2024/3/4

自分らしく働く「タイムマネジメント」できていますか? 

 転職が当たり前になり、働く場所も時間も多様になった現在。何より大切になるのが、自分は何がしたいのか、何を目的に働くのかを考えることだ。
 自分のキャリアを主体的に描き、選んで行動し、働くことを通じてその人自身が感じる幸せや満足感を指す“はたらくWell-being”を実感するには、これまでの「はたらく常識」を捉え直す必要がある。
 本記事では、株式会社スードリー代表でフローリストの前田有紀氏と、株式会社 We Are The People代表の安田雅彦氏との対談を実施。“はたらくWell-being”を「時間」と「人」との向き合い方から考える。

大切なのは、組織と個人の対話

──まず率直に、“はたらくWell-being”と聞いてどんな印象を持ちますか?
前田 私はアナウンサーをしていた10年前に、自分にとっての満足や幸せはなんだろうとすごく考えた時期がありました。
 そこで導かれたのが、「自然が好きだから、自然に関わる仕事がしたい」という答えでした。
 仕事に対する考え方を“社会軸”から“自分軸”にシフトし、10年勤めたテレビ局を退職して花屋に転職しました。まさに“はたらくWell-being”を求めた結果だと思います。
安田 昨今は、少しでもこの仕事と関わりたいという自主的な意思が大事だと言われるようになり、それがビジネスをドライブするとわかってきましたよね。
 これから企業が注力すべきは、良い状態で働いてバリューを発揮したいという個人の主体的な意識を引き出して、会社のパーパスと一致させるための努力です。
 簡単ではないけれど、個人が“はたらくWell-being”をもってやりがいを感じ、生き生きと自分らしく働くことと、会社が進むべき方向性を一致させることが、これからの企業のあるべき姿じゃないかなと思います。
前田 そうですね。私は自分のWell-beingを目指して起業しましたが、従業員を抱えるようになると、売り上げだけでなく社員のやりがいや仕事の充実感も考えるようになりました。
 例えば、コロナ禍でオンラインビジネスが成長し、オンライン発送が4〜5倍に増えたのは売り上げとしては良かったのですが、顔の見えない相手にお花をお届けする件数が増えていき続ける中で、直接お客様とコミュニケーションを取れる場所が必要だと感じたのです。
 そこで、2021年に実店舗を構えました。
 経営を考えると固定費のかかる実店舗は勇気のいる選択でしたが、従業員がやりがいを持ってお客様に花を届けられるようになったので価値がありました。
 経営者として、働くみんなにとってWell-beingな選択をし続けたいと思っていますし、それを読み取る力をもっと持てたらいいなと思っています。
安田 それは本当に大事なことで、会社と個人の信頼関係づくりはこれから最もエネルギーを割く必要のある領域になると思います。
「会社はこう考えている、みんなはどう考えているか」という組織と個人の対話を続けるための機会や仕組みづくりは必須です。

心地良い時間の使い方を認知する

──前田さんは前職のアナウンサー時代と、起業して子育てをしながら働く現在では、時間の使い方が異なると思います。今は働く時間をどう捉えていますか?
前田 前職は仕事と暮らしの時間がはっきりと分かれていました。
 でも今は、保育園の送り迎えや小学校の行事などもあって、暮らしと仕事が折り重なるようにつながり、シームレスに行き来しています。
 経営者で自由度が高いから特殊かもしれませんが、暮らしと仕事がつながるのは子育て中の人にはよくあることかもしれません。
──その時間の使い方に違和感はないですか?
前田 むしろ心地良いです。これが私のWell-beingですね。
 また、限られた時間の中でいかに成果を凝縮できるかも重要なので、私は仕事の時間を3分類しています。
「現場の時間」、「デスクワークで経営を見る時間」、「全体像を考える時間」です。このバランスがいいと、より心地良い働き方ができていると感じますね。
安田 何が自分にとって一番心地良いかを認知しているのは素晴らしいですね。
 心地良く働ける時間の使い方は、一人一人の環境や状況、フェーズによって異なります。
 だから、「プレッシャーを感じる人がいるから夜20時以降のメール送信は禁止」といった一律のルールを作るのもナンセンス。
 僕が人事部長をしていたラッシュジャパンは柔軟な働き方が特徴で、ざっくり言うと「あなたがベストなパフォーマンスを出せる状態で働いてください、以上!」というのがワーキングポリシーでした。
 ゆえに、働く親の多くは子どもが寝静まる夜中のワーキングタイムにメールを送っているママさんスタッフは少なくなかったです。
 夜間のメール禁止なんてルールがあったら仕事ができないわけですよ。
前田 それ、めっちゃわかります!
安田 ただし、この働き方をする際に大事なのは、“あなたにはこの創出価値を求めています”という明確な目標や成果を定義すること。
 いくら心地良いからといって、「私は実績をほとんど出していませんが、今の働き方がいいです」というのはダメですから。

「朝が待ち遠しかった」理由は何か

前田 個人の“はたらくWell-being”を高めるコツがあるとしたら、何だと思いますか?
安田 今日までを振り返り、ランチも忘れて熱中していた瞬間や、朝が待ち遠しくて早く会社に行きたいと思った日があったとしたら、それは何が理由だったのかを考えることです。
 チームが素晴らしかったから、達成したらボーナスをもらえるから、社会をより良くできるからなど、さまざまな理由があると思います。
 どんなときに自分は機嫌良くはたらいていたのかを書き出してみると、自分のWell-beingは何かが見えてくると思います。
前田 私、起業前に花屋で3年間修業を積んだのですが、その期間がまさにそうでした。本当に楽しくて、最寄り駅に着いたらお店まで走って行くくらい。
安田 それはなぜですか?
前田 花が好きというのもありますが、ゼロからいろんなことを教えてもらい、インプットできる日々が楽しすぎたんです。
 前職のアナウンサーもやりがいはありましたが、10年も経つと仕事に慣れて、新しいことを吸収する機会もほとんどなくなりました。
 でも、違う世界に飛び出したら、何も知らない・できない自分がいたんです。請求書も出せない、収入印紙もわからない、レジ打ちも間違う(笑)。
 知らないことを一つ一つ教えてもらうのは楽しすぎました。
安田 前田さんは自分の知らない世界を知ることでWell-beingを高めるタイプの人なんですね。
 僕も同じで、僕が生きていて一番楽しい瞬間は、転職した初日の会議です。
前田 初日ですか!
安田 これまで4回転職したのですが、初日のことは日にちや曜日、天気など何もかも全部覚えているほどです。
前田 たしかに、私も駅からお店まで走りながら見ていた景色は今でも鮮明に覚えています。
安田 そうですよね。個人のWell-beingを高めるには、自分の心の声を聞くことに時間を使って、自分のWell-beingを認知することが大切。
 最初は、それが思い込みであってもいいと思います。
前田 私も前職で深く自己分析をして自分のWell-beingを認知し、転職、起業をしました。
 その結果、思いがけない自分にも出会えたんです。
 今までは受け身で人の目を気にする受動タイプだったのが、能動タイプに変わったというか。
 環境を変えたことで気づけた新しい自分なので、自己分析して認知した自分のWell-beingをアップデートすることも大事かなと思います。
安田 いいですね。自分を分析して過去の自分に成功の種を見つけ、新しい世界に踏み出す。
 すると、新しい世界で新しい自分に気づき、新しい成功の種が生まれた。
 ちょっとでも前に進んでいくと、気がついたら自分が本当に行きたいところにいるかもしれません。

自分らしく働くことを諦めない

──先ほど、前田さんは仕事の時間を3つに分けているとおっしゃっていましたが、なぜ3つに分けたのでしょうか?
前田 起業当初は現場が100%で、自分が現場に行って花を仕入れて納品していました。
 すると年度途中から「あれ、会計は大丈夫かな」と思うようになり、デスクワークの時間がないと会社が成り立たないことを実感したんです。
 だから、みんなに現場を任せてデスクワークをする時間を作りました。そのうち従業員が増えてくると、現場と経営だけでなく、会社の方向性や全体像を考える時間が必要になったんですね。
 そこで、カフェで本を読んだり海を眺めたりする余白の時間を作りました。この時間は思いがけないアイデアが浮かぶので、とても大切な時間です。
安田 なるほど。前田さんは自分を俯瞰して、自分を自分の上司に見立てて時間をマネジメントしているのですね。
──それは誰にでもできるのでしょうか?
安田 タイムマネジメントは努力すればできます。僕も新入社員の頃、上司から「1日を4つに区切って、それぞれ何をする時間かを決めて取り組みなさい」と言われました。
 すると、自分にとってどの時間の優先順位が高いのか、どの時間がWell-beingな時間なのかを意識できるようになるんです。
 組織人は当然やりたくない仕事もしないといけないから、自分にとって心地良く働ける状態を作るために、自分の仕事を客観的に見てタイムマネジメントするのは良いと思いますよ。
──とはいえ、「忙しい」を言い訳に、そんなこと考えられないという人は多いと思います。
安田 経営者と比較して、組織人はそれでもなんとかなるとは思います。
 だけど基本的には組織人も自分らしく働くためにはタイムマネジメントをした方がいいし、経営者はその環境をいかに整えるかを考えるべきだと思いますね。
前田 私が組織人だった頃は言われたことをやるだけだったので、今の自分なら違う働き方をするだろうなと感じることがよくあります。
 だから、組織人こそ自分らしく働くことを恐れないでほしい。あくまで自分が主体だということを忘れないでほしいですね。
安田 いい言葉ですね。自分らしく働くことを恐れない、諦めない。
前田 会社からのタスクが多い、こういう制度がない、など言い訳はたくさんできます。
 そうじゃなくて、自分らしく働くために自分にできることは何かを探していくだけでも、働く姿勢は変わると思っています。

人間関係を放っておかない

──自分らしく働くことを恐れない。それを体現したエピソードがあれば教えてください。
前田 私には7歳と3歳の子どもがいるので、夫が長期出張に出掛けてしまうと子育ても家事もワンオペで、仕事もままならない状況に陥ります。
 でもその事実を周囲にどんどん伝えると、助けてくれる手はたくさんあると感じていて。
 自分だけで抱え込むのではなく、周りの人との関わりの中で、助けてもらえることは助けてもらって自分らしく働いています。
安田 これは大事なポイントですね。信頼関係のある組織づくりをすると、子育てに限らず介護や体調不良など、何か困ったときに頼れますし、Well-beingにもつながります。
前田 そうですね。昨年は母の介護もあって、本当に時間がなかったのですが、チームのみんなから「今は大変だろうから任せてください」と言われ、助けてもらった時期がありました。
 ライフステージの変化によって、誰にでも働く時間に制限がかかってしまうことはあると思います。
 誰しもが助け合う必要があるという前提で、信頼関係を築く必要があると思っています。
安田 これからの企業の鉄則は、「信頼関係を努力して作る」「人間関係を放っておかない」ことです。
 自分と他人は違う人間だから、他人とは分かり合えない前提でコミュニケーションを取り、その上で信頼関係を作っていく。
 そのために必要なのは、まずは自分がどんな人間かを開示し、他人を理解して受容すること。
前田 私は、人間関係で違和感やストレスを感じたとき、いったん感情を切り離すために数日置くようにしています。
 すると客観的になれるから、伝えるにしても伝え方が変わってくるんです。
 職場の空気がいつも和やかであるように、言い方や言葉尻は気をつけて接しています。
安田 前田さんは自分のスタイルを認知していて素晴らしいですね。
 人との接し方は、仕事だけではなく人生全体に影響を及ぼすものなので、誰もが考える必要があると思います。

はたらく幸せと人生の幸せは同義語

──人生における時間の使い方に関して、大切にしていることを教えてください。
安田 日本人には長いこと、働く=苦痛、大変、という概念がありました。なぜなら、終身雇用が前提の社会だったから。
 でも今はその前提がないのだから、今この瞬間が自分にとって幸せであり、自分の将来に意味があると思える働き方、時間の使い方をしたら、働く幸せと人生の幸せは同義語になりますよね。
 働くことで人生の幸福を感じる構図を作れたら、豊かな社会になると思っています。
前田 まさに“はたらくWell-being”ですね。
 今の私にとって、働くことと暮らすことはつながっているから、働くことは生きることなんです。
 だから、自分にも周りにも心地良い状態を作り出すことを大切に、日々奮闘しています。
──自分の働き方を振り返るために、明日から使えるベストな「問い」があれば教えてください。
安田 僕はよく仕事に行き詰まっている人に「自分が自分の上司だったら、今の自分にどんな声をかけるか」とアドバイスします。
 誰もが仕事に何かしらの悩みを持っているから、俯瞰するためにも、自分に問うてみるのはいかがでしょうか。
前田 その視点すごくいいですね。
 私は、好きなものを食べる、好きな映画を観るなど、自分の“好き”を集めてみることで、自分と向き合う一歩が始まるのかなと思っています。
安田 まさに、キャリアの成功は「欲望に忠実なれ」ですね!