全国13店舗の運営を手掛けている。創業からわずか5年、平均年齢24歳の若さで上場を成し遂げた。

 一方、NPOとして創業した雨風太陽は「都市と地方をかきまぜる」をミッションに、日本初のインパクトIPOを達成。

 約70万人の消費者が、地方の生産者と直接やり取りしながら旬の食材を購入するCtoCプラットフォーム「ポケットマルシェ」を筆頭に、社会性と経済性を両立する事業を展開している。

 ベンチャー・スタートアップとはいえ似て非なる両社だが、実は共通点もある。創業当初から、広報PRに戦略的に取り組んでいるところだ。広報は売上を生まないと軽んじられがちだが、積み重ねが後に効いてくることもある。

 本記事ではyutori代表取締役社長の片石貴展氏と雨風太陽で広報を務める仲野脩氏、PR TIMES執行役員の三浦和樹氏の3名を迎えた。

 上場で話題をさらった2社が創業時からPR TIMESを活用し、どのような広報戦略を実行してきたのか、具体的な施策とあわせて聞いた。

広報PRは「弱者の生存戦略」

──スタートアップにとって広報PRとは、どのような重要性がありますか?
片石 「弱者の生存戦略」だと考えています。アイデア次第で、無名からでも一気に認知を得られる可能性があるためです。
 yutoriのアパレルブランドの成長には、タレント性のあるメンバーが不可欠です。創業当初から、どうすれば才能のある人の目に留まるかを考えながら、広報PRに取り組んできました。
 具体的な広報戦略は2つあります。1つ目は、毎年大きなニュースを発表し続けることです。創業を皮切りに、2年目に新規事業、3年目にZOZOとの資本業務提携、4年目に大型買収、5年目に上場のプレスリリースを配信しました。
 2つ目の広報戦略は、時代を読むことです。もともとyutoriのスタートアップ業界における人脈や認知度は皆無でした。そこで仕掛けたのが、時代を読んだ「逆張り広報」です。
 大半の起業家が「ビジネスで世界を変える」「時価総額1000億円を目指す」を掲げる中、yutoriの企業サイトやプレスリリースは詩的に仕上げました。
 2018年当時、好きなことを好きな人とやる価値観のトレンドがあったため、その方向性に振り切ってPR TIMESでプレスリリースを配信したところ、大きな反響を得られたのです。
仲野 スタートアップこそ広報PRが重要だと考えています。
 雨風太陽は、岩手県花巻市に本社を構えています。代表の高橋が東日本大震災で目の当たりにした、被災者と都市部から来たボランティアたちが、活力を与え合う姿から「都市と地方をかきまぜる」というミッションが生まれました。
 このミッションを雨風太陽の社員と同じ意気込みで拡散してくれる記者を社内では「応援者」と呼び、応援者を増やすため、全社で広報PRに取り組んでいます。

創業から上場までブレない“芯”

三浦 両社のプレスリリースは毛色こそ異なりますが、“ブレない芯がある”点で共通していると感じます。何か一貫して発信し続けていることはありますか?
片石 企業理念は、創業時から上場後の今でも貫き通しています。初期は「臆病な秀才の最初のきっかけを創る」を掲げており、今では「ハグレモノをツワモノに」と刷新しましたが、芯は変わらないままです。
 その結果、平均年齢24歳、そのほとんどがビジネス未経験者という異色ながらも才能に富んだメンバーで上場を果たしました。
──ブレない芯を見つけるコツはありますか?
片石 自分のルーツを探ることです。スタートアップの起業においてはトレンドや市場規模から事業を構想するケースも多いですが、自分がどう生きてきたのかにもう少し目を向けても良いのではと思います。
 僕のルーツは、15歳で初めて触れた原宿の古着やストリートカルチャーです。約10年後の24歳のとき、そのルーツを軸に起業しました。
 ブレない芯を持っていたから、付け焼き刃ではないメッセージが発信でき、yutoriに共感する仲間が増えたのだと思います。
仲野 雨風太陽の芯もyutoriと同じく企業理念で、「都市と地方をかきまぜる」ことです。地方における関係人口の増加とも言えます。
 実は関係人口は、高橋が書籍の中で初めて提唱したワードです。関係人口にもグラデーションがあります。例えば、特定の地域の名産品を定期的に取り寄せたり、毎年必ず旅行したりすることでも関係人口になれます。
 雨風太陽には「食べる通信」「ポケットマルシェ」「地方留学」などの事業がありますが、すべて関係人口のグラデーションを広げることにつながっているのです。
 今後は欧州を中心にトレンド化している、地方の農漁業や地元住民との交流を楽しむ「グリーンツーリズム」を展開し、さらに関係人口を増やしていきます。

採用やテレビ出演を叶えた広報施策

──上場を果たすまでに、効果的だった広報施策を教えてください。
片石 2019年に配信したリブランディングのプレスリリースです。
 資金調達とあわせて発表したものの、ネクストアクションを示せるわけではなくて。ひとまず「yutoriなら何か成し遂げてくれそう」という期待感を醸成することを目指しました。
 具体的には60人以上の社員や友人にyutoriのサインを書いてもらい、1つのロゴとして発表したのです。参加者たちはプレスリリースの拡散にも協力してくれて。
 結果、そのリリースでyutoriに興味を持った優秀な人材が、今では会社の中枢を担っており、採用に効果的な施策となりました。
──yutoriの何が、才能ある人を惹きつけているのか言語化できますか?
片石 自分たちが背負っているストーリーを意識し、言動に反映することです。僕たちが背負っているストーリーは「自分らしさを貫きながら、どこまで資本主義にチャレンジできるか」。
 これと同じ願望を抱えている人たちが応援してくれたり、僕らの言動から活力を得てくれたりするのだと思います。
三浦 「好きなことで、生きていく」というトレンドを再定義したのがyutoriの上場ではないでしょうか。yutoriの上場前まで「好きなことで生きられない自分は格好悪い」とネガティブなトレンドに傾きかけていた気がしていて。
 だからyutoriが、らしさを失うことなく資本主義社会で奮闘する姿に多くの人が胸を打たれ、Xでのプレスリリース投稿が何度もリポストされたことにもつながったのだと思います。
片石 YouTuberを筆頭に個人の生き方はアップデートされましたが、会社という組織単位のアップデートはされていなかった。yutoriはそのストーリーを背負ったのだと、今改めて実感しました。
──なるほど。雨風太陽の効果的だった広報施策を教えてください。
仲野 上場直後の広報施策です。地方でのまとまった露出を獲得することに大きな効果があると考え、本社を構える岩手県内で、どれだけ露出数を増やせるかにフォーカスしていました。
 当日は高橋と取締役の大塚が岩手におり、リリース直後から私が一斉に東北でご縁のあるテレビ局や新聞社に架電。その後の3日間、高橋たちが岩手や宮城、福島を行脚していました。
片石 M-1グランプリ優勝後のコンビみたいな。
仲野 まさにそうですね。岩手県から18年ぶりの上場を果たしたこともあり、岩手県の民放テレビ4局やNHK、新聞3紙にも取り上げてもらえました。放送直後は、テレビを見た人から岩手の街中で高橋に声をかけていただけることも。また、高橋に1か月半の密着取材もありました。
 この露出成果は、創業当時から応援者を増やし続けた結果だと思います。
 どんな形でもエグジットを見据えるスタートアップには、“ここぞ”の場面があります。そのインパクトを最大化するため、広報PRの予算を捻出し、創業時から積み上げておくのがおすすめです。

「僕らの言葉」をメディアが社会的翻訳

──会社のメモリアルなタイミングで、必ずPR TIMESを活用している両社。プレスリリースの効果を最大化するコツを教えてください。
片石 まず、メディアとPR TIMESの決定的な違いは、自分たちの言葉で語れるかどうかです。だからyutoriのプレスリリースは、10人中3人にしか理解してもらえなかったとしても、僕らなりのメッセージを大切にしています。
 PR TIMESでプレスリリースを配信すると、一定数のパートナーメディアに自分たちの言葉のまま掲載されることもありながら、取材してもらったりしてより伝わるかたちで翻訳してくれることがわかりました。
 上場後はIRも重要なコミュニケーションとなるため、自社の話題を月に5、6回発信し続けることで、一つひとつの出来事から、社会にyutoriがどういうことをやっているのか、ということを知っていってもらえたらなと考えています。
仲野 yutoriの10人中3人に伝えるリリースとは真逆で、雨風太陽のプレスリリースは読者全員に「なぜこの施策を雨風太陽がやるのか」を理解してもらうことを目指しています。
 プレスリリースで自治体連携や新サービスを発表することも、企業理念の関係人口を増やすことにつながるアクションだからです。
 PR TIMESというプラットフォームの信頼性や拡散性が強いため、プレスリリース経由の取材依頼も多くあります。

プレスリリースは「社史」になる

──PR TIMESを、どのような人に使ってほしいですか?
三浦 PR TIMESのミッションは「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」です。行動者とは、好きなことを追求して良いものをつくったり、一筋縄ではいかないパートナーシップを実現させたりした人などを指します。
 PR TIMESは、そんな行動者たちのストーリーが読める場所でありたいのです。
同社資料より作成
 利用企業のメリットに言い換えれば、PR TIMESの企業ページ自体が、透明性の高い“社史”になるため、ステークホルダーに対する説明コストを削減できます。
 透明性が高いのは、失敗も可視化されるためです。新サービスのプレスリリースを配信しても、撤退することもあるでしょう。
 ただ成功と失敗の両面が見えるからこそステークホルダーは、企業のV字回復力や強固な基盤を読み取り、関係を構築したいと思うのです。
──「行動者発の情報」という観点から、理想のプレスリリースの作り方を教えてください。
三浦 プレスリリースに登場するメンバーの顔ぶれが多様な企業は、対外的な高評価に加え、社員のモチベーション向上効果も得ている印象です。
 雨風太陽で言えば、高橋代表以外に仲野さんや地方の生産パートナーが登場しても良いですよね。
 役割を全うした人が、自分の功績が社史に刻まれる瞬間に、ワクワクできることもプレスリリースの魅力です。
片石 本当に社会的意義が高いサービスですね。yutoriはPR TIMESがなければ、上場までたどり着いていなかったと断言できます。
 会社の情報を発信できる場所は数多くありますが、メディアの目に留めてもらえる場所は希少ですからね。
 またプレスリリースは文章なので、誰でも配信できるメリットもあります。無名の起業家でも、アイデア次第で社会に広く認知してもらえる可能性があるわけです。
 yutoriの企業理念にも通ずるところで、若く才能のある名もなき行動者たちの、新たな物語を見てみたいです。
──創業2年は無料でプレスリリースを配信できるプログラムもありますよね。
三浦 社史は創業時がスタートなので、設立にあわせてプレスリリースを配信してほしいと思います。
 設立から2年経過するまでPR TIMESを月1件まで無料で利用いただける「スタートアップチャレンジ」を2015年から続けています。
 またプレスリリースの作り方や広報戦略に悩んでいる人を対象に、オンラインで、毎週3〜4回の「PR TIMES勉強会」を開催しています。
 時代に名を刻もうとする企業はぜひ、PR TIMESを、DAY1から活用してみてほしいと思います。